ウクライナのゼレンスキー大統領の日本の国会での演説は、日本人と日本国の政治的見識が一貫して正しいかどうかを測る、戦後最大の試練の一つになる可能性がある。

　　

ウクライナのウォロディミル・オレクサンドロヴィチ・ゼレンスキー大統領が、プーチン政権によるウクライナ侵略をうけて、日本の国会で2022年3月23日にオンライン演説を行なうことが決まっています。それについての私の立場、というか、危惧をその演説の前に記録しておくことがこの記事の目的です。

それをすでに記事タイトルで端的に書いてしまいました。「ウクライナのゼレンスキー大統領の日本の国会での演説は、日本人と日本国の政治的見識が一貫して正しいかどうかを測る、戦後最大の試練の一つになる可能性がある。」と。

どういうことか説明します。

まず、背景として、現在、防衛に関する日本人の平均的な感覚のかなりの部分は次のようなものだと思うのです。

「日本を攻撃し侵略し蹂躙しようとする国がある。日本は被害国だ。日本を守らなければならない。」

このような感覚には、日本がかつて大日本帝国だった時にアジア諸国の広い範囲を攻撃し侵略し蹂躙したことへの反省的意識はあまりありません。あるいは、かなり消え落ちています。あるいは、知識として頭の片隅にはあっても、それを血肉化してはいません。仮に、日本に攻撃され侵略され蹂躙された過去があったとすれば、そのような被害者的歴史観を持つことは理解できます。しかし、現実には、日本がアジア諸国を攻撃し侵略し蹂躙した過去はあっても、日本がアジア諸国によって攻撃され侵略され蹂躙された過去はありません。（元寇のような大昔の例はありますが、元寇は成功していないし、規模も小さいし、何年、何十年と継続したわけでもないので、日本のアジア侵略と比べるのも滑稽で無意味です。）

日本がアジア諸国によって攻撃され侵略され蹂躙された過去はないし、現在アジア諸国によって日本がアジア諸国によって攻撃され侵略され蹂躙される国際的文脈もありません。そのように冷静に考えることが今の日本人にできているか、心もとない状況です。

毎年8月15日になると、戦没者追悼式典が政府によって行なわれますが、アジア諸国の数百万、数千万の被害者の重さを全日本人が真剣に受け止めているでしょうか。そのようには見えないというのが正直なところです。現実に、日本の歴史教科書からは、戦争加害についての反省的記述は、日本会議系政党である自民党の介入や文部科学省の事実上の検閲によってどんどん消され、薄められています。それに伴って、平均的日本人の頭からは戦争加害についての知識も意識も消えつつあります。その結果として、日本は第二次世界大戦の被害国だという感覚すら今の日本人にはあるように感じられるのです。そのことを裏付ける例はいくらでもあげることができますが、その典型的な最近の例は、プーチン政権からのウクライナ侵略を受けてのウクライナのゼレンスキー大統領の発言の中で大日本帝国の真珠湾奇襲に言及した時、これに反発する日本人からの声が目立ったことです。

さらに、大日本帝国の暴虐を苦い教訓として今後の日本の暴走に歯止めをかけて諸外国に日本は大日本帝国から生まれ変わったことを示す憲法9条を軽んじる動きは近年日本国内で、特に自民党内でますます活発になっています。

加害者であることを忘れて被害者意識をつのらせている日本は、ちょっとした扇動によって、後戻りのできない軍事優先主義に日本という船のオールを全面的に任せてしまう瀬戸際にあるというのが私の見立て、あるいは危惧です。防衛のための軍事優先主義のつもりでも、それが攻撃側の軍事優先主義に徐々に変質することがないと言えるでしょうか。憲法9条を軽んじる自民党が圧倒的な勢力を国会に持ち続けている現状で。私のこの予測が杞憂であることを心から願いますが、日本の世論の動きを見ていると、私には楽観することはできません。

さて、このような背景と状況を持つ日本で、プーチン政権の侵略を受けたウクライナのゼレンスキー大統領はどのような演説を行なうでしょうか。

プーチン政権の暴虐について批判的に語るでしょう。それはその通りであり、異議無しです。

そして、支援を求めるでしょう。軍事的支援かもしれないし、ウクライナ現地への人道的支援かもしれないし、ウクライナ難民を日本でも受け入れてほしいという要請かもしれません。それらすべてかもしれません。その時に、自民党政権は、ゼレンスキー大統領の要請に乗っかる形で、人道的支援のようなふりをして軍事的支援に乗り出す危険性はあるいうのが私の危惧です。憲法9条があることなど無視して。

そうなると、日本人の多くは、かつて大日本帝国という今のプーチン政権と同じ立場でアジア諸国を侵略したことを忘れて、ウクライナという被害国の立場に身を置いて、防衛のためという感覚で、対プーチン戦争に積極的にかかわっていこうという方向に流されるかもしれません。

記事タイトルで「日本人と日本国の政治的見識が一貫して正しいかどうかを測る、戦後最大の試練」と書いたのは、日本国と日本人が、憲法9条にもとづいて非軍事的な貢献に徹することができるかということが問われるという意味です。ウクライナの側に立って戦争に参加するという感情に流されないか、自民党がこの状況を利用して日本を再び大日本帝国の方向に導くことを日本人が拒否できるのか、という試練にさらされるのではないかという意味です。

ウクライナへの支援をするにしても、何をすべきあについて冷静な思考が必要です。人道的支援が重要なのであって、軍事的支援はできないと毅然としていられるのでしょうか。本当に心配です。

仮に日本の世論がウクライナ支援のためとして思慮に欠ける軍事行動路線への支持に衝動的に向かったとしても、それについていかない冷静さを持ち続けるという歯止めを私は自分にかけたいと思います。これはそのための記事です。だから、ゼレンスキー大統領の演説の前にこれを書いておきたかったのです。


私の記事だけでなく、宮武嶺さんの「Everyone says I love you !」ブログの記事もごらんください。私は自分だけの意思表示をしたかったので、宮武嶺さんの記事をほとんど読まずに今回の記事を書きましたが、趣旨は同じようなものでありながら、私の記事よりも良いと思いますので。

●Everyone says I love you !
■戦争当事者のウクライナのゼレンスキー大統領に日本の国会で演説させるのは、憲法９条を持つ平和国家日本として非常に危険。「参戦」を求めてくる同大統領の「煽り」に浮足立つくらいなら今からでも断るべきだ。
https://blog.goo.ne.jp/raymiyatake/e/27fb1bb30117027d222146ebf9600e9b
2022年03月18日

■ウクライナのゼレンスキー大統領国会演説に備える。どんな「突風」が吹いても落ち着いて。日本は憲法９条を持つ平和国家で他のＧ７の国々のような「普通」の国にはならないという断固たる意志を示そう。
https://blog.goo.ne.jp/raymiyatake/e/3191e4c3a420702bc9d3d33f2daaf1cc
2022年03月20日


もう一度繰り返します。今回の記事は、不安定な国際状況の中、自分の核となる原理原則を失わないように意識的に自分に歯止めをかけ、冷静に判断するためのものです。この危惧が杞憂であることを願いながら。

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