「ペルランパンパン」 バルバラ （不定期連載「世界の反戦歌・反戦詩から」） （2015年11月27日、パリ、犠牲者追悼式典）

　　

「世界の反戦歌・反戦詩から」と副題をつけた不定期の連載記事をときどき続けています。今回は、フランスの伝説的女性歌手、バルバラ（1930 - 1997）の1972年の作品、「ペルランパンパン」です。

なぜこの歌を取り上げるか。それは、この歌が2015年11月13日にパリで起こされた自爆攻撃テロの犠牲者を追悼する2015年11月27日のフランスの国家式典でこの歌（ともう一人の巨匠のもう一つの名歌）が鎮魂歌として歌われたからです。歌ったのは、ソプラノ声楽家、ナタリー・ドゥセー Natalie Dessay （ナタリー・ドゥセ、ナタリー・デセイ）です。

まず、式典についてのフランスのニュース報道および式典全体の映像はこちら。歌、犠牲者名の読み上げ、フランソワ・オランド大統領のスピーチ、フランス国歌演奏が含まれています。私もここで改めて犠牲者への追悼の意を表します。

●YouTube
Evénements - Hommage national aux victimes des attentats
https://www.youtube.com/watch?v=hVUYb4YYORk

その中で、ナタリー・ドゥセ―がバルバラのこの名曲「ペルランパンパン」を歌っています。歌詞を紹介する前に、「ペルランパンパン Perlimpinpin」という謎の言葉の意味を説明します。「poudre de perlimpinpin」という言葉、つまり「ペルランパンパンの粉」という熟語で使われる言葉で、「あらゆる痛みを鎮めるとして香具師（やし）が売る粉薬」を意味します。転じて、「奇跡のような効果を期待させるが実際には効果のないニセの解決策」の意味として使われるのです。

■ペルランパンパン　Perlimpinpin

　　詞・曲・歌　バルバラ

誰のため、どのように、いつ、なぜ？
誰に対して？どのように？何に対して？
あなたがたの暴力はもうたくさん
あなたがたはどこから来たの？
あなたがたはどこに行くの？
あなたがたは誰？
あなたがたは誰に祈りをささげるの？
お願い、静かにして
誰のため、どのように、いつ、なぜ？
もし絶対に誰かに何かに敵対しなければならないのなら
私は人気のない丘の上で
沈む夕陽に賛意を示す
私は深い森に賛意を示す
なぜなら泣いている子どもは
どこの土地の子どもであっても
泣く子どもに変わりないのだから
なぜならあなたがたの
銃の先で死ぬ子どもは
死ぬ子どもに変わりないのだから
二つの無垢な存在のどちらかを
選ばなければならないなんて、なんてひどいこと！
子どもの時期の笑い声を
敵にするなんて、なんてひどいこと！
誰のため、どのように、いつ、どれだけ？
誰に対して？どのように、どれだけ？
生きる意欲を失うほどに
水の味を忘れるほどに、パンの味を忘れるほどに
バティニョール小公園の
偽薬がどんな味がわからなくなるほどに
何のためでもなく、ほとんど何のためでもなく
ただあなた方と一緒にいるためだけでいい
咲きかけの一輪のバラのために
呼吸のために
自然な息吹のために
震える庭園のために
何も持たずに
だけど情熱的に
激しく何かを言いあうこともなく
だけど、相手に与える陶酔だけを
何も持たない豊かさを
真実だけしか持たずに
すべての富を手にする
詩について語ることはしない
野生の花を踏みつぶしながら
詩について語ることはしない
夜明けに幸運がめぐってくることのなかった
灰色の壁の中庭の奥で
すべてをさらけ出す
誰に対して、どのように、何に対して？
誰のために、どのように、いつ、なぜ？
生きる意欲を取り戻すために
水の味を取り戻すために、パンの味を取り戻すために
そして、バティニョール小公園で
偽薬の味を思い出すために
誰も敵にせず、何にも敵対せず
誰も敵にせず、何にも敵対せず
だけど、すべての咲いた花のために
呼吸のために
自然な息吹のために
震える庭園のために
そして、情熱的に生きて
優しさの火だけで生きて
何も持たない豊かさを
真実だけしか持たずに
すべての富を手にする
詩について語ることはせず
詩については語らずに
野生の花を生かして
夜明けに幸運がめぐってくることのなかった
灰色の壁の中庭の奥で
すべてをさらけ出す
生きる
生きる
優しさとともに
生きる
そして陶酔しながら
与えよう

（翻訳引用ここまで）

解釈の難しい語句もありますが、強引に日本語にしてしまいました。私の詩的表現力の足りなさに恥じ入るばかりですが、ご了承ください。

この歌、「反戦歌」に強引に分類してしまいましたが、要するに「非暴力」の歌です。とはいえ、「銃に撃たれて死ぬ子ども」への言及がありますから、武器という暴力を行使することへの抗議が含まれていると解釈して間違いはありません。バルバラ自身のアーティストとしての非暴力的な感受性に忠実な内容の歌です。

では、ナタリー・ドゥセ―の歌だけを抜き出した映像を見ていただきましょう。

●YouTube
Hommage aux victimes des attentats : Natalie Dessay chante « Perlimpinpin » de Barbara
https://www.youtube.com/watch?v=HpW93H3LlU4

静寂の中、訴えかけるような彼女の歌声が伴奏のピアノとともに響きます。2015年11月13日の犠牲者への追悼にふさわしい歌唱でした。

また、ついでに付け加えるなら、うちのブログで以前、この「ペルランパンパン」の作者バルバラの別の歌を以前取り上げたこともあります。こちらです。

■「ゲッティンゲン」　バルバラ　（不定期連載「世界の反戦歌・反戦詩から」）
http://muranoserena.blog91.fc2.com/blog-entry-1524.html
2009/11/24 12:00

この「ゲッティンゲン」もやはり、フランスとドイツが敵同士であった時代のことを念頭に、「（フランスの）パリであっても（ドイツの）ゲッティンゲンであっても、子どもたちはどこでも同じ」と歌われており、「ペルランパンパン」の「あなたがたの銃の先で死ぬ子どもは死ぬ子どもに変わりない」という句と響き合っています。アーティスト、バルバラの暴力否定の思想、感受性は一貫していることがわかっていただけると思います。したがって、暴力否定の思想、感受性を持つバルバラのこの歌「ペルランパンパン」をこの追悼式典にもってきたことはこれ以上ない選択であったと言えます。

...と、ちょっとひっかかることがあります。それは、フランソワ・オランド政権がシリアへの空爆をもってパリで行なわれたテロ行為への対応としていることです。実際にすでにフランス軍はシリアへの空爆を実行していますし、この追悼式典の中の大統領演説でも間接的で控えめながら一言触れられています。次のリンクはフランス大統領府のサイトにアップロードされている、大統領演説だけを上の式典動画から抜粋したものです。

●Présidence de la République
DISCOURS À L'OCCASION DE L'HOMMAGE NATIONAL AUX VICTIMES DES ATTENTATS DU 13 NOVEMBRE 2015
http://www.elysee.fr/videos/discours-a-l-occasion-de-l-hommage-national-aux-victimes-des-attentats-du-13-novembre-201/

この演説の中で、オランド大統領は確かにこう言っています。

"A vous tous, je vous promets solennellement que la France mettra tout en œuvre pour détuire l'armée des fanatiques qui ont commis ces crimes, qu'elle réagira sans repli pour protéger ses enfants."
（訳「みなさん全員におごそかにお約束します。フランスはこの罪を犯した狂信者たちの軍を破壊するためにあらゆる手段をつくし、後退することなくフランスの子どもたちを守るために対処します。」）

犠牲者追悼の文脈ですし、政府として国民を守る意思を示した一文ですから、大統領がこう言う気持ちや必要性は理解できます。また、この一文が必要以上に復讐を誓うような言葉づかいでなかったことは幸いでした。しかし、現実に、フランス軍が行なっているシリアなどへの空爆はISの首謀者筋の何人かを殺害し、ISの軍の一部を破壊しているのかもしれませんが、それと同時に、フランス軍による空爆は、中東の罪のない一般市民や子どももおおぜい殺害しています。

「ISの銃の先で死ぬパリの子どもも、フランス軍の空爆の下で死ぬシリアの子どもも、死ぬ子どもに変わりない」のではないでしょうか。犠牲者追悼のために歌われたこの歌の作者バルバラが今も存命であったなら、たぶんそう表明してフランス軍によるシリア空爆に反対したと私は想像します。

「ゲッティンゲン」の歌にもこのような歌詞があります。

流血と憎悪の時代に
二度と決して戻りませんように

（中略）

戦闘の警報が鳴る時がきて
もしも再び武器をとらなければならなくなったとしたら
私の心は一粒の涙を流すでしょう

（引用ここまで）

オランド政権がシリアを爆撃している今、まさにこの歌詞がぴたりと当てはまるではありませんか。

西欧諸国による爆撃による中東でのそのような無辜（むこ）の市民の犠牲が、ISのような「狂信者」が生み出される重要な背景になっていることは何度でも指摘せざるをえません。たとえ、仮にシリア全土やISがいるとされる地域全域とそこにいる全住民を一瞬で殺し尽くしたとしても、別のところから別のテロ組織が生まれてくること、暴力が暴力を生むことを、私たちは思い出さなければならないのです。

この歌をこの追悼式典のために選んだのが誰かは知りません。大統領自身か、閣僚の誰かか、スタッフか。歌の選択は正しかったのですが、フランス政府としての対応は問題を解決することはないどころか、さらに泥沼を招く可能性が高いと言わざるをえないのです。

この「ペルランパンパン」という歌、以前初めて聞いた時に、タイトルの意図するところがわからなかったのですが、ここでわかったような気がしています。「暴力に暴力で対応することは、『奇跡のような効果を期待させるが実際には効果のないニセの解決策』である」という意味が込められているのではないでしょうか。オランド政権は、追悼式にこの歌を的確に選んだことによって、すでに亡くなっている芸術家から皮肉にも自らの政策を批判される形となったといえるでしょう。そのことに思い至っているフランス人は、オランド政権の中の人たちも含めて、あまり多くないようですが...。

なお、2015年11月27日のこの犠牲者追悼式では、フランスのポピュラー音楽界の別の巨匠によるもう一つの歌が鎮魂歌として歌われています。ここで合わせて紹介させていただきます。これです。

●YouTube
Hommage national : Camélia Jordana, Yaël Naim et Nolwenn Leroy chantent Jacques Brel
https://www.youtube.com/watch?v=dme3Oj99iic

ナタリー・ドゥセ―よりも一回り以上若い3人の女性歌手、カメリア・ジョルダーナ（向かって左の人）、ヤエル・ナイム（ギターを持っている人）、ノルウェン・ルロワ（真ん中の人）による、ジャック・ブレル（1929 - 1978）の作品「愛しかない時」です。

実はこの「愛しかない時」は偶然にも以前うちのブログで取り上げたことがありました。

■「愛しかない時」　ジャック・ブレル　（不定期連載「世界の反戦歌・反戦詩から」）
http://muranoserena.blog91.fc2.com/blog-entry-3938.html
2012/11/30 12:00

もう一度この記事をお読みいただけると嬉しいですが、この「愛しかない時」もまた、「非暴力」の思想をベースにした歌です。

さて、追悼式典でこの歌を歌うこの三人、日本では一般に広く知られているとはいえませんが、フランスでは人気のある歌手たちで、今回の自爆攻撃テロの犠牲者となった主な年齢層の20代～30代に対応する年齢層の歌手として選ばれたのだと想像します。さらに言えば、ヤエル・ナイムはフランス出身でイスラエル育ち、カメリア・ジョルダーナはアルジェリアにルーツを持つフランス人、ノルウェン・ルロワはブルターニュ出身なので、イスラエル、アラブ、フランスをそれぞれ代表（？）する三人をそろえたみごとな人選だと思います。出自を超えた国民的連帯を呼びかけるメタ・メッセージになっているからです。歌唱力も問題なく、大御所の圧倒的なカリスマ的表現力とはまたちがった、静かながら心のこもった歌唱が胸を打ちます。

...と、こう書いてきて、感動と同時に、やはりオランド政権の軍事力行使の政策とこの歌がずれていることが明らかに感じられてしまうのです。この非暴力の歌を歌いながらシリア空爆とは、悲しいの一言です。オランド政権がこういう矛盾する暴力的対応を続けていると、ISがまたどこかのコンサート会場を標的にするのではないか、とも心配になるのです。

要するに、この追悼式に歌う鎮魂歌として、オランド政権は自分たちの政策を批判する思想・主張・感受性・立場の歌を二つも選んだことになります。仮にジャック・ブレルが今も存命であったとしたら、やはりこのフランス軍によるシリア空爆に反対の立場を表明しただろうと想像するのです。

このように、死者から自分たちの政策を批判されていることをオランド政権は気づいているのでしょうか。オランド政権がそのことに気づいているとしたら、これらの非暴力の名歌を犠牲者の鎮魂のために使っておいて、暴力による政治的対応を行なっているという点において、オランド政権はこの二つの名曲、この二人の巨匠に泥を塗っているのではないかと思うのです。犠牲者への純粋な鎮魂の意思を私も示す一方で、オランド政権のこの矛盾についてはやはり批判的に触れざるをえません。

そういう意味で、感動的な反戦歌を複雑な文脈で聞くことになり、悲しい思いをさせられたというのが正直な気持ちなのです。


最後に、「ペルランパンパン」のバルバラ自身の歌唱を聴いていただきたく、リンクをはっておきます。最初の頃の比較的おとなしい歌唱の時と、晩年近くの絶唱型の歌唱のライヴです。

●YouTube
■Barbara "Perlimpinpin" (live officiel) | Archive INA
https://www.youtube.com/watch?v=-P58Vne0ATY

■Perlimpinpin 1987-Barbara- Subtitulada
https://www.youtube.com/watch?v=MORAn5Ascg8

この歌唱を聴くと、やはり、バルバラが存命だったならオランド政権によるシリア空爆に反対したとしか思えません。

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