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死刑になりたくて殺人を犯す人たちがいるという事実



2008年5月10日の朝日新聞の社会面にあった、「『死刑願望』凶行多発」の記事。

「死刑になりたい」という動機で見知らぬ人を襲う容疑者が相次いでいるという記事です。以下に要約します。

その例として、2001年6月の大阪府池田市での児童8人殺害事件、2002年8月の山口県宇部市で女が児童三人を刃物で襲った事件、2004年5月に金沢市の民家に高校生の少年が侵入して金づちで姉妹を殴打した殺人未遂事件、2006年3月の川崎市のマンションから小3男児の投げ落とし殺害事件、2007年9月の広島市の平和記念公園での男性刺殺、2008年2月の東京都新宿区の神社での殺人未遂、2008年3月の茨城県土浦市でのJR荒川沖駅8人殺傷事件、2008年4月の鹿児島県姶良町でのタクシー運転手殺害があげられています。

精神医学では、他人の力を借りて自らを死に追いやることを「間接自殺」と呼ぶそうで、教義で自殺を禁じるキリスト教圏では当てはまるケースが多いが、日本では珍しいとされてきたそうです。

犯罪精神医学が専門の影山任佐(かげやまじんすけ)・東京工業大教授は、「『死刑になりたい』との動機が日本で目立つようになったのは、自殺の多さと無関係ではないだろう」、「自殺を願う人は生命を尊重する心に欠ける。だから、他人を巻き添えにした間接自殺が起こり得る」、「死刑執行や死刑判決が大きく報じられ、『殺せば死ねる』との学習効果で反抗が引き起こされている可能性がある」、「国として自殺対策に本気で取り組むことが必要だ」と指摘しているそうです。

一方、死刑制度存続の立場である椎橋隆幸・中央大教授(刑法)は、「間接自殺は昔からあった」、「警察が公表し、報道されることで、増えているような印象を持つのではないか」、「死刑制度は罪と罰を均衡させ、社会の正義を守る観点で必要だ。死刑が動機の事件が起きたから死刑を廃止すべきだという主張があるなら、乱暴な議論だ」という意見。

記事の要約は以上ですが、私の考えは次のような感じです。

間接自殺が昔からあったか、実際に近年増えているのかどうか、それは過去の犯罪統計や犯罪白書にでもあたらないとわからないことですが、実際に死刑になりたくて殺人を犯す人がいるという事実はあるわけです。

死刑制度に私がなぜ反対であるか、今まで「死刑廃止」カテゴリーのたくさんの記事で書いてきましたので、それについては長々と繰り返すことはしません。しかし、死刑存置の理由としてあげられてきた「死刑は凶悪犯罪抑止力がある」という説は、死刑になりたくて殺人を犯す人たちがいるという事実の前で説得力を減らすことになります。

実際、「死刑があるために凶悪犯罪を思いとどまる例があるならばそれは犯罪抑止力として評価すべきで、そのために死刑を存続することは理由がある」という趣旨の意見も聞いたことがあります。(「お玉おばさんでもわかる政治のお話」の死刑廃止論カテゴリーのどこかの記事のコメント欄だったでしょうか...。)個別にそのような例が報告されたことがあった(ある)のかどうか私は知りませんが、こちらの「犯罪抑止議論」のところにもあるように、たくさんの統計上の研究・調査では死刑の犯罪抑止力については証明されてはおらず、無いと考えるのが通説になっています。はっきりさせたければ、死刑制度ゆえに思いとどまった件数と死刑制度ゆえに間接自殺が発生した件数とを比べるしかありませんが死刑制度ゆえに犯罪を思いとどまった事例って、どうやって調べるのでしょうね。そのような調査・研究は寡聞にして知りませんので、ご存知の方がいらっしゃったら教えていただきたいところです。でも、「死刑制度がなければ凶悪犯罪に走っていたが死刑制度ゆえに思いとどまった件数」は「死刑制度ゆえに間接自殺が発生した件数」よりも十分に多いと根拠と自信をもって言える方はどのくらいいるでしょうか。

私の言いたいことをまとめると、仮にそのような抑止効果のある個別の例があったのだとしても(実際には非常に少ないと想像しますが)、それとは逆に、死刑制度があるがゆえに起こされた殺人の例が現実に「間接自殺」という専門用語ができるくらいに多いのだから、「死刑には凶悪犯罪抑止効果がある」という主張の説得力は大きく減ると言ってよい、ということです。

そして、犯罪を減らそうとする施策を死刑にだけ求めることはどんなに良く言っても不十分、普通に言って不適切、強く言えば誤っている、と思います。



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3件のコメント

[C3599]

今頃になってマスコミがそんなこと認めてもね。
国際的には常識事項なのだから、認めるなら認めるで、今まで抑止論宣伝のために隠していたこと、ウソをついてきたことについて、ちゃんと謝罪してもらわないと。
  • 2008-05-24
  • 投稿者 : Runner
  • URL
  • 編集

[C3606] 死刑と国家

この記事なら私もよく覚えています。そして、椎橋隆幸・中央大教授の「死刑制度は罪と罰を均衡させ、社会の正義を守る観点で必要だ。」という御意見を読んだ時にふと思ったのですが、死刑制度の存続にこだわる人々のうちのある種の人々は、個々の犯罪者に対して刑罰が与える影響がどうというよりも、「国家の権威」というものにこだわっているのではないかという気がました。

つまり国というものは「国民の生殺与奪」を握っていていてこそのものなのだと。もちろん、いくら国家と言えど、何の罪も犯していない人を勝手に殺すことは出来ませんから、あくまで重大な罪(規則違反)を犯した人に対してではありますが、国家には国民を殺す権利もある。そのことを示してこそ、権威が保てる、そういう意識があるのではないかと思いました。そうした視点に立つならば、いくら死刑志願の犯罪が増えようと、死刑が犯罪抑制になろうがなるまいが、国家として死刑を行なうことには意義があるでしょう。むしろ、必要なことだとさえ言ってもよいかもしれません。

そしてそのような国家であれば、一旦、戦争ともなれば、国は国民を徴兵し、死地に赴かせる権利もあれば、「国体護持」ないし、「国益」のためには一部の国民を見殺しにすることも当然ありうる(もしかしたら、平時でも)・・・・ということにもなるのではないか。

もちろん、これは私のふと思いついただけの“妄想”であり、ましてや、簡略化されたコメントしか載っていない椎橋教授のお考えがどのようなものであるかなどは、これだけで測れるものではないのは言うまでもありません。
  • 2008-05-25
  • 投稿者 : ほるとの木
  • URL
  • 編集

[C3637] 毎日新聞にも同種の記事

死刑になりたい:なぜ?凶悪事件、犯行動機で供述<上>
http://mainichi.jp/select/wadai/news/20080528mog00m040024000c.html
死刑になりたい:なぜ?凶悪事件、犯行動機で供述<下>
http://mainichi.jp/select/wadai/news/20080528mog00m040025000c.html
  • 2008-05-29
  • 投稿者 : ゴンベイ
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Author:村野瀬 玲奈
日本の民主主義化運動のため、国会議員、行政機関、マスメディアに主権者、納税者、生活者の声を届けるお手伝いをするサイバー政治団体(笑)「世界愛人主義同盟」秘書。護憲派アマゾネス軍団労働組合所属(笑)。派遣秘書としてこちらにもときどき勤務(笑)。
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