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ビラのポスティングを有罪と考える人に説明。 (立川反戦ビラ入れ裁判をめぐって)



先日出た、葛飾政党ビラポスティング裁判の高裁逆転有罪判決について、私の考えをまとめていきたいと思います。

その前に、同じ種類の裁判、「立川自衛隊宿舎反戦ビラ入れ裁判」で私が当時まとめた考察をここでもう一度復習しておきたいと思います。まず、すでに私が発表したまとめの文章ですが、この種の裁判について分析して論じるときの共通の注意点を含んでいると思いますので、初出は人様のブログであったこともありますので、ここにもう一度転載しておきます。

●「お玉おばさんでもわかる政治のお話」に載せてもらった私(村野瀬玲奈)の記事
2006年5月8日
言論・表現の自由
http://otama.livedoor.biz/archives/50480873.html

2006年3月18日の「立憲主義を支えるために声を上げ続ける」のエントリーのコメント欄の最後で、この件勉強する、と私宣言してました。地裁・高裁の判決文はもちろん、いろいろな意見もインターネットなどから集めて作ったA4版約440ページの資料を読んで、検討し、考え、やっと「勉強した」と言えるところまできつつあります。時間はかかりましたが(^^;

ここでは要点だけ書きます。ここで省いた論点について意見がある方には、「それは、それらの論点を私がわざと無視したからではなく、重要度が相対的に低いからです」とあらかじめ申し上げておきます。私が作った資料には、インターネット上で見つけることのできるような論点はほとんど全部入れたつもりです。それらはいつでも提示することができます。

1. 民主主義社会(国家)における言論・表現の自由

真の民主主義国では一般に、(ビラ配りを含めた)表現の自由はきわめて重要な価値を持つことが認められている。

なぜなら、国民一人一人が参政権の行使などを通じて民主政のプロセスにかかわるための自分の政治的意思を形作るためには、一人一人が自由にさまざまな意見に接し、考え、取捨選択する必要があるから。また、民主国家では、国民は自らの政治的主張を実現させるために互いにはたらきかけあうことによって合意を形成してゆくことが欠かせない。このような合意形成のためには国民が互いに接触をすることも必要で、そのための経路はできるだけ多く確保されていなくてはならない。それぞれの意見を持って互いに自由にはたらきかけあうことを否定するのであれば、民主主義は成り立たない。

したがって、表現の自由、特に政治的表現の自由に対する規制は、経済的自由にたいする規制よりも慎重に、厳格な要件のもとでのみ許される。

その一方、業者の宣伝広告などの「営利的表現の自由」は、民主政との関わりがとぼしく、政治的表現の自由とくらべて相対的に価値が低い。だから、ピザのビラ配りなどを取り締まらないのに、政治的思想・信条を表明するビラの配布を取り締まるのは、真に民主主義の社会においては本末転倒。

2. 事実認定(特に、地裁判決に基づいて)

「立川自衛隊監視テント村」のメンバーのビラ入れの様子は平穏であった。ほぼ放置されている商業ビラが入れられている宿舎共同スペースにはいって、ビラの受け手である自衛隊員に「一緒に考えましょう」などと呼びかけるビラをドアポストに投函しただけ。ビラに書かれた意見を暴力的・脅迫的に強制するものでもなく、面会や応答も求めていない。ビラ入れそのものも、少人数で宿舎の敷地に入って投函して帰ってくるだけで、頻度から見ても平穏そのもの。ビラにも連絡先が明記されていた。このように、地裁の無罪判決での事実認定を見ても、この団体の性格もビラ入れ活動も特に過激とはいえず、高裁での逆転有罪判決でもこの事実認定に異議が唱えられているわけではない。

(「監視テント村」という名前だからといって、被告たちが個々の自衛隊員やその家族の生活を監視しているわけではない。地裁判決の中の、この団体の活動開始のいきさつについての事実認定を参照。)

したがって、居住者のプライバシーを侵害した程度も法益の侵害も相当に低い。

ビラの内容については、当時マスコミや世論にあった自衛隊イラク派遣反対の意見と大きな違いはなく、ひとつの政治的意見である。社会の破壊やテロリズムをめざす反社会思想ではない。使われた用語も、政府による自衛隊イラク派遣を批判する文脈で用いられていて、個々の自衛隊員、その家族、自衛隊そのものへのひぼう中傷ではない。

これらを地裁判決では具体的に検証しているが、高裁判決では抽象論のみで詳しい検証を欠いている。

3. そのほかの論点もかなりいろいろ検討したけど、被告を有罪にすることに賛成する意見には、事実認定、事実評価、論理などが「なんだかなー」というか、無茶なものが多かった…。それらへの詳しい反論も書いたけど、今は省略。

簡単にいうと、ビラ入れの被告を有罪にすることに説得力をもたせたい人は、たとえば以下のことに説得的な論理を示すことができていない、ということ。

-住居侵入罪が適用されて「法律的に有罪」と判断されるための基準。

-ビラ入れの被告を有罪にすることに賛成の論者は「迷惑」と「言論の自由」を比較して「言論の自由はあるにしても迷惑をかける自由はない」と論じているのだから、「迷惑」の法律的定義を示す必要あり。

-「迷惑」が法律的に刑事罰と判断されるための基準。

-言論が居住者へ届けられることを宿舎管理者が妨げること、つまり、民主主義の前提である意見の自由な流通を妨げようとする思想のもとで、どのようにして民主主義が可能なのか。

-他人のブログが自分とは反対の意見を主張している場合、そのブログの管理者が反対意見が書き込まれることを迷惑と感じるときに、そのブログに反対意見を書き込むことが正当化される理由。(ある意見に反論したいのなら、これは大切なポイント。)

4. 私の結論としては、被告は無罪であり、そもそも不起訴であってもおかしくなかった、ということです。

いかがでしょう、お玉さん、みなさん。約束を守れてほっとしています♪
「有罪派」、「無罪派」を問わず、こういうことを私が思いつくきっかけを作ってくださった皆さんと私が参考にしたすべての資料に感謝しています。



これだけ読むと何の変哲もない簡単なまとめと思うかもしれませんが、これは、この種のビラ入れ裁判で被告を有罪にしたい方々への説明でもあります。

そもそも、このまとめに至るまでの資料収集や言論分析があったのですが、私がお玉ブログに上のまとめを載せてもらった当時、私はブログをまだやっていなかったため、個別の言論の分析は発表の機会がありませんでした。自分のブログを持っている今、その時の個別の論のレビューをここに載せることにします。かなり長くなりますし、論壇時評というか学術論文のレビューみたいなぶっきらぼうな書き方ですし、完全にきれいに整理されていない部分もありますが、もともと自分のメモとして書いたものですので、そこはご辛抱ください。

以下自分の未発表記事(というか、メモですか)の引用

はじめに
実りのある議論のためには、以下のような態度が必要だと思う。
-きちんとした事実認定。
-正確な解釈と考量。
-民主主義の原理や基本的法律論を尊重した正確な論理。
-論点間の重要性の差についての判断を誤らないこと。
-法律的問題と感情的問題を区別して論じること。

見解の全体的な分類
この立川自衛隊宿舎反戦ビラ入れ事件裁判についての見解の所在(見つかったもの)

*意見表明した「ビラ入れ無罪派」の所在:
-法学者、弁護士。連名でのアピールを含む。
-人権擁護団体(アムネスティ・インターナショナル)
-外国のジャーナリスト(Japanfocus、ル・モンド紙)
-日本の新聞(朝日新聞、東京新聞、神奈川新聞、北海道新聞、河北新報、京都新聞、愛媛新聞、信濃毎日新聞、琉球新報など。)
-日本の雑誌ジャーナリズム(誌名略)
-インターネット

*意見表明した「ビラ入れ有罪派」の所在:
-法学者。ただし、個人で言っているもの。「ビラ入れ無罪」を支持する法学者グループのような、法学者団体が連名で発表した「ビラ入れ有罪支持」のものは無し。
-日本の新聞(産経新聞、読売新聞など。有罪を明確に支持した新聞の数は批判した新聞の数よりも少なかったと思われる。)
-日本の雑誌ジャーナリズム(誌名略)
-インターネット




本論目次
-立川反戦ビラ入れ裁判についての代表的見解、意見、コメント(その意見の要約と、筆者による分析)
-論点の整理と論点ごとの検討
-結論
-おまけ


立川反戦ビラ入れ裁判についての代表的見解、意見、コメント
(だいたい時系列順)

●総論(ウィキペディア)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AB%8B%E5%B7%9D%E5%8F%8D%E6%88%A6%E3%83%93%E3%83%A9%E9%85%8D%E5%B8%83%E4%BA%8B%E4%BB%B6


●「立川自衛隊監視テント村」が配布したビラのうちの一枚の実物
http://homepage2.nifty.com/osawa-yutaka/heiwa-iraku-dannatu-tento2.htm


●不当逮捕を批判する法学者声明
http://www.jca.apc.org/~kenpoweb/040303tachikawa_appeal.html


●言論の自由の侵害を憂慮するアムネスティ・インターナショナルのニュースリリース
http://www.incl.ne.jp/ktrs/aijapan/2004/0403180.htm


●東京地裁一審無罪判決(裁判所サイト)
http://courtdomino2.courts.go.jp/kshanrei.nsf/webview/BB8423C06C410F5249256FAC00223E36/?OpenDocument
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/BB8423C06C410F5249256FAC00223E36.pdf
かなり長く詳細な判決文。
「立川自衛隊監視テント村」という市民団体が昭和47年(1972年)、当時の米軍立川基地への自衛隊進駐に際し、これに反対する労働団体や市民団体等種々の団体によるデモなどの抗議行動が立川市のほぼ全域にわたって大規模に展開された中、同基地に隣接する公園に設置された抗議団体の連絡体として結成され、昭和48年に同基地への自衛隊移駐が完了すると抗議行動は鎮静化していったが、なおも基地反対運動を続けようとする人々がとどまり、統一された団体としての体を成していったという活動開始のいきさつから始まり、「テント村」によるビラ入れは脅迫的でも暴力的でもなく、ドアポストに月一度、合計5回という頻度で平穏に行われていたこと、そのビラの見解自体は、当時、自衛隊のイラク派遣に関して国論が2分していた状況においてメディア等で日々目にする種々の反対意見に比して、内容面のみならず表現面でもさして過激なものではなく、それゆえ、本件ビラがこれら反対意見とさほど異なるような不安感を与えるとも考え難いと述べ、自衛官に対する嫌がらせ等,不当な意図を有していると解することは根拠に乏しいと指摘し、同宿舎に立ち入ったことにより生じた居住者及び管理者の法益の侵害は極めて軽微と結論付けた。
ビラの中に見受けられる『納得のいかない派兵には、反対の声を一緒にあげよう!』、『自衛官も、その家族も、派兵反対の声をあげましょう』、『復興支援は強盗の手伝い』、『殺すのも殺されるのも自衛官です』などのいささか過激な表現については、すべて自衛隊のイラク派遣を非難する文脈で用いられており、個々の自衛官や家族に対する誹謗、中傷や、イラク派遣を止めなければ危害を加える、暴動を起こすなどといった脅迫的言辞は一切見られず、また、受領者の応答を強いるものでもないと認定。このように、上記各ビラに記載された見解自体は、暴力や破壊活動といった違法行為を指向するいわゆる危険思想ではなく、1つの政治的意見として捉えられるべきものであり、平成15年10月から12月にかけて3回にわたり立川宿舎に投函したビラについても同様のことがいえると認定。
以上のように、詳細な事実認定と検証の結果、無罪と判決。



●一審判決(長い!)のポイントのまとめ
http://www4.ocn.ne.jp/~tentmura/hanketsu.html



●イラク派兵に疑問を持つ(元)自衛隊員がいることの例
http://www15.ocn.ne.jp/~j-stop/MyPage/hurukawa.html
こういった人以外にも、当時の新聞にも、イラクに派遣されることに気が進まない、あるいは、自衛隊イラク派遣に反対の現役自衛隊員がいることは報道されていたと思う。
自衛隊イラク派遣に反対するビラを批判する人々は、結果として、自衛隊員が職務や自分の地位とは別に、政府与党の政策が正しいかどうかを自分の頭で考えることを妨げているのではないだろうか。
自衛隊イラク派遣に反対するビラを批判する人々の意見は、結果として、自衛隊員は理不尽な命令であっても反対せずに黙って従え、という思考を当の自衛隊員に強制するはたらきをしていることに気付かないのだろうか。

イラク自衛隊派遣差し止め訴訟を起こした元自民党議員の箕輪登氏も、「自衛隊員が自衛隊のイラク派遣についていろいろな意見に接することはよいことである」という趣旨のことを公判の中で述べている。



●東京高裁二審逆転有罪判決
http://www4.ocn.ne.jp/~tentmura/kousaihanketsu.html
地裁判決の約6分の1の長さという、非常に短い判決文。「表現の自由が尊重されるべきものとしても、そのために他人の権利を侵害してよいことにはならない。本件のビラの投函行為は、自衛官に対し、イラク派遣命令を拒否するよう促す、いわゆる自衛官工作の意味を持つものであることは、ビラの文面でも明らかであるが、ビラによる政治的意見の表明が言論の自由により保障されるとしても、これを投函するために、管理権者の意思に反して邸宅、建造物等に立ち入ってよいことにはならない」ということだけで、有罪と判決。一審判決にくらべて事実検証や比較考量は、質的にも量的にも明らかに乏しい。形式的で雑な判決という印象を持った。



●東京高裁逆転有罪判決支持寄りと思われる「法律家」の意見のひとつ
http://plaza.rakuten.co.jp/machine10/diary/200512090000/
一審判決と二審判決を具体的に比較検討したような記述、言論の自由と商業ビラの優位性比較や住居侵入の様態についての実証的考察はなく、高裁判決以上のことはほとんど述べていない。



●第二審東京高裁逆転有罪判決を批判する意見のひとつ
http://redflag.exblog.jp/2134963
高裁の判決文の中の「表現の自由が尊重されるべきものとしても、そのために他人の権利を侵害してよいことにはならない。本件のビラの投函行為は、自衛官に対し、イラク派遣命令を拒否するよう促す、いわゆる自衛官工作の意味を持つものであることは、ビラの文面でも明らかであるが、ビラによる政治的意見の表明が言論の自由により保障されるとしても、これを投函するために、管理権者の意思に反して邸宅、建造物等に立ち入ってよいことにはならない」という文章の論理性の欠如を指摘。地裁判決にあった、言論の自由が民主主義社会を担保する根本的な基盤だとする哲学についての判断が全く読み取れないと高裁判決を批判している。

そこについた、「ビラを受け取りたくない住民の権利はどうなるのか」という趣旨の「ビラ入れ有罪派」のコメントに対して、「住居侵入罪の保護法益である『平穏な生活』が本件ビラによって侵害されたとはいいにくい。仮に侵害されたとして、受忍の限度を超えていたかは疑問。不快感をいだいたからといって、それがただちに法益侵害にあたるとはいえない」と回答。罪刑法定主義(「法律なければ犯罪なし。法律なければ刑罰なし。犯罪なければ刑罰なし」、「刑法が犯罪であるとして禁止していることを行なわない限り犯罪者とされることはない。市民は、犯罪を犯したと立証されない限り、刑罰を受けることはない。近代市民法においては、事前の法規定立による予告が必須。事前に定められた犯罪と刑罰の法律としての刑法のみが有効な刑法。刑罰法規は文字によって書かれた成分の法律でなければならない。そうでなければ、刑罰権限の濫用につながりかねないからである」)にも言及してビラ入れ無罪論を支持。

「ビラ入れが迷惑かどうかを決めるのは住民」との「ビラ入れ有罪派」のコメントに対しては、「それを処罰するかどうかは法律で定められるべきであり、法の運用に当たっては過去の判例に左右される」と回答。



●「ビラ入れ有罪」支持の意見のひとつ
http://kukkuri.jpn.org/boyakikukkuri/index.php?eid=240
自衛隊のイラク派遣が決まった時期に批判的なビラを投げ込まれた自衛隊員や家族の「被害」を重大なものと考え、「『表現の自由』を前にしても、居住者の平穏に暮らす権利が矮小(わいしょう)化されるべきではない」とする新聞報道を引用し、これを「当然」と結論づけている。

しかし、この件で居住者の平穏に暮らす権利が具体的にどのように侵害されたのかについては、主観的な感想以上の実証的な検証は乏しい。

ビラの「復興支援は強盗の手伝い」、「殺すも殺されるも自衛官です」、「その地域の住民にとって、自衛隊は死に神になります」という部分を取り出してそれを無神経な誹謗中傷と考えている。

「自分の気に入らない意見にも耳を傾けてみる。それは民主主義を支える基本である。派遣を控えた自衛隊員にとっても、同僚や家族と全く違う意見を目にするのは無駄にならないはずだ。くだらない意見だと思えば捨てればいい。」という別の新聞の社説に対しては、「被害者である自衛隊員やその家族にも問題があるかのような書き方。聞きたくもないものを聞かされる、見たくもないものを見せられる、被害者の精神的苦痛など考えてもみないで、『表現の自由』で片付けちゃうのか」と反論している。

また、「立川の事件で言えば、反戦ビラ(ほとんど中傷ビラだが)を投入した3人の人権は認めているが、投入された自衛隊員とその家族の人権は認めていない」というように新聞社説の内容を解釈している。

これらを読むに、投入された自衛隊員とその家族の人権がどのように侵害されたのかという検証は不十分に見える。「反対意見を聞かされるのが人権侵害」という以上のことは読みとれない。しかし、地裁判決の事実認定でもわかるように、ビラをポスティングしただけであり、強制的、脅迫的にビラを読ませた事実は全くなく、ビラへの応答を強制したわけでもない。ビラの内容を読んでも、個々の自衛隊員や家族に問題があるなどということは書いてないようである。(もしそう書いてあれば、地裁判決の中で言及されていたのではないだろうか。)

まとめると、「自衛隊イラク派遣に反対のビラをポスティングされたことが精神的苦痛をもたらし、それが人権侵害である」というのはこじつけに近いと考えられる。

また、「極論を言えば」と前置きしつつも、「『おまえら自衛隊員は人殺し予備軍だ。中傷ビラぐらい我慢しろよ』ってのが朝日の考え方なんでしょう」、と主張。文章解釈と論理と結論にかなりの飛躍がある。

このブログについた「ビラ入れ有罪派」のコメントの中にも、「(有罪)判決は至極当然で有り、被告側は憲法違反ですらあります!(権利の濫用禁止規定)」という主張があるが、この人にとっての「権利の濫用」とは何か、論証が足りない。その人は「被告の行為は明白にSPAM行為も同然の行為をしており原告(ママ)勝訴は当然の結果であると言えましょう!」とも言っている。ならば、論理的には、高裁判決支持派が高裁判決批判派のブログに批判を書き込むことは、言論の自由の濫用であり犯罪行為ということに論理的にはなるが、そういうことには気づいていない様子。



●「ビラ入れ有罪」支持の意見のひとつ
http://edge13.seesaa.net/article/10467670.html
「『復興支援は強盗の手伝い』、『殺すも殺されるも自衛官です』、『その地域の住民にとって、自衛隊は死に神になります』、こんな文が書かれたビラが自衛官防衛庁官舎に投函されたのだ。自動車メーカーの社員に『車は人殺しの道具です』といったら名誉毀損になるのではないか。それとどこが違う。(…)自分達の行為が正当というのであれば彼らの家に『反日左翼は日本を滅ぼす』と書かれたビラを貼りまくって街宣車が毎日がなりたてても彼らはそれを甘んじて受け入れるのだろう。」と主張。

ある状況のもとでのある政治的決定が不当だとビラは主張しているのであり、その政治的決定の結果として動員される人々への誹謗中傷ではない。対置されている例も大げさに誇張されている。

具体的に検討してみる。

まず、「復興支援は強盗の手伝い」、「殺すも殺されるも自衛官です」、「その地域の住民にとって、自衛隊は死に神になります」という表現は果たして、自衛隊員とその家族、あるいは業務に対する「誹謗中傷」にあたるのかどうか。
たとえば、防衛庁の談合事件を論評して、「防衛庁は税金泥棒」と言うのは、談合が確かにあったのならばおかしな表現ではない。あるいは、たとえば、警官が過失で一般市民を自分のピストルで撃ち殺してしまったとしたら、「警官は武器の扱いを誤ったら一般市民にとって死に神になる」と言っておかしくはない。
上記の「復興支援は強盗の手伝い」、「殺すも殺されるも自衛官です」、「その地域の住民にとって、自衛隊は死に神になります」という表現は、違憲の疑いのある自衛隊イラク派遣、しかも無理のあるアメリカのイラク攻撃に続く自衛隊イラク派遣、という文脈で用いられており、特定の自衛隊員個人または家族または自衛隊という「職業」への誹謗中傷ではなく、「自衛隊イラク派遣という政府与党の政策」への批判である。(また、アメリカでもイラク攻撃への批判の世論が力を増しつつある。)
上の3つの文面を含むビラは残念ながら手元にはない。しかし、「日本政府が自衛隊をイラクに派遣することへの批判」が述べられたビラに書かれているこの3つの文面には「前提条件」があることは明らかであり、前提条件無しの一般論として「自衛隊は強盗の手伝い」「自衛隊は死に神」と断言しているわけではないはず。それを無視するのはちょっと乱暴な解釈である。「〜すれば、〜になります」という論理構成だというのが自然な解釈である。その前提条件とは、たとえば、「正当性のないアメリカのイラク攻撃、イラク支配に加担することになるから」というようなことであり、その場合には「自衛隊は死に神になります」と言っていると想像できる。
それを車の例に当てはめると、「市内で時速200kmで運転すると」という前提条件があれば、「車は人殺しの道具になります」ということは十分に成り立つ。しかも、それは自動車メーカーへの批判ではなくて、自動車をそのような条件で運転する人への批判である。(「市内で時速200kmで運転すると車は人殺しの道具になります」という主張をビラにして自動車メーカーのポストに入れることは、意義があるかどうかは別にして、不法ではないと思う。)
したがって、自衛隊が死に神ではないとしても、あるいは、自動車は人殺しの道具ではないとしても、使い方を間違えるとそうなる、ということで、そう主張することは名誉毀損ではないと考えられる。

次に、「大体他人の家に押し入って言いたいことを無理やり聴かせているようなものだ。街頭でやっても誰も耳を傾けないとわかっているから影でこういうことをするのか。自分達の行為が正当というのであれば彼らの家に『反日左翼は日本を滅ぼす』と書かれたビラを貼りまくって街宣車が毎日がなりたてても彼らはそれを甘んじて受け入れるのだろう」という論はどうだろうか。
地裁判決で認定されていたビラ配りの様態の慎ましさに比べると、「『反日左翼は日本を滅ぼす」と書かれたビラを貼りまくって街宣車が毎日がなりたてる」という例を対置することは誇張しすぎであり、公平でない。立川のビラ入れでは月に一度ドアポストにビラを静かに入れただけであり、たとえば街宣車が自衛隊宿舎に向かって毎日がなりたてた事実などこれっぽちもなかったわけなので。



●「ビラ入れ有罪」を批判する弁護士の意見
http://beatniks.cocolog-nifty.com/cruising/2005/12/post_73f4.html
「今回は、明らかに、立川テント村に所属する被告らが、『イラク派兵反対』という政治的な表現を記載したビラを配布しようとして防衛庁宿舎に立ち入ったからこそ、被告らは逮捕されて起訴されたのである。この不平等さについては、今回の高裁判決では特に説明がされていないようである」と述べている。
それに対するコメントとして、「ビラ入れ有罪」を肯定的に受け止める人から「(…)今回の場合、『生活の場である宿舎への政治的な主張を有する団体の立ち入りとその中での宣伝』という視点こそが必要ではないでしょうか。(…)生活者の立場からは、生活に必要な『商業的宣伝』と『政治的宣伝』は区別されるべきと考えますので、今回の判決は肯定的に受け止めました。従って後段の記事の考察は、高踏的に感じました」との意見があった。
それへの回答としては、「『商業的宣伝』の中にも、テレクラなどの性風俗関係のビラなどは誰でも不快に思っていると思います。それを放置した上で、『政治的宣伝』だけを『処罰』しようとするのは不平等ではないかということです。また、『不快』というだけで『処罰』を求めるのも行き過ぎではないかということです」と述べている。
また、日本の司法制度において刑事裁判が被告にとって不合理であることを次のように指摘。
「今回のような刑事裁判については、無罪判決になった場合に検察側が控訴して、もう一度争えるという我が国の現在の裁判制度は極めて不合理であるということを痛感する。英米法では、1審で無罪になったら、検察官は控訴することが禁止されている。これは、一度裁判の苦しみを受けた被告に、再度その苦しみを与えてはならないという『二重の危険』の法理に基づいている。一度、敗訴した検察官が、国家の膨大な権力と税金を使って、もう一度挑戦し、第1審判決を覆すことが認められる制度は、いかにも不公平であり、正義観念にも反すると言わなければならない。」



●二審有罪判決の量刑がおかしいという弁護士の指摘
http://blog.livedoor.jp/bengoshi_dessei/archives/99242.html
「こういう評価の分かれ目は、私はありうるとは思いますが、それにしては二審の量刑が変ではないでしょうか。被告1人は罰金10万円であり、未決勾留日数20日(1日5000円)を算入して、実質ゼロになり、あと2人は罰金20万円あるが、同じく実質10万円になったのです。しかし、被告らは75日間勾留されています。もし5000円で換算するなら37万5000円です。罰金10万円や20万円を払ってまだ釣り銭をもらわないといけないのです。私が、経験した、ピンクちらしをマンションのドアポストに投函して住居侵入罪に問われた事案では、現行犯逮捕されたものの、48時間で釈放され、罰金10万円でした。二審のように、とにもかくにも他人のドアポストにチラシを投函するのがいけないというならば、それはそれで一貫しますが、せいぜい罰金10万円の事案です。そんな軽微な事案について、警視庁公安部が逮捕令状を取って3人逮捕し75日間も勾留する必要はないはずです。その捜査の異常性を二審は見ていないと思います。」
以上のように量刑のおかしさを指摘している。



●第二審東京高裁逆転有罪判決を批判する論のひとつ
http://d.hatena.ne.jp/mojimoji/20051210/p1
東京高裁逆転有罪判決を「他者の到来を否定している不当判決」と明確に批判。その後、「有罪判決を支持する人」が繰り返しつけた批判コメントに対して、「彼は、自分が否定しているその手段によって、自分の主張を行っているという事実に、ついぞ気づくことができなかった。残念。」と「ビラ入れ有罪派」の主張の矛盾を指摘。
そのうえで、「『そっちが聞きたくなくても、こっちには話があるんだよ』。異議申し立てとは、概してそういうものだ。だから、その道を閉ざすことは、民主政治の死を意味する。住民がビラの『内容に関して』不愉快だと述べたのであれば、それは被害にはまったくあたらない。あたると考えるべきではない。(…)住民の安全が問題であるならば、宅配便の配達員が侵入できているなら、安全上の問題はまったくないのである。単に、まかれたビラの内容が気に入らないというだけなら、それは保護される利益であるべきではない」と指摘。



●「ビラ入れ有罪派」の論のひとつ
http://blogs.yahoo.co.jp/kabu2kaiba/18973903.html
被告のことを「自衛隊のイラク派遣は悪いことであり、その悪いことをしている自衛隊の隊員とその家族に対して多少いやな思いをさせようが、あるいは、自衛隊派遣反対派からの嫌がらせやテロの被害者になる不安を感じさせようがそれは自業自得だ」と思い住居侵入を繰り返すような者、と判断している。しかし、その前提としての、地裁判決の被告の所属団体とビラ入れの様態、ビラの内容についての事実認定と検証にはほとんど言及無し。地裁判決で認定された事実の解釈としてもお粗末。
同時に、「プロ市民」などの蔑視・罵倒表現を「仮想論敵」に向かって多用しており、この論者は反戦運動に対して一方的なかなり強い偏見を持っていると考えられる。
また、このエントリー中に次のような相矛盾する主張が含まれており、このエントリーの論理構成の甘さもうかがわせる。
「人権制限の是非などの高尚なレヴェルではなく、そもそも刑罰が科せられるほどの事件かねという観点(可罰的違法性の観点)からは『起訴猶予』もありの難しい事件だったと思う。」
「法が保護すべき被害者の精神的ダメージの度合いを鑑みるに、ある広域暴力団の兄ちゃんの有印私文書偽造とかよりもこのなんとかテント村の自己中の馬鹿者どもの罪が遥かに重いと思う。」
この二つを読み比べると、はっきりと矛盾している。後者がこの論者の主張の中心であろうが、冷静に考えれば、暴力団の有印私文書偽造と政治的意見を書いたビラのポスティングを比較することに意味はない。また、「法が保護すべき被害者の精神的ダメージ」が居住者にあったというなら、たとえば、「護憲ブログ」に改憲派が改憲肯定の書き込むことも犯罪行為になるであろうが、そのような視点はないようである。



●東京高裁逆転有罪判決支持の意見で埋まっているインターネット掲示板上の代表的な意見のひとつ
http://blog.livedoor.jp/mumur/archives/50266793.html
「私有地内において、部外者の言論・立ち入りをコントロールするのは権利者の正当な権利です。」と主張。
また、「法治主義・・・・・法に基づいて治めること=法に基づいて罰すること
法の下の平等・・・何人も法の扱いにおいて異なる扱いを受けないこと
今回の事件は「不法侵入」という「法に基づいた」判断が下されたわけです。法治主義から言って問題なし。
また、晒されているエントリーでも言及しましたけど、権利者が「ピザ屋を黙認して、過激派を厳しく取り締まる」ことに何の問題もありません。平等に取り扱う理由など全くありません。極端な話、「お前は顔がむかつくから出て行け。君は美人だからいつでもフリーパス」でも全く何の問題もありません。」とも主張。

以下、筆者の検討。
「私有地内において、部外者の言論・立ち入りをコントロールするのは権利者の正当な権利です」と主張するとき、「権利者」とは個々の住人、宿舎管理者(自衛隊幹部)、警察、検察のどれなのかあいまいで、法治主義と「お前は顔がむかつくから出て行け」という感情論がどう結びつくのかも不明。

宿舎管理者(ある意味で、公権力行使者としての自衛隊組織の意思の代表)がどのビラを不快に感じるか感じないかという問題と、それぞれの宿舎住民(これは宿舎管理者とは別々の主体!)が私的にどのビラを不快に感じるか感じないかという内心または感情の問題と、どの住民がどのビラを不快に感じるのか感じないかという問題(当然一人一人、そのビラに対する考え方、感じ方は違うだろう)と、警察が何の行為を逮捕し何の行為を逮捕しないのか、審理を経た上での裁判所の判決が正当かどうかという法的な問題とが全くごっちゃになっている。したがって、法律的な主張として論理があいまいで弱い。

また、本件のポスティング行為もビラの内容も、地裁判決での認定の通り、過激派とは関係ないのだから、事実認定も不正確。

また、「法に基づいて罰する」ときには、法の適用のしかたが適切かどうかを法規範に基づいて実証的に検討することが必要不可欠。それを欠く場合には、「法に基づいて」いるとは言えない。上の主張においては、「言論の自由」と「住居侵入」の比較考量がなく、ビラ入れの様態に比べた拘束期間の長さや量刑の軽重についての言及もなく、法的概念を引用しているわりには、論理として弱い。

「ピザ屋を黙認して、過激派を厳しく取り締まる」という文面があるが、本件で問題になっているのは「(政治的主張を伝える)言論ビラ」であり、しかも、地裁判決で詳しく認定されているように、その言論ビラの配布の様態は「過激派」という言葉によって連想されるような暴力的、脅迫的なものとは程遠い。

また、「法の下の平等」を言いながらその数行後で「平等に取り扱う理由など全くありません」と述べるなど論理の矛盾も含まれている。「権利者」とは自衛隊宿舎の一般居住者(一般自衛隊員)か、宿舎管理者(自衛隊幹部)か、警察か、検察かがはっきりしないのだが、「取り締まる」という言葉があるから、警察だと解釈する。すると、「法の下の平等」について言及した数行下で、「平等に取り扱う理由など全くありません」と言うのは論理矛盾。一方、「権利者」が「宿舎住民」だとしたら、宿舎住民が何のビラを不快と思うか思わないかは個々人の内心の問題だからそれは自由。不快と思う人もいるかもしれないが、「よく言ってくれた」と賛同する人もいるかもしれない。不快に思う人の感情だけで賛同者がビラを受け取りたいという意思に蓋をすることは合理的でない。問題は、「反戦ビラを受け取る不快」がビラ入れを有罪とする根拠になるかどうか、ということである。

全体として、この論者の説得力は弱い。



●「ビラ入れ有罪派」への反論
http://seiryu-y.cocolog-nifty.com/blog/2005/12/post_f13b.html
「ビラ入れ有罪派」から出されている「住民の意思に反して他人の敷地に入った以上、住居住居侵入罪で有罪になるのは当然」、「表現の自由をどこでも好きなように騒げる自由だと勘違いしている」という二つの主な論点に対して、事件の現実に即して検討し、以下のように反論している。

第一の主張に対しては、「住民の一部の者の拒絶に従わなかったから住居侵入で処罰できるという主張は(…)広範な活動がその射程内に入っています。これらの活動を目的とする共用部分への立ち入りを一部の住民の拒絶を理由に住居侵入罪で処罰できるとするのが妥当なのか、それを検討する必要があるのです」と指摘。(なお、この指摘に対する回答になりえる主張は他の「ビラ入れ有罪派」のインターネット論調にもほぼ皆無。)

第二の主張に関しては、「原告も地裁判決も共用部分において何をしてもいいと主張しているわけではありません。それ故、地裁では、被告人たちのビラ配りの態様が住民のプライバシーや平穏を害するような態様のものだったか否かを詳細に検討しているわけです。それを無視して、いかにも被告人が『他人の敷地で好き勝手をしてもいい』と主張しているかのようにいうのは、単なる無知か判った上で単純化することで被告人や朝日・東京新聞を誹謗しているといわざるを得ません」と指摘。

また、このエントリーに「そもそも、表現、言論の自由とはそれらを発表する自由であって、それらを任意の相手に届ける自由までは含まれていません」というコメントが「ビラ入れ有罪派」からついている。
「ビラ入れ無罪派」のブログにこの主張を書き込んでいる「ビラ入れ有罪派」は、まさに、自分の言論を特定の他者に届ける自由を行使しているわけであるが、その自由をまさに自分で否定しているというお粗末ぶり。



●犯罪が成立するための3つの条件である、構成要件、違法性阻却、非難可能性についての全体的な解説
http://www.magazine9.jp/juku/004/index.html
この事件においてこの3条件を検証し、被告は無罪と論じる。



●「国家の敵:自由な言論と日本の裁判所」と題された英国のジャーナリストの記事
http://japanfocus.org/article.asp?id=519
「日本の民主主義は、反戦ビラ投函をしたことを理由に3人の人を逮捕し取調べたことによって大きく後退した」と紹介。



●ビラ配り逮捕と民主主義における言論の自由についての、「ビラ入れ有罪派」と「ビラ入れ無罪派」のほぼ一対一の論争
http://blog.nojijizm.jp/archives/50478037.html#comments
「公共の利益にとって不可欠で、全ての人にとって最大限に保障されなければならない『言論の自由』を認めたがらない」のに「言論の自由より明らかに無価値な『(ビラ入れは)イラン大きなお世話だと言う自由』」を認めさせようとしている「ビラ入れ有罪派」を、「自由」や「権利」が法によって保障されるのは人格的生存に不可欠だという法的視点などから徹底的に批判しつくしている。




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論点の整理と論点ごとの検討

以上のような意見などがあったことをふまえて、それらを検討した結果として、以下に改めて論点を整理し考察する。

●事実認定(地裁判決などを参考に)
大きなポイントは、「立川自衛隊監視テント村」のメンバーのビラ入れの様態は全然暴力的でも脅迫的でもなく、ビラの受け手である自衛隊員に一緒に考えましょうと呼びかけただけであり、ビラに書かれた意見を強制するものでもなかったということ。ビラ入れそのものも、少人数で宿舎の敷地に入って投函して帰ってくるだけで、平穏に行なわれた。月一度、合計5回。ビラにはこの運動をしている団体の所在地、電話、ファクス番号などが明記されており、地裁での無罪判決での事実認定を見てもこの団体の性格も活動内容も特に過激とは言えず、高裁での逆転有罪判決でもこの事実認定に異議が唱えられているわけではない。
地裁判決の事実認定によると、掲示を出すことによってビラ入れをやめさせようとしたのは宿舎管理人(自衛隊幹部)2名、直接「ビラ入れをやめる」ようにテント村メンバーに言ったのは居住者2名。宿舎全体へのビラ入れを商業ビラから政治的意見のビラまですべてやめさせようというのが住民全員の意思であるという証明はないと考えられる。


●民主主義の前提
「民主主義」社会における「言論の自由」について、真の民主主義国で認められている大前提は、(ビラ配りを含めた)表現の自由は、民主主義社会においては極めて重要な価値を有するということである。
なぜなら、国民一人一人が参政権の行使などを通じて民主政のプロセスにかかわるための自分の政治的意思を形作るためには、一人一人が自由に様々な意見に接し、思考し、取捨選択をする必要があるから。また、民主国家では、国民は自らの政治的主張を実現させるために互いに働きかけあうことによって合意を形成してゆくことが欠かせない。このような合意形成をするためには国民が互いに接触をすることも必要であるから。そのための経路はできるだけ多く確保されていなくてはならない。
互いにはたらきかけあうことを否定するのであれば、民主主義は成り立たない。
したがって、表現の自由、特に政治的表現の自由に対する規制は、経済的自由に対する規制よりも慎重に、厳格な要件のもとでのみ許される、というのが一般的大前提。
その一方、業者の宣伝広告などの「営利的表現の自由」は、民主政との関わりが乏しく、政治的表現の自由と較べて価値が低いので、相対的に強い規制を課すことも許される。したがって、ピザのビラ配りを取り締まらないでおきながら、政治的思想・信条を表明するビラの配布は取り締まるのは真に民主主義の社会においては本末転倒になる。
以上が大前提。



●罪刑法定原則についての予備知識
近代刑法の基本原則。「法律なければ犯罪なし。法律なければ刑罰なし。犯罪なければ刑罰なし。」
市民は、刑法が犯罪であるとして禁止していることを行なわない限り犯罪者とされることはない。市民は、罪を犯したと立証されない限り、刑罰を受けることはない。近代市民法においては、事前の法規定立による予告が必須である。予測可能性がなければ、市民の行動の自由は保障されないからである。こうして、事前に定められた犯罪と刑罰の法律としての刑法のみが有効な刑法ということになる。刑罰法規は文字によって書かれた成分の法律でなければならない。そうでなければ、刑罰権限の濫用につながりかねないからである。
第一に、類推の禁止である。法律の解釈に際して類推が許されれば、事前に定められた法律によって明示されていない行為を処罰する事が可能になってしまう。これでは法律の事前定立性は担保されない。法律を確認しても、何が禁止され、何が許されているかが判明しない。類推は立法の否定であり、解釈の否定でもある。
第二に、事後法の禁止、遡及処罰の禁止である。法律は制定された後に初めて効力を有する。事後に制定された法律によって処罰が行なわれることは、法律なくして処罰が行なわれることである。
第三に、慣習法の排除である。司法機関は立法機関が制定した法律を適用する。刑罰という強力な制裁を科す司法作用は、厳格な法律主義を要請し、法律以外の法規や慣習を処罰の根拠にすることはできない。
第四に、最近では明確性の原則が必要とされている。仮に法律が事前に定立されていたとしても、いかなる行為が犯罪とされるのか、どのような刑罰が科されるのかが漠然として不明瞭な法律は、実質的には事前の告知の役割を果たさない。刑罰法規は具体的かつ明確な規定を必要とする。
以上が原則。



●一般に、「住居侵入」とは何か?また、住人の迷惑、不快について。
1976年の最高裁判決で「住居侵入罪の保護法益は住民の居住権(住居等の平穏が害されたり脅かされる態様での立ち入り行為を受けない権利 - 1976年、最判昭51・3・4)」と言われたことを踏まえて、平穏が害されたり脅かされたりする、というのが具体的にどのような場合なのか、を検証する必要があると考えられる。
実際に、本件では、地裁判決の事実認定によればビラ配りはきわめて平穏に行われた。(高裁判決でもその平穏さの認定に異議が唱えられているわけではない。)居住者である自衛隊員の静謐は十分すぎるほど守られている。だから、住居侵入の「構成要件」には該当するが、居住者の法益の侵害の度合いは相当に低い、と地裁では認定され、刑罰を課すほどの違法性はない、という地裁判決になった。高裁判決ではこの部分の論理構成が乏しい。

筆者は法の専門家ではないが、罪刑法定原則を考慮に入れるなら、商業ビラや宗教勧誘ビラなどをポスティングすることが実質的に犯罪扱いされない現状にあって、今回の政治ビラのポスティングをここまできびしく取り締まる理由はなく、自分の意見とは反対の意見を穏当な手段を通じて受け取ったり読まされたりしたことを「迷惑」として処罰することは不当であると考えられる。実際、東京高裁での逆転有罪判決でも、自分の意見とは反対の意見を読まされたことによって生じた迷惑を有罪の根拠とはしておらず、住居侵入を有罪の根拠にしていると読める。少なくとも、商業ビラや宗教勧誘ビラなどに比べて政治ビラをきびしく取りしまることを正当化する、論理的に一貫した法的に正当な根拠をあげているインターネット論調は見つからなかった。(このレビューで以下に検討する、インターネットの掲示板などで見られる「ビラ入れ有罪派」があげる根拠の多くは、事実認定の誤りや論理の矛盾や飛躍が多く、法律の専門家でない私から見ても、法的に正当な根拠には見えないので、それらは「論理的に一貫した、法的に正当な根拠」には入れていない。)もし、商業ビラや宗教勧誘ビラなどに比べて政治ビラをきびしく取りしまることを正当化する法的論理なり判例なりがあるならば、高裁ではそれによって有罪にされていたと思うが、実際の判決は非常に短い一般論だけであった。

そもそも、「言論の自由」があることによって自分の意見とは反対の意見を読むことになっても、それを迷惑と呼ぶべきではないし、ましてや犯罪的行為とするべきではないと考えられる。実際、この「立川反戦ビラ入れ裁判」では、当時普通にあった「自衛隊イラク派遣への反対論」のひとつをビラとして平穏な手段で配っただけで、暴力的・反社会的主張を強制的に宿舎の住人に聞かせたわけではない。ある人にとって読みたくないビラなら、その人はビラを捨てればいいだけである。しかし、そのビラを読みたい人が別にいるかもしれないのである。その可能性をふさぐことは言論の自由な流通を妨げる、反民主主義的な考えに通じる。

また、本当に宿舎の住民全員がポスティング行為を迷惑と感じたのだろうか。本当に宿舎の住民全員がビラに書かれた内容を不快と感じたのだろうか。ビラの内容に共感した住民がゼロだったと言えるのかどうか。その点に言及した「ビラ入れ有罪派」はほとんど皆無であった。

また、商業ビラや宗教勧誘ビラのポスティングが住居侵入で処罰されることがないのに、それと同程度に平穏な政治的ビラのポスティングが住居侵入で処罰されるというのは、この罪刑法定原則にてらして疑義があると考えられる。商業ビラ配布について課された罰の一例に比べて、量刑が著しく重いのはやはりおかしい。

このビラ入れの様態が平穏なものであったということを改めて頭において、専門的法律論から少しはなれて考えても、このビラ入れがある人にとって「迷惑」であったとしても、このビラ入れを「迷惑」とは思わなかった人はいるであろう、というくらいのことは言えるだろう。(たとえ、住民全体が迷惑に思ったとしても、それをもってビラ入れを犯罪として扱うことには無理があると思う、ということは言っておくにしても。)
政治ビラを受け取りたい人、政治ビラを受け取りたくない人、政治ビラはふだん読まないが迷惑だと思わない人、政治ビラは迷惑だと思う人、商業ビラを受け取りたい人、商業ビラを受け取りたくない人、商業ビラを迷惑だと思う人、これらの基準は人それぞれであり、人それぞれが対処すればよい。現に、反戦ビラは月一回、合計五回投函されたにすぎない。地裁判決で言われているように、読みたくない人は警察に通報することなく捨てている。これを迷惑というのはいささか牽強付会である。
集合住宅の管理者が各住人の代理として各個人の情報受領経路を統制する権限があるという主張には、民主主義社会においては意見の自由な流通の中で「各人が」自由に考えて判断して自らの政治的意見を形成するという基本的原理を越えるだけの合理的理由はないと考えられる。

もし、反戦の主張を見たり聞いたりすると持病のアレルギー発作が起こって命にかかわる、というような自衛官やその家族が万一いた場合は、ビラ配りの団体に「自分の家には投函しないでほしい」と連絡すればよい。そういう人の郵便受けにはそれ以降反戦ビラは投函されないと思う。

また、自衛官という公務員の立場を考えると自衛官に反戦の主張を届けるのは失礼である、というような主張もあったようだ。しかし、人間には当然、職業上の公的領域と、私生活上の私的領域があり、私的領域にはたらきかけることは認められてもいいのではないか、と思われる。実際、自衛官の中には、イラクに派遣されることを望まない人々、イラク派遣に批判的な意見を持つ人もいるわけだから。もし、「ビラ入れ有罪派」が「自衛隊員がイラク派遣の是非を考えることは良くない」と考えるのなら、自衛隊員は政府与党の命令が理不尽なものであっても反対してはいけない、理不尽な命令にも黙って従わなければいけない、ということになるのではないか。それこそが自衛隊員にとって失礼ではないのだろうか。自民党の元代議士で郵政大臣をつとめた箕輪登氏も、「自衛隊員がさまざまな意見に接することは良いことである」と述べている。

こう見てくると、宿舎管理人や特定の宿舎居住者や主観的な「失礼」、「迷惑」という感情を持ったことが即「逮捕、刑事罰」にはつながるものではない、と言えると考えられる。

また、これらの考察とは別に、素朴な感情として、「見知らぬ人が自宅のドアの前まで来てビラを入れるのが怖い」から取り締まってほしい、という主張もあるように思えた。しかし、さまざまな宗教勧誘ビラ、商業ビラなどが集合住宅の共有区域やドアポストにポスティングされながら、それらをポスティングする人々が現実にはほとんど取り締まられず、取り締まられてもすぐに釈放になるのに、政治的意見を伝えるビラに対してだけこれほどの長期間拘留にする理由は乏しい。現実に、これらのビラはすべて、平穏な様態で投函されており、明白で重大な現在の危険を居住者にもたらすものではない。したがって、取り締まる理由にはならない。ビラには団体の連絡先として所在地電話番号も明記されており、所在不明の不気味なテロリスト、と考えるのにはかなり無理がある。

また、ドアポストと集合ポストの違いを問題にする意見もあったが、地裁判決、高裁判決を見ても、ドアポストへの投函はだめだが集合ポストへの投函は許容する、ということをうかがわせる内容はなく、犯罪性の高低の認定に大きな影響をおよぼす論点とは言えないと考えられる。居住者が「ドアポストではなくて集合ポストにしてくれ」と言えば、礼儀として集合ポストに投函するのが望ましいということは言えると思う。(「ドアポストへの投函」が犯罪になるからという意味ではない。)ただし、商業ビラのポスティングで逮捕された事例も、せいぜい罰金10万円、1〜2日で釈放、という程度であり、礼儀を欠いたから75日拘留してコンピュータなどを押収して取調べ、という警察の対応は過剰である。

また、「公共の福祉」の概念を持ち出して、住居の共同スペースに入ってビラ入れを行って意見を伝えようとしたことの迷惑を断罪し、有罪を主張する意見もあった。AさんがBさんに、Bさんの意見とは異なる意見を(穏当な手段で)伝えてBさんが主観的に迷惑という感情を持ったとしても、客観的に見てよほど度を越えない限りそれは犯罪ではない。まして、任意の個人が主観的に感じた迷惑の感情は「公共の福祉」の概念とも関係ない。この世で全く同じ意見を持っている人は二人といないし、自分と正反対の意見に接して不快に思うのは人間としてよくあることであるから、意見を発するこの世界の全員が有罪である、ということに論理的にはなる。

「公共の福祉」と言うならば、穏当な手段で流通させようとしている特定の一つの意見の表明を禁止することは「公共の福祉」ではなく、さまざまな意見が穏当な手段で自由に流通することこそが「公共の福祉」である、と言うこともできる。地裁判決では、本件のビラ入れは穏当な手段で行われたと認められているのであるから。

また、「幸福追求権」や「プライバシー」を被告を有罪にする根拠にしている意見もある。これについても、自分の意見とは反対の意見の書かれたビラ一枚を読んで「幸福追求」や「プライバシー」が侵害されたとはとても言えない。繰り返しになるが、ビラの内容は、通常の政治的意見の表明であり、ビラ入れの様態は平穏であり、住居のドアをたたいて住民に面会を求めたわけでもなく、ビラには団体の連絡先が明記されている。ビラで使われている言葉はいずれも、政府によるイラクへの自衛隊派遣を批判する文脈で用いられており、特定の自衛官やその家族を誹謗中傷するものでは全くない。(こういう言論が誹謗中傷になって罪になるなら、理論的には、「サヨ」批判の「ネトウヨ」も同様に誹謗中傷で逮捕ということになりはしないか?)



●ビラに記された意見は「過激」だったか?表現が自衛隊についての誹謗中傷だったかどうか?
自衛隊のイラク派遣について国論が二分されていた当時、このビラは新聞などで読むことのできる自衛隊イラク派遣反対と同様に、自衛隊がある状況のもとである様態で海外に出るということに関するひとつの政治的意見としてとらえられるべきものである。
また、自衛隊は主権者である国民の合意のもと、憲法や法律に従い、文民統制のもとで出動すべきはずの存在であり、その行動について批判が許されない無謬の存在ではない。どのような場合に出動し、どのような場合に出動すべきでないかに関する意見を他人に伝える自由は当然国民に保証されるべきもの。
また、「殺すのも殺されるのも自衛隊員」というような表現が誹謗であり、自衛隊がやることは殺しではない、と主張するなら、自衛隊が今後集団的自衛権などを持って海外で兵器を持って戦争に参加することはどんな場合においても明瞭に禁止すべきだということに、論理的にはなるだろう。「殺すのも殺されるのも自衛隊員」という表現を誹謗中傷と言う「ビラ入れ有罪派」は、自衛隊が「集団的自衛権などのもとに海外に出動して相手を殺すこと」を禁止するべきだと考えるのだろうか。



●この起訴、有罪判決は、自衛隊イラク派遣という国策に反対する思想への取り締まりの性格を帯びているのかどうかについて

本当に純粋な「住居侵入」による逮捕なのかは、担当が公安警察であったこと、家宅捜査でパソコンなどまで押収されたこと、警察での取調べの過程で被告が取調官から言われたことの内容、同じ程度の平穏さでポスティングされている商業ビラや宗教勧誘ビラが取り締まられていないこと、などから推論できると考えられる。

実際、公判での事実認定では、次のことが認められた。
「自衛官官舎の管理人は、立川警察の刑事から被害届を出すよう言われて出した。その際、警察が作った被害届の文章にサインした」
「管理人は被告の属する団体が暴力行為を起こすような団体でないと知っていた」
「ビラの内容は自衛隊を批判してはいても個々の自衛官を敵視するものではなく、しかも官舎側は内容を全く把握していなかった」

また、この件を担当した警察の部署は公安部であった。警察への通報、起訴、取調べの経過も、宿舎管理者(自衛隊幹部)主導、公安警察主導であり、住居侵入のゆえではなくビラの内容ゆえに逮捕された思想犯事件と、高い可能性をもって考えてよいと思う。だからこそ、アムネスティ・インターナショナルのような実績ある国際人権団体が「良心の囚人」と認定したのである。

ちなみに、別のビラ入れ事件である「共産党ビラ事件」についても、鈴木邦男が自分のサイトでこう指摘している。
「(2006年)3月26日(日) テレ朝の「サンデー・プロジェクト」は後半45分が特集「ビラ配り逮捕と公安」。私もインタビューされました。元公安の島袋修、真田左近、北芝健さんらも出てました。驚いたのは、公安が撮ったビデオ(裁判所に提出したものでしょう)が紹介されてたことです。郵便ポストに共産党のビラを入れる人。彼を捕まえるために何人もの公安が何回も尾行する。カメラは2台もある。マンションに入ったら、「やった!」と公安が叫ぶ。凄い映像だ。「言論は大丈夫か」というシリーズで、もう3週やるそうです。見て下さい。」

日本では政府与党を批判する思想を取り締まっているようで心配である。民主主義国では、政府与党を批判することは罪にされないはずなのだが。




結論。
東京高裁の逆転有罪判決は不当である。その理由を一言で言うと、高裁判決は「住居侵入」という理由の適用において、居住者の法益が具体的にどのように侵害されたのかについての具体的な検証が全く不足しており、「住居侵入」と「言論・表現の自由」の比較考量を誤っている可能性が高いから。これでは、民主主義の前提である言論の自由が掘り崩される。

まず、ビラ入れをした被告を有罪とすることを支持する意見をできるだけ多く読んでみた。「ビラ入れ有罪論」の論拠はほぼ全部読んだと思う。その大部分は、民主主義の前提としての市民どうしの言論の自由なやりとりの重要性(言論・表現の自由)の理解が不十分か、法理論に対する誤解や理解不足があるか、本件の事実関係の検証が不足しているか、本件の事実関係の認識に歪曲が目立つか、論理矛盾をきたしているかのいずれかであると見られた。と同時に、「ビラを受け取りたくない人の権利はどうなるのか」という問いかけに見られるように、「ビラを受け取りたい人の権利をつぶしている」こととの比較考量もなかった。

一般商業ビラのポスティングが普通は罪に問われることがない現実、本件の反戦ビラの場合の逮捕、長期拘留、起訴、異常な量刑という現実からして、この逮捕は住居侵入によって行われたというよりも、イラク自衛隊派遣という国策に反対した言論ゆえに逮捕、長期拘留、起訴、有罪となったと考えられる。言論の自由をおびやかす、民主主義国とは思えない判決であると思える。不起訴になってもいいくらいであると個人的には思う。

立川反戦ビラ入れ裁判の被告は無罪と筆者は結論する。

もし最高裁で「被告は有罪」という判決が出るなら、日本には言論の自由はなく、民主主義国ではないと海外の民主主義国からは見られると思う。アムネスティ・インターナショナルがこの3人の被告を「良心の囚人」と認定したことがそれを感じさせる。


以下はおまけ。

●おまけその1:全体的感想
「ビラ入れ有罪派」の主張にみる、誹謗中傷ぶり、論拠の無理筋ぶり、自家撞着ぶりと、それら全部を合わせたものとしての無茶苦茶ぶりの実例がたくさんあったように思った。
有罪支持派の意見はしばしば、そのまま有罪支持派自身への批判としても使える。有罪支持派の意見を複数並べると、しばしば自家撞着を起こす。
たとえば、「迷惑な内容のビラだから有罪は当然」であるなら、反対の意見を他のブログに書き込むことはそのブログにとっては迷惑であり、「有罪」である、ということになることなど。

(「ビラ入れ無罪派」が引用する「無罪の根拠」をいくつか積み重ねても、自己矛盾は生じていないように思えた。)

一般的に、論点がたくさんあっていちどきに全部の論点を検討できないとき、たとえば、ブログのコメント欄が小さくてすべての論点にいちどきに目配せした意見を書くことがむずかしいときなどの場合には、論点が一つ一つ出されていくのにつれて一つの主張がだんだん補強されていくのが普通だと思う。
しかし、この場合、「ビラ入れ有罪派」の主張の根拠となる論拠をひとつひとつ積み重ねていくと、だんだん矛盾が噴出してきて、ビラ入れ有罪派の主張は自己崩壊している、という感想を持った。



●おまけその2:「インターネット上のビラ入れ有罪派」の発言の傾向についての考察
まず、発言の内容以前に、「サヨ」、「プロ市民」など、「仮想論敵」に対する蔑視的呼称がよく使われており、文章のトーンも「最初から」侮蔑的、攻撃的であることが多い。問題を真摯に検討、議論するためならば最初から侮蔑的である必要はないのだから、匿名での発言でこのような傾向が顕著だということからは、「ビラ入れ」や「言論の自由」や裁判所判決の正当性もしくは不当性について真摯に考察しようという動機は薄く、自分の反対者を「権威の力を借りて有罪にしたい」欲求があるのではないかと考えられる。
ここで「仮想論敵」という言葉を使い、「最初から(侮蔑的、攻撃的)」と指摘したことには次のような意味を込めているつもりである。同じブログ、フォーラム、スレッドで直接論争しているときにレトリックとして目の前の相手に向かって多少の根拠の伴った侮蔑的表現(たとえば、はっきりした論理矛盾に気付かなかったり初歩的な原理を理解しなかったりする相手に向かって「小学校からやり直しなさい」という類の言い方)を使うのではなく、現実に直接論争していない相手を「サヨ」「プロ市民」などの名称のもとに論敵として「想定」して、それに対して向けられる侮蔑、という意味。
まさにこのような差別的暴言の中に、「ビラ入れを有罪にしたい人々」の心理を解明する鍵がありそう。実際、「ビラ入れを有罪にしたい人々」は非常に高い割合で共産党員や反戦ビラポスティングをする人たちに対して侮蔑的な呼称を使っていて、このことが、彼らの主張の動機をよく示していると考えられる。「ビラ入れを有罪にしたい人々」は「言論の自由と市民生活と私的自治と法的処罰の比較考量」をやってはいない。どんな小さなことでも大声で言い立ててただただ自分の反対者を有罪にしたいだけだ、という印象を持った。
実際、「インターネット上のビラ入れ有罪派」の発言には、一審地裁判決のような、実態に即した「言論の自由」と「居住地侵入」との「具体的で実証的な」比較考量が非常に乏しい。
また、論敵あるいは批判対象(この場合は「ビラ入れ無罪派」もしくは「『ビラ入れ有罪』批判派」)の主張をねじまげる例が目立つ。それは、ビラの文句の引用方法、「立川自衛隊監視テント村」の現実の活動への理解のしかた、論敵の主張の引用方法や解釈のしかたなどではっきりと見られる。これでは真摯な考証とは言えない。

これらの観察から、「インターネット上のビラ入れ有罪派」の多くは、自分が蔑視する相手(「サヨ」)から主張される国策批判の言論(自衛隊をイラクに派遣することへの反対)の中身にあまり立ち入ることをせずに論敵の主張をおとしめる目的で「住居侵入」という理由を繰り返し用いているように見えた。実際に「ビラ入れ有罪派」の言論は言論空間でそのように機能していると言えると思った。

一方、「ビラ入れ有罪派」が自らの見解を擁護するなら、以下のことに説得的で論理的な見解を示すつとめが確実にあると思う。

-住居侵入罪が適用されて「法律的に有罪」と判断されるための基準について。

-ビラ入れの被告を有罪にすることに賛成の論者は「迷惑」と「言論の自由」を比較して「言論の自由はあるにしても迷惑をかける自由はない」などと論じているのだから、「迷惑」の法律的定義を示す必要あり。

-「迷惑」が刑事罰となる場合の適用範囲の一般論。

-自分とは反対の意見を持つブログに、反対意見が書き込まれることを迷惑と感じるブログ管理者の意見とは反対の意見を書き込むことが正当化される理由。

以上です。

近々予定している葛飾政党ビラポスティング裁判の記事の前振りでした。(^^;



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8件のコメント

[C1945]

警察は昔から反共の砦でしたから、一連の事件自体は非常に「警察として自然」なことなのですよね。警察が、犯罪者だけを取り締まる合理的な組織だと思っている人は、さすがに少ないでしょう。
警察自体はさておき、事件についての一般の反応について。「住居侵入は犯罪であるから、従って警察は正当化される」という意見は多いです。
警察が反共であるという事はみんな知っているでしょうから、その事実を踏まえた上で警察の正当性を唱える意見が出るということは、主張の重心は「警察にも問題はあるけど、やはり住居侵入は犯罪ではないか」という点にあるのではないかと考えます。

私はその主張の正しさをまったく否定しません。「正しい」けれども「クレバーではない」、と考えます。その理由は2つあります。
1.正しい方達は、法律を守り、日常的にも正しい行いをされているのだと思います。いわば、法律「を」自ら守る生き方。
しかし世の中には、法律「で」自らを守る人も沢山います。この種の人は、清廉潔白であることに価値を見出さず、プラスマイナスで得か損か、に価値を見出します。最終的に得をするなら、法は破るためにある。時には警察とも懇ろになります。

2.警察が公平無私に犯罪を取り締まる機構ではない以上、自分の財産は自分で守るのがベターと言えます。だって、どんなに法律「を」守っていたとしても、警察と裁判所は、法律「で」武装した人間の味方なのですから。
ならば、「○○は犯罪です」「警察がこれを取り締まりまるのは正しい」と主張するよりも、「○○は迷惑です」「私が私のために相手と交渉します」と行動した方が、はるかに自分のためになります。待っていても誰も助けてくれないのですから。
  • 2007-12-20
  • 投稿者 : 人生アウト
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[C1946]

他人の住居に侵入したんだから、そりゃ犯罪でしょう。
言論の自由云々以前の問題であり、住居侵入罪は当然ですよ。

[C1947] 気持ち悪さ

>村野瀬様
政治的ビラ配りを有罪とすることの不当性について、緻密な論理と論証によってご説明いただきありがとうございます。

ただ、恐らくビラ配りに反対する人間の心理というのは論理的なものではないのだと思うのです。それは宗教や政治運動に対して一般の日本人の示す、なんとも形容のし難い恐れ、言うなれば、『狂信者』を見る目だと思うのです。

多くの日本のムラ社会、大企業の寮、自衛隊官舎などの、地域共同体と政治信条が一心同体である場所では、共同体の支持する政治信条とは異なる政治団体のビラを見てそれに共感することは、自己の所属する共同体への裏切りに他ならないのです。

悪魔の誘惑を配って歩く者は、悪魔の手先でしょう。
だから政治的ビラを配る者は、言うなれば『悪魔の手先』であって、逮捕してほしいと思うのは彼らにしてみれば普通のことなのです。
彼らは村野瀬様が生きている『現代』ではなく、『中世』に生きているのですから。
  • 2007-12-20
  • 投稿者 : KY
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[C1949] <ミノムシ通信>「警察は、『ビラ配り』より、『古森』を逮捕しろ!」

いつも古着ばかりなので、今日はニューファッションで身を包もうと最新版を手に入れたところ、『古森』の無法ぶりが載っていました。(nさ〜ん、NHKは益々悪くなってますよ〜)

【『NHK経営委員が委員長批判会見 求められる説明責任』(2007年 12月20日 朝刊)

NHK経営委員会の菅原明子委員、保ゆかり委員が十九日、会見を開いて、次期NHK会長選出をめぐる古森重隆委員長のやり方を批判した。経営委員が公の場で委員長への不満を述べるのは前代未聞の出来事。「強引で、看過できない」(菅原氏)というのが理由だが、両氏の説明と古森氏のこれまでの発言は、事実関係で食い違いが目立つ。両氏の批判を受けて古森氏は「一方的な運営をした事実はない」と反論しているが、説明責任を果たす必要があるのは間違いなさそうだ。 (小田克也)

「威圧的で、議論を封殺する」。両氏は、古森氏の議事運営をこう言い切った。

 その具体例として、経営委員による指名委員会(13日)の模様を取り上げ、「新会長についてNHKの内部から起用するのか、それとも外部からか」という議論のスタートがそもそもおかしく、人物本位で選ぶべきだと意見を述べたが、古森氏に聞き入れられなかった−と主張した・・・・
http://www.tokyo-np.co.jp/article/entertainment/news/CK2007122002073574.html
  • 2007-12-20
  • 投稿者 : コギトエルゴスム
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[C1954]

私の脳みそなんぞ、データを読むだけでシュッシュッポッポ…プシュー!です。(笑)
一旦、コピーさせて頂いて、暇な折に、また、読みなおしたいと思います。一読して「なるほど…」では、勿体ない、と私は思います。
最近、テンション下降気味の私ですが、玲奈さんが、これだけ頑張ってる…と思うと、もう少しは頑張らないとな…と意欲が湧いてきます。師走…忙しい中、時には休憩しながら、頑張って下さい。それでは、また。

[C2062] >MK様

(返事が遅れましたが。)

いいえMK様。MK様の2行しかない論理にしたがうなら、マンションの共用スペースを通る住人以外の人は全員有罪でなければならないはずですね。現実はそうなっていますか?

それにしても、MK様は自分の意見によほど自信が無いのか、でたらめなメールアドレスを書いて匿名性の陰に逃げ込もうとしておられますね。
  • 2008-01-02
  • 投稿者 : 村野瀬玲奈
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[C3287] MKさんに質問

MKさんにお伺いします。

仮に、彼らの投函したビラが、「自衛隊派遣賛成!私たちは自衛隊のイラク派遣を強く支持します!」とかいう内容だったら、彼らは逮捕されたでしょうか。

「住居不法侵入」が問題なら、ピザ屋のチラシとかも片端から逮捕されて、日本中の警察の留置所がパンクしそうですが、そんなことは金輪際起きはしません。

一応日本は思想信条の自由が保障されている国なのだから、国家の気に入らない言論活動をする人間が弾圧されるというのでは、日本人が大嫌いなどこかの国の人権抑圧をそんなには笑えないのでは。少なくとも私は、「日本はあの国と違って思想信条の自由が保障される国で本当によかった」と、心の底から言える日がきてほしいと考えています。

あ、村野瀬さん、非国民通信さんのコメントにも書かせていただいたのですが、この事件は公安警察と検察の存在意義の誇示という側面があると思います。しょせん思想信条の自由も、予算獲得の方便のためには嬉々として踏みにじられるというのでしょうか。お話になりませんね。もちろんこれが、私の杞憂であればいいのですが・・・。村野瀬さんのお考えはいかがでしょうか。
  • 2008-04-12
  • 投稿者 : Bill McCreary
  • URL
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[C3307]

>近々予定している葛飾政党ビラポスティング裁判の記事の前振りでした。(^^;

たいそう長い前ぶりですね^^。
映画の事前検閲や、映画館への恫喝が見逃されている國の、表現の自由問題。おっしゃるように、初歩的なところが理解されていないと思います。ビラの内容が<自衛隊派遣応援!>や<レストラン案内>であれば、住居侵入にならない、というのでしょうか。

表現の自由は、その表現を受ける人の<不自由>以上の利益を予想しているがゆえに認められている権利です。公序良俗に反したビラでなければ、ポストに入れるくらいであれば、<堪え忍ぶ>義務が受け手にはあります。

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Author:村野瀬 玲奈
日本の民主主義化運動のため、国会議員、行政機関、マスメディアに主権者、納税者、生活者の声を届けるお手伝いをするサイバー政治団体(笑)「世界愛人主義同盟」秘書。護憲派アマゾネス軍団労働組合所属(笑)。派遣秘書としてこちらにもときどき勤務(笑)。
この秘書課広報室備え付けの国会議員の政党別・委員会別・都道府県別などの名簿の一覧と使い方はこちら。たとえば、非正規労働を正規化せよと民主党幹部に要望の投書をするなど、ご活用ください。名簿の最終更新日は2008年1月23日。
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(from deviantART "Gaza")

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...ベルギー憲法も。

『第11条 ベルギー国民に認められた権利と自由の享受は、差別なく保証されなければならない。その目的のために、法律及びデクレをもって、特にイデオロギー的及び思想的少数者の権利および自由を保障する。』

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