2008年版「労働経済白書」を雇用環境改善の手がかりにしたい。

7月22日に、2008年版（平成20年版）労働経済白書が厚生労働省から発表されています。読み方、使い方によっては、なかなか有益な内容を含む報告であると思われますので、ここで紹介したいと思います。

無謬（むびゅう）神話の中で生きている官僚の作る文書としての限界はありますが、今年の白書は、労働者の置かれている状況についてここ数年の労働者側の実感に沿った内容を含む報告だとも言えます。そのような報告書を中央官僚が作るというのはちょっと意外で、良い意味で驚きでした。中央官庁の官僚が作る白書の類は、国民を巧みにごまかして政府と権力にだけ都合の良い結論を導き出す文書がかなり多いと思っていましたので。（失礼！）まず、公僕としてこれからも良い意味で納税者を驚かせる仕事をしてほしいと注文をつけさせていただきます。それが公僕が国民から信頼を得る唯一の道です。そういう良い仕事と引き換えに納税者は税金を払うのです。高級官僚のみなさま、よろしく。

※　無謬（むびゅう）神話：　官僚のすることに間違いはないという神話。

●厚生労働省ホームページ

■平成20年版　労働経済の分析＜要約＞
－働く人の意識と雇用管理の動向－
http://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/08-2/index.html

■平成20年版　労働経済の分析
－働く人の意識と雇用管理の動向－
http://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/08/index.html

（ファイルは上の目次ページに貼られたリンクから行けるPDFファイルになっています。）

内容については、白書そのものを読むのがベストですが、下の二つのブログ記事がよくまとめて批評していると思いますので、ご案内します。

●世界の片隅でニュースを読む
「反撃の書」としての２００８年版「労働経済白書」
http://sekakata.exblog.jp/7331800/

●瀬戸智子の枕草子
労働白書と消費税
http://ts.way-nifty.com/makura/2008/07/post_3d24.html


さて、上で今年の白書を少しほめたのですが、この白書の持つ「限界」について私が思ったことを付け加えたいと思います。そのためには、今年の白書ではなく、過去の白書から、雇用の非正規化が多くの職種について政策として推進されはじめた頃のものを見るのがよいと思います。

2004年（平成16年）版労働経済白書なんかどうでしょう。そこから、「雇用をめぐる経済社会の変化」（←pdfファイルです）というところを見てみます。総論のところですが、こんな書き方がされています。

少子高齢化、生産年齢人口の減少など人口構造の変化等を背景に、高齢者や女性の就業者に占める割合の高まりなどの変化が生じている。また、経済のグローバル化や情報通信技術の革新、サービス経済化など経済社会が変化してきている。
これらの変化は、就業者構成においては第三次産業の割合を高め、職業構造においても専門的・技術的職業従事者やサービス職業従事者の増加をもたらしている。また、企業が労働者に求める能力も変化しており、より専門性の高い人材が求められるようになっているとともに、非正規雇用が増加するなど就業形態の多様化が進んでいる。
経済社会が変化していく中で、今後、適切に人材の高付加価値化を図ることが求められる。

（引用ここまで）

そして、各論として「就業形態の多様化」という一節にはこんなことが書かれてます。

就業形態については、1997年以降、正規の職員・従業員は減少傾向で推移する中で非正規の職員・従業員は増加しており、雇用者数に占める非正規の職員・従業員数の割合は2003年平均では28.1%を占めるに至っている。産業別にみると、「卸売・小売業、飲食店」、「サービス業」等において日正規職員・従業員の割合が高い。
今後も、情報通信技術の革新やサービス経済化の進展などの経済社会の変化による影響や、専門的人材や即戦力の確保、人件費削減や雇用における柔軟性の確保といった企業のニーズ、労働者のニーズに対応するため、就業形態の多様化が進むことが予想される。

（引用ここまで）

ここに書かれているような非正規雇用の増大というはっきりした傾向は、政府与党と産業界・財界が積極的にすすめた政策の結果として出てきているのであることをはっきりさせたいと思います。この白書の文章を読むと、まるでひとごとのように、あるいは自然現象であるかのように書かれていて、そこに、労働政策をつかさどる役所として本来持つべき責任感が薄いという印象を持ちます。

まさに、「専門的人材や即戦力の確保、人件費削減や雇用における柔軟性の確保」ということを「企業のニーズ」としてあげたあとに、何の具体的説明もない「労働者のニーズ」という言葉がはさまれるところに、私はこの白書の2004年当時の限界を見ます。「専門的人材や即戦力の確保、人件費削減や雇用における柔軟性の確保」とは、身も蓋もない言い方をすれば、「雇用責任なしで安価な労働力をつまみ食いしたいという企業のあくなき欲望の実現」ということですが、それとペアにできる「労働者のニーズ」なんてないと思います。労働者の本来のニーズとは、「誠実に働けば健康で文化的な生活のできる給与や社会保障が与えられる」ということでなければならないはずですが、白書に書かれた「企業のニーズ」は労働者のニーズを否定するものです。

...と書くと、「労働者が自由な働き方を求めるというニーズがある」と主張する向きがあると思いますが、だからといって、本当は正規雇用で働きたい人に細切れの非正規雇用を強要するのは生存権の侵害に直結しますし、労働者が自由な働き方を求めたとしても生活が成り立たないような低い賃金しか与えないことも生存権の侵害です。

このように、自らの政策の重大な結果をひとごとのようにながめる無責任ぶり、「雇用責任なしで安価な労働力をつまみ食いしたいという企業のあくなき欲望」をひそかに応援する反国民的姿勢がかいま見える2004年の白書のお気楽ぶり、責任感欠如ぶりにくらべれば、2008年版の労働経済白書は、辛口の「世界の片隅でニュースを読む」さんが「反撃の書」と位置づけるくらいにはずっとましではあります。

しかし、自分たち中央官庁の官僚が産業界・財界の要望をとりいれて推進している政策のせいで今の労働環境の無残さがあるという責任感や反省が官僚組織の中で本物にならなければ政策の軌道修正はできないとも思います。

官僚がそのような責任感を持てるようにするにはどうすればいいか？それはやはり、太田農相が推奨する「やかましく」（笑）消費者、有権者、納税者が政治家や行政に注文をつけ続けるしかないでしょう。今の労働環境悪化に不満を持っているなら、この2008年の労働経済白書と、できれば過去の労働経済白書も数年分さかのぼって読んでみることは、政治や行政への「反撃」の材料を得るために意義が大きいと思います。

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●Like a rolling bean (new) 出来事録
■2008-08-20　東京都が密室で技術会議初回開催・説明会では水道水の近くにシアンがあっても問題ないと？
http://ameblo.jp/garbanzo04/entry-10129375760.html

■2008-08-21　イシハラ氏と電通とそしてオリンピックと（33年前の都知事選：日経『私の履歴書』より）
http://ameblo.jp/garbanzo04/entry-10129698842.html

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