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「迷惑」と「刑事罰」の整合性と、「私的自治」の法的有効性・無効性 (葛飾政党ビラポスティング裁判・東京高裁逆転有罪判決をめぐって)



さる2007年12月11日、葛飾政党ビラポスティング裁判の東京高裁判決でビラをポスティングした被告に逆転有罪判決が下されました。まずこの判決への私の短評を書きます。

ビラのポスティングが「迷惑」で「住居侵入」だから「逮捕」して「法的に有罪に」できるという逆転有罪判決ですが、その論理によれば、自民党や公明党や民主党やそれらの政党の議員のビラや商業ビラやダイレクトメールがポストに入れられたらその瞬間、または、新聞の勧誘員がドアのところに来て「S経新聞を購読してくれませんか」とか「Y売新聞をとってくれませんか」とか言ったその瞬間に逮捕できるという内容ですね、東京高裁の池田修裁判官殿、検察、警察のみなさま。



「ビラのポスティングを有罪と考える人に説明。 (立川反戦ビラ入れ裁判をめぐって)」の記事で、この種の裁判の基本的な論点はほぼ言い尽くしたと思っていますが、葛飾政党ビラポスティング裁判での地裁の無罪判決をなお批判する人、ビラによる「迷惑」だけが論点だと思う人、「迷惑」だから「法的に有罪」だと思う人がまだいらっしゃるようです。

そこで、葛飾政党ビラポスティング裁判の被告の僧侶は有罪か無罪かを決めるために必要不可欠な論拠について、不肖この秘書課広報室でも再度説明します。

長い記事ですが、私が必要と思う論点をすべて盛り込みましたので、この問題に関心のある方はぜひ一通りお読みくださるようお願いいたします。また、記事の最後には、被告への支援のための連絡先も載せました。どうぞよろしくお願いいたします。m(__)m

まず、この問題について説得的な結論を出したいと思うなら、以下のような態度が絶対に必要です。
-きちんとした事実認定。
-正確な解釈と考量。
-民主主義の原理や基本的法律論を尊重した正確な論理。
-論点間の重要性の差についての判断を誤らないこと。
-法律的問題と感情的問題を区別して論じること。

これらの態度はこの検討に必要な大前提ですので、この記事を読んだ後に「ビラ入れ有罪」の立場でコメントをしたい方にも尊重していただかなくてはなりません。では、葛飾政党ビラポスティング裁判について、そして、この種の事件をどう見るべきかという普遍的な考え方の検討に入ります。

まずは資料から。

裁判の様子、そして、「事件」の詳細を知るための公判傍聴記と地裁、高裁の判決要旨を被告支援サイトで見ることができます。

●葛飾ビラ配布弾圧事件 ビラ配布の自由を守る会
http://homepage2.nifty.com/katusika-bira/index.htm

ちなみに、このサイトにはビラの写真もあります。なんの変哲もない、合法政党の活動報告にすぎません。

ビラの写真↓
http://homepage2.nifty.com/katusika-bira/E14.htm


中でも、地裁、高裁の判決要旨は次のところに。

東京地裁:無罪判決
要旨
http://homepage2.nifty.com/katusika-bira/C7_1.htm#1

ビラ入れは平穏におこなわれ、マンション内に被告の僧侶がいた時間も少ないことがわかります。無罪は当然の判決だと思います。
しかし、無罪判決ながら、奥歯に物のはさまったような論理展開が気になります。また、言論の自由と「共同住宅の開放共有空間への侵入」との比較考量は少ないです。

東京高裁:逆転有罪判決
要旨
http://homepage2.nifty.com/katusika-bira/C16_2.htm#9
ちなみに、新聞報道はこんな感じ。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/feature/youshi/news/2007/CK2007121202071913.html

「これが高裁判決ですか?」「これが法律論ですか?」と言いたくなる粗雑さにはびっくり。
検察側はマンションの管理組合の現理事長にきちんと証言させることができておらず、元理事長の証言も有罪にするための証拠として採用できていないというところからして話になりません。そして、有罪にするためでしょうか、都合の悪い論点は全部無視しています。このような恣意的な権力行使が行なわれる国は独裁国家であるとしか言いようがありません。
そして、「滞留」という言葉で被告の僧侶がマンションの共有スペース内でなにか悪いことをしたかのように書いていますが、これは検察官の論告でさえ使われていない言葉です。そのうえ、「滞留」したことによる具体的被害をきちんと説明できていません。
言論の自由と「共同住宅の開放共有空間への侵入」との比較考量も相変わらず少なく、論理的整合性の無い形式的な「住居への侵入」と主観的な「迷惑」論です。これが粗雑な裁判官のたまたまの出来の悪い判決でなくて裁判所という組織の意思ならば、日本は恐ろしい独裁国家と認定される資格が十分にあるということになります。

このように、高裁判決は、事実を一つ一つ見ながら論点を一つ一つ検討するだけで法律家でなくてもそのおかしなところがすぐにわかってしまう粗雑な判決です。


考察

この種の裁判の基本的な論点は立川反戦ビラ入れ裁判についての考察と同じです。つまり、民主主義の基本である言論の自由とこの件での「住居侵入」(カッコ付きの「住居侵入」です)の両方を考量することです。言論の自由について尊重すべき基本も同じなのですが、ここでは、それ以外の次の四つの点を順々に考察し、説明していきます。

*ビラによる「迷惑」とは何か
*「住居侵入」とは何か
*管理組合による「私的自治」の及ぶ範囲と法律的な効力
*本当に住民の意思「だけ」が逮捕の動機なのか

1. 「ビラが入ることによる迷惑」とはなんでしょうか。

一般的な意味での「紙(ビラ)」が郵便受けに入れられることが物理的に迷惑だと言うのなら、「宅配ピザのチラシ」、「スポーツクラブのチラシ」、「マンション分譲のチラシ」、「自民党(または自民党議員)のチラシ」や「民主党(または民主党議員)のチラシ」や「公明党(または公明党議員)のチラシ」、あるいは新興宗教のチラシ、さらには、直接のポスティングではなくて「郵便や宅急便で送られてくるいろいろなダイレクトメール」もあります。それらと「共産党の作った市政報告ビラ」の間には、どれも「紙」であるという意味で物理的な違いはありません。人が郵便受けに入れるという方法も同じです。また、紙ということなら、それぞれの区市町村発行の「区政便り(市政便り、...)」というような「お知らせ文書」もありますよね。「共産党のビラ」を主観的に迷惑と感じる人がいるのなら、政治・行政が徹底的に嫌いなために「区政便り(市政便り、...)」を主観的に迷惑と感じる住民が一定数いたら、自治体を有罪にすることができるのでしょうか?「自民党は国民に迷惑ばかりかけている政党であるから大嫌いで、その主張が印刷されたチラシを手に取ることさえもおぞましく、ストレスがたまる。自民党議員の宣伝ビラ配布は大迷惑だ。自民党の政策にも限りない恐怖を感じる」という理由で団地住民がビラを配った自民党員を逮捕させることができるのでしょうか。「迷惑」だからダイレクトメールを送ってくる会社をいきなり有罪にできるのでしょうか。

「自民党のビラ」や「民主党のビラ」や「公明党のビラ」や「ピザのビラ」や「スポーツクラブのビラ」をポスティングしたことで有罪になった例が「共産党のビラ」と同じように一定数あるのなら、「共産党のビラ」を入れたことで有罪になることも一応筋は通るのですが、現実に逮捕されたり起訴されたり有罪になったりするのは反戦ビラや共産党のビラのような現政権に異議を唱える側からのビラがほとんど。共産党のビラだけを法律的に有罪にする理由を、郵便受けに紙があふれることによる「迷惑」に求めることはできない、というのがごく普通の論理です。

この場合、ビラをいらないと思う住民は、いきなり警察に逮捕を要請するのでなく、ビラを配りに来た人に「我が家には入れないでください」と言うことが先だと思います。現に、被告の僧侶は件の住民にとがめられたときに「以後はおたくには入れませんので部屋番号を教えてください」とその住民に尋ねています。

あるいは、不要なダイレクトメールを送ってきたところに「うちには今後送らないでほしい」と書き添えてダイレクトメールを送り返すことでしょう。私はそうしています。

しかし、葛飾政党ビラポスティング事件の一審の地裁判決によると、被告の僧侶を「逮捕」したマンション居住者はドアポストにビラを投函したピザ宅配業者や共産党に配布の中止を求める電話をしたと証言したそうですが、その際には自分の氏名やマンションの名前すら言わなかったそうです。変な行動です。

「ビラを郵便受けに入れられる」ことを主観的に迷惑と感じる人がいる人がいる一方、ポスティングされるビラの内容を有益だと感じる人もいます。現に、配布されたビラを読みながらエレベーターを利用しているマンション住民の姿も防犯カメラに映っていることが明らかにされています。ビラの内容に関心はないが、「捨てればいいだけなので」迷惑とも思わない人もいます。ビラを郵便受け(ドアポストであれ、集合ポストであれ)に入れられることを一律に一方的に法律的に有罪にするほどの迷惑だとは言えないでしょう。

逆に、ビラを迷惑だと感じる人がいたとしたら、すべてのビラ配布者をマンションに入ったところで全員逮捕しなければならないはずでしょう。

東京高裁の逆転有罪判決も含めて、ビラ入れは住居侵入であり迷惑であるから有罪であるとする人の論理(と呼べるなら)は、多くの人が迷惑だと感じるしつこい新聞や宗教の勧誘員が逮捕も起訴もされず有罪にもされないことを全く説明できないのです。このような論理(と呼べるなら)が裁判所の判決で堂々とまかりとおるということは、日本の裁判官の多くが少なくない部分が法の番人ではなくなっていることを示していると私には思われます。

付け加えると、「公共の福祉」をここで持ち出してビラ入れを迷惑だから有罪にせよと主張する向きもあります。しかし、そのような主張の中には、そもそも「公共の福祉」とは何かということと、ビラが入ることによる主観的な迷惑と、言論の自由が保障されることとのどちらが「公共の福祉」に近いのかきちんと論じたものはほとんどありません。「公共の福祉」をここで持ち出すことはお門違いだと思います。


2. 開放型集合住宅への「住居侵入」とは何でしょうか。

オートロックでない集合住宅の場合、入り口ホールや廊下など、共有スペースには誰でも物理的に入ることができます。たとえば、ビラを入れに来る人だけではなくて、新聞の勧誘員、宗教の勧誘の人なども入ることができます。その共有スペースに入ったことが有罪となるほどの住居侵入であるというのならば、新聞の勧誘員が共有スペースに入った「だけ」で逮捕されるのでしょうか?
さらに言うなら、新聞の勧誘員の中には「粘り強い」人たちもいます。(それが仕事ですから。)そのような人たちが来て粘り強く「勧誘」されたとしたら、それを「住居侵入」と言って警察に電話したら、警察は即逮捕してくれるのでしょうか?
とる気のない新聞を購読するように「粘り強く」勧誘される方が、ビラ一枚が平穏にドアポストに入れられて終わるよりも「迷惑」の度合いが大きいと感じる人はかなりいると思います。私もその一人です。しかし、そのような場合に警察に通報しても無視されるのはなぜなのでしょうか。また、そのような新聞の勧誘員がめったに逮捕、起訴されないのはなぜなのでしょうか。
ビラのポスティングを有罪であるとする人たちの「論理」(と呼べるなら)は、このことを説明できていません。
そう考えると、この共産党ビラポスティングの僧侶が「住居侵入」で逮捕、起訴され、有罪にされたことの異常な不自然さがよく理解できます。

そもそも、集合住宅での「住居侵入」の定義ももっとていねいに考察するべきだとも思います。誰でも通れる共有スペースの性格は、外の道路とはちがって居住区域に近いとは思いますが、住居の室内と同じとみなすことは厳密ではないと感じます。判決文では、「共有スペース」も実質的に「室内」とほぼ同じとみなしており、その論理を完全に否定するものではありませんが、もう少し厳密な考察をすべきであると問題提起だけしておきます。

なお、ここでも、「見知らぬ人が通るのは気持ちが悪い。侵入したら有罪にでもしてほしい」という主張もあります。住居の安全を心配するその気持ちはよくわかりますが、誰でも入れる場所は誰でも通ることができるのですから、そのスペースを通っただけで「侵入、即逮捕、法律的に有罪」というのには無理があります。前にも書きましたが、ほかのビラ入れや新聞の勧誘員も通るし、見知らぬ人が通っていることは葛飾の当のマンションの防犯カメラに映っている通りなのです。

また、入り口の管理人に断りなく侵入したからだめ、という主張もありますが、公判傍聴記や判決文を見ると、管理人は24時間7日間管理人室にいるわけではなくて、土日と夜間はいないわけですし、勤務日だって管理人室にずっといるわけではなく、掃除などのためにいないことが多いとマンション元理事自身が証言しており、必ず管理人の許可を得なければならない、というのは現実的な議論とは言えません。元理事は「管理人がいない場合、土日、夜間の訪問者はどうすればいいのか」ときかれ、「その時は理事の誰かに連絡してもらいます」と答えていますが、理事の連絡先が掲示されているわけでもないのです。現実には用件があって訪ねてきた人は管理人や理事に許可を取ることなく自由に共用廊下を通って各戸に行っている現実があります。

「理事会の決定」というのも、公判の様子を書いた支援サイトを見ると、元理事は、「関係者以外立ち入り禁止、ご用の方は管理人室への看板を設置」とある平成14年(2002年)2月の理事会の議事録について、理事会でどんな議論をしたのか覚えていないと答える一方、「立ち入り禁止の看板またはポスターの設置を決めた」ことは具体的に証言したものの、「議事録と異なる内容だがそこだけは記憶があるのですか」と被告側弁護人に突っ込まれて支離滅裂になったと説明されています。これでは、「立ち入り禁止の表示」に関する検察側の主張はかなり弱いのではないでしょうか。

「立ち入り禁止の看板」というのも、事件後に立てられたこと、「理事会決定」にもとづく具体的な措置は何もなかった、ということも公判で明らかになっていることも支援サイトに書いてありますし。

マンションに訪ねてくる見知らぬ人を、どんな人なのかを問わずに逮捕してほしいとまで気持ち悪く思うなら、社会生活は成り立たないと思いますが、それはそれとして、ここでは、普通の人が見知らぬ人を気持ち悪く思う主観的な気持ちと、有罪にできるかという法律論をきちんと区別しましょう。ここでも、問題は、逮捕される人はランダムに選ばれた侵入者ではなくて、共産党のビラ配りであったり、反戦ビラだったりするわけなのです。法律の適用方法に筋が通っていないのです。そして、ここでも、筋の通らない恣意的な法律の適用を行なう国家は全体主義的独裁国家である資格を十分に持っている、ということです。

あるいは、こんな言い方もできるのではないでしょうか。

開放型集合住宅の住民の一人が、共産党のビラを自分の住む集合住宅内のドアポストにポスティングして回ったとしたら、それは「住居侵入」の構成要件となるでしょうか?
その場合と、開放型集合住宅の外から来た人が集合住宅内のドアポストにポスティングした場合とは、本質的にどう違うのでしょうか?


3. 管理組合による「私的自治」の及ぶ範囲と法律的な効力

ビラのポスティングを有罪にすることを主張する論拠として、集合住宅の管理組合による「決定」を引き合いに出す主張もあります。この葛飾政党ビラポスティング裁判の場合、公判の様子を調べれば、その「決定」なるものについての証人の証言がかなりあやふやであることが見てとれます。ですから、この裁判の場合、このマンションの管理組合の決定を引き合いに出す根拠は弱いと思います。

それはそれとして、一般論として、政治的信条も価値観も千差万別の人々が多数住む集合住宅の管理組合の私的自治にまで問題を広げるのなら、それぞれの住民の個別の意思、管理組合による決定のプロセス、その決定の有効性や妥当性、その決定の持つ法律的な強制力などまできちんと検討しなければなりません。しかし、そこまで説得力のある論には、東京高裁の逆転有罪判決を含めて、全然お目にかかっておりません。

簡単に考えても、こういうことは言えると思います。まず、住民の個別の意思について。ビラをほしくない人、ビラをほしい人、政党ビラには関心があるけどピザのビラには関心のない人、そのピザのビラには関心があるけど政党ビラには関心がない人、普段はピザのビラには関心はないけどちょうど自宅で会食の予定があったのでその直前に入ったピザのビラをその時だけ重宝した人、というように、集合住宅にはいろいろな人たちがいます。そのようなとき、管理組合が一律にビラを入れるなと決めてそれを住民の総意と主張することに無理はないでしょうか?「ビラ入れはご遠慮ください」と入り口ホールに貼りだすことはできるでしょうが、ビラを入れに来た人たちを、「最初からいきなり」「逮捕」することが住民の総意であるとは考えられません。

現に、僧侶がビラを入れたこのマンションの住人の中にも、「逮捕はやりすぎだ」と考えている人もいます。ビラをポストで受け取ることに問題を感じない人もいます。ビラを受け取りたくない人は受け取らなくてもいいし、受け取っても捨てればいいだけのことです。他のビラについてはビラ配りを逮捕させようとしていないのに、共産党の議会報告だけについて「迷惑」と訴えることを住民の総意とは呼べないと思います。仮にそこの住民が全員「共産党の議会報告だけが迷惑である」という意思を持っていたとしても、それを理由に逮捕して法律的に有罪にすることができるなら、それは独裁的全体主義国家のやることです。

一方、ビラを受け取りたい人に向かって、「ビラを受け取ってはいけない」とか「ビラがほしければ共産党の事務所に行け」と指示することはできないでしょう。逆に、ビラを読みたい人にとっては、ビラをわざわざ共産党の事務所に取りに行かされることは「迷惑」ですから。

こう考えてくると、誰がどのビラをほしがるか、許容するか、あるいは許容しないか、人によって千差万別である状況では、特定のビラを一括して排除することは理論上も現実上もできません。いらないビラは各自が判断して捨てればいいのです。管理組合が私的自治を持ち出してビラに対する個々の住民のニーズを一律に統制することは行き過ぎです。こんなビラなら受け取るがこんなビラなら受け取らないという各入居者の意思を管理人がすべて記録しておいて、ビラをすべての入居者ごとに選別して入居者に個別に届けるなら話は別かもしれませんが、そんなことは現実的ではないでしょう。

そして、この被告を有罪にしたいのなら、管理組合の決定を無条件にそのまま法律的可罰性とリンクさせることができるのか、という点についても説得的で緻密な説明を与えなければなりませんが、そんな説明は逆転高裁判決の中にも、それ以外のところでも、私の知る限り見たことはありません。


4. 本当に住民の意思「だけ」が逮捕の動機なのか

公判の様子は被告を支援する人たちの公判傍聴記と判決文でしか知ることができませんが、それを読むかぎり、そして、奥歯に物のはさまったような地裁の無罪判決と、説得力も論理的整合性も乏しい高裁判決を読む限り、本当にこの僧侶の「逮捕」にかかわった住民の「迷惑」だという意思だけでこの僧侶が逮捕され起訴されたとは思えません。


まとめ

「迷惑」や「住居侵入」や「管理組合の私的自治」の論点だけでさえ、ちょっと考えてみればこれくらいのことをきちんと検討しなければならないのです。このような事例で簡単に逮捕、起訴し、法律的に有罪にすることはどんなに控えめに言っても大いに疑問ですし、このような軽微な件でこれだけ恣意的な立件をするのは独裁的全体主義国家のやることだと言っていいとすら思います。

しかも、論点は上の4つだけではなく、「言論の自由」との比較考量も欠くことはできません。しかも、しかも、そのような逮捕、起訴、有罪が現政権に異議を唱える側の行為にだけ集中することも非常におかしく、現実的にこのような逮捕は、言論の自由と民主主義に対する大きな脅威になります。

法律論抜きに普通に考えても、私たち一般市民は、お互いに小さな(主観的)「迷惑」をかけたりかけられたり、その「迷惑」が小さいものであれば許容したり許容されたりしながら生活しているのが現実です。主観的な迷惑だけを理由に相手を有罪にしたがるような社会は息苦しく、健全ではないと思います。

結論としては、上で指摘したこれらの論点に裁判所がきちんと答えられないのなら、この僧侶は無罪であると思います。そもそも、起訴、立件すべき事件でもなかったと思います。税金の無駄遣いだと思います。

それでも最高裁上告審で「有罪」とされるのなら、日本の言論の自由は終わった、と結論して、私個人として、海外には「日本には言論の自由はない」と説明することにします。それと同時に、自民党や公明党のビラ入れもどんどん警察に通報して逮捕してもらうか、住居侵入で告発せざるをえなくなりますがよろしいでしょうか、警察、検察、裁判所のみなさま。あ、もちろん、この種の裁判で「被告のビラ入れは住居への侵入であり、有罪判決は当然である」という内容の社論を持っている新聞の勧誘員の方々が「住居に侵入してきた」場合も、どんどん警察に通報して逮捕してもらうことにしましょう。(怒笑)

なお、これらの考察は、共産党のビラ(議会報告)を入れたこの僧侶が有罪なのかどうか、また、逮捕、起訴が適切であったかどうかに対するものです。これらの考察は、ビラのポスティングという手段の効率性、マンション住人との友好的な関係の作り方、警察やマンション管理組合との付き合い方(?)という点について述べたものではないことをお断りしておきます。

ここで、最初に書いたこと、もう一度繰り返しますね。

ビラのポスティングが「迷惑」で「住居侵入」だから「逮捕」して「法的に有罪に」できるという逆転有罪判決ですが、その論理によれば、自民党や公明党や民主党やそれらの政党の議員のビラや商業ビラやダイレクトメールがポストに入れられたらその瞬間、または、新聞の勧誘員がドアのところに来て「S経新聞を購読してくれませんか」とか「Y売新聞をとってくれませんか」とか言ったその瞬間に逮捕できるという内容ですね、東京高裁の池田修裁判官殿、検察、警察のみなさま。



ということで、この件は立川反戦ビラ裁判と並んで、日本が全体主義的独裁国家としての性格を決定付けるか、かろうじて民主主義国でいられるかどうかの瀬戸際の裁判だと思います。どちらの裁判でも最高裁上告審で無罪判決が出ないと、日本の民主主義は終わりかもしれないと、両裁判の経過を詳しく調べた私は思いました。


関連記事
(この記事に「ポスティング有罪」の立場のコメントをつけたい方は、ここでリンクをはった記事もぜひお読みくださるようお願いいたします。私の記事やこれらの記事の内容を踏まえたことがうかがえないコメントは、問題を理解する意思がないか、意思はあっても理解力がないか、偏見にとらわれて民主主義の道理を見失っているか、そもそも民主主義者でないかのいずれか、またはそのすべてであるとみなすしかないと私は思います。)

●情報流通促進計画 by ヤメ記者弁護士(ヤメ蚊)
政党ビラまき東京高裁逆転有罪判決を下した裁判官に問う! パート2
http://blog.goo.ne.jp/tokyodo-2005/e/f3ff3f6ec7c4c34b62f27b9a1253b145

●アフガン・イラク・北朝鮮と日本
こんな御用判決なら九官鳥で全て事足りる
http://blog.goo.ne.jp/afghan_iraq_nk/e/4756c3d4b184c39d8d7b5c0d24693411

●Because It's There
政党ビラ配りと住居侵入罪の成否(上)〜東京高裁平成19年12月11日判決
http://sokonisonnzaisuru.blog23.fc2.com/blog-entry-726.html

政党ビラ配りと住居侵入罪の成否(下)〜東京高裁平成19年12月11日判決
http://sokonisonnzaisuru.blog23.fc2.com/blog-entry-727.html

●華氏451度
息苦しい国――ビラ配り有罪判決
http://blog.goo.ne.jp/bebe2001pe/e/a7ce43d8b013d008f1ba50c9b83701a7

●お玉おばさんでもわかる政治のお話
ビラ配り有罪かぁ・・・・
http://potthi.blog107.fc2.com/blog-entry-151.html
(↑コメント欄の議論、特に、Looperさんの説明と、反対者への反論はたいへん筋が通っています。)

また盛上がってるけどさあ・・
http://potthi.blog107.fc2.com/blog-entry-155.html

最後に、立川反戦ビラ入れ裁判を題材にした私の論考をもう一度。(^^;

●村野瀬玲奈の秘書課広報室
ビラのポスティングを有罪と考える人に説明。 (立川反戦ビラ入れ裁判をめぐって)
http://muranoserena.blog91.fc2.com/blog-entry-534.html
(↑今回の記事ではあまり触れなかった「言論の自由」との比較考量も十分に盛り込んでいます。)


被告への支援のお願い

最高裁判所への上申書書きやカンパなど、被告への支援は、よろしければこちらを参考にしてください。

●葛飾ビラ配布弾圧事件 ビラ配布の自由を守る会
http://homepage2.nifty.com/katusika-bira/E3.htm
葛飾ビラ配布弾圧事件 ビラ配布の自由を守る会
〒124-0011東京都葛飾区四つ木5-2-12-202平和センター
電話03-3826-0252 FAX 03-3826-0235
メールアドレス bira@m8.gyao.ne.jp

カンパ、会費は郵便振替口座から
口座番号 00150-2-297686
口座名義ビラ配布の自由を守る会



立川反戦ビラ裁判の被告のお一人のブログもご案内しておきます。

●立川反戦ビラ弾圧事件の被告のブログ(新ボラログ)
http://blog.so-net.ne.jp/hansenbira/
http://www.geocities.jp/solea01/
http://geocities.yahoo.co.jp/gl/solea01




追記
この↓記事、面白い。

●(元)登校拒否系
[反自由党][シリーズ:自由と強制と(無)責任の政治学]反自由党は「ビラ配布→逮捕→有罪」を歓迎する——はてなとmixiと秋葉原グアンタナモ天国の比較自由論
http://d.hatena.ne.jp/toled/20071211/1197417341



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7件のコメント

[C2063] 「現行犯」なら私人でも逮捕できる、でしたっけ?

 はじめまして
 仰るとおりだと思います。
敷地に入る者に対して、「迷惑だ」という主観をもてば、即”犯罪”になるというトンデモ判決に見えます。
 NHKの集金人でも、もしかしたら令状のない警官でも誰でも?不法侵入で逮捕できるわけで、山上たつひこもびっくりの1億総「こまわり君」状態ですね。たしか、現行犯なら、私人でも逮捕できるはず(この件も、そうだったような)。とんだ「警察国家」の完成で、フナムシも感涙に咽ぶことでしょう。警察も、検察も、裁判所も、監禁だの暴力だの拉致だの言わず、「よくぞ捕まえてくれた」と感謝状をくれることでしょう?郵便私企業もNHKも新聞屋も警察も広告代理店も出稿企業も素直に罪を認めない組織犯罪ですから、家宅捜索+盗聴+75日の拘留は堅いところですな。
 まったく、シュールな"国恥”判決です。さすが、知事だの議員だの裁判官・検察官だのに「きちんと人権だのについての国際法について研修させてね」と国連から勧告を受けてるだけのことがあります。「ちゃんとわかってるもん!」の結果がこれですな。
 じゃ
  • 2008-01-02
  • 投稿者 : L
  • URL
  • 編集

[C2066] 村野瀬さん鋭い

新年あけましておめでとうございます。

村野瀬さんが指摘されているとおり
もし自民党、公明党、民主党のビラだったら
商業ビラやダイレクトメールだったら
逮捕されていたかどうか?
このあたりに今回の事件の本質はあるように思います。
こういったことがまかり通れば日本は、思想信条の自由、言論の自由、良心の自由、信教の自由が侵害される全体主義的独裁国家になってしまいます。
それでなくても近年、平和憲法によって与えられた国民の権利を制限する法律が国会で次から次へと成立しているのですから。
  • 2008-01-02
  • 投稿者 : 閉口
  • URL
  • 編集

[C2068] >みなさま

>L様
はじめまして、いらっしゃいませ。
「不当判決」という言葉ですら裸足で逃げ出す、こじつけに満ちた判決だと思いました。こんな判決で裁判官がつとまるなら、私は最高裁長官だってできる、という感じです。

なお、この事件での逮捕の「いきさつ」についてはこの記事では触れませんでしたが、被告支援のサイトを見ると、かなりおかしなことが行なわれたようです。そして、そのようなところまではマスメディアではきちんと報じられていないということもわかりました。だから、事件の全貌を知らない一般の人が不完全な理解で「有罪だ」と断言するケースもあるのだと思いました。

「現行犯」なら確かに私人による逮捕もできるのでしょうが、この場合は、可罰的違法性についてこれだけ疑問点があるのですから、警察と検察のやり方はこじつけにすぎると思いました。

>閉口様

いつもお読みいただきましてありがとうございます。本年もよろしくお願いいたします。
この裁判の恐ろしさは閉口様も感じられたまさにその点にあるというのが判決文と公判傍聴記を読んで感じたことです。警察と検察と裁判所が犯罪とはいえないことを強引に犯罪に仕立てて言論の自由を縮小しようとしている、としか言えない立件の仕方であり、公判の経過であり、判決であると思いました。

「鋭い」とおほめいただいてうれしいですが、このような視点の高裁判決批判がないわけではないです。立川反戦ビラの被告の大洞さんのブログがそういう趣旨の感想を述べておられます。私はそういう視点をもうちょっとわかりやすく書いて囲み強調してみました。

こういう批判の仕方が一般の人たちにもっと広まれば最高裁も有罪判決を出すわけにはいかないだろう、と望みをかけます。
  • 2008-01-02
  • 投稿者 : 村野瀬玲奈
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[C2078] 有罪支持派の理由付けとその問題点

私の見たところ、有罪判決を支持する立場の人達は以下のいずれかの理由で本判決を支持しているものと思われます。(→以下は反論)

1.ビラの内容が気に入らない
2.ビラの配布主体(共産党)が気に入らない
→論外です。

3.共用住宅でのビラ投函なんかに憲法上の人権保障を与える必要は無い
→ビラ投函によりビラを見てもらって問題意識を持ってもらう機会を作り出すことは、表現の自由・政治活動の自由等に密接に関わる事です。

4.ビラ投函も憲法上保障する価値があるが、住居権を侵害しない手法でやって欲しい
→マイノリティにとってビラ投函に代わり得る手段はそれほど多くありません。ビラの手渡しやメディアの使用は人的物的リソースを必要とするからです。例えば、地方自治体の地元住民運動、ことにその初期は少ない人数でビラをポストに投函して回り、住民達に問題意識を持ってもらうことから始めなければならないこともあるでしょう。さらに共有部分への侵入は住居権侵害の度合が軽く、この場合【住居権侵害による損害<表現活動・政治活動が出来なくなる損害】となり得ます。

5.ビラ投函が重要なのは重々承知だが、怪しい人間がうろつくのは怖いので…
→ビラ投函のために共有部分に侵入する人を取り締まったところで、窃盗や暴行に巻き込まれる実質的危険性は変わらないと思います。

これら1〜5のいずれかに加えて次の2つをオプション的に付け加えるものが多いようです。

A.仮に住居侵入罪に該当するとしても実際に起訴されるとは限らないのでは?
→起訴便宜主義を取りつつ公訴権濫用法理を否定するわが国では、起訴の可能性を0にする=非犯罪化することが、恣意的な起訴を防止するためには必要不可欠です。

B.無理に投函しないほうがマナー的にもいいし支持拡大にかえって繋がるのでは?
→マナー的に望ましくないことと刑罰権の発動がふさわしいこととは全く問題を異にします。

全体的に見ると
α.表現の自由等への配慮が足りない
β.住居権や抽象的不安感を強調しすぎる
γ.刑罰の謙抑性の要請への理解が足りない
と言う共通点が見られるのではないでしょうか。
  • 2008-01-03
  • 投稿者 : trilemma
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[C2091] >trilemmaさん

いつもありがとうございます。
たいへんに簡潔で網羅的なまとめで、ありがたい限りです。m(__)m

>マナー的に望ましくないことと刑罰権の発動がふさわしいこととは全く問題を異にします。

おっしゃるとおりだと思います。
さらに私の感想を言うと、被告の僧侶は、件の住人に対して「あなたのところにはビラを今後入れないから部屋番号を教えてほしい」とたずねており、マナー的に特に問題があるとも思えません。「いや、そもそも断りなく侵入してビラを入れたから有罪なのだ」ということを主張するのであれば、新聞勧誘員もすべてのビラも問答無用で逮捕、起訴、有罪であり...(以下省略)
  • 2008-01-04
  • 投稿者 : 村野瀬玲奈
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[C9200] とてもわかりやすい文!

非営利の組織で活動をしています。ポスティングによる自前の広報は、お金をかけられない私たちにとって生命線です。 力強いあなたの理論に勇気づけられました。ただ、文中にあった公共の福祉との考量は、衡量の間違えかと思います。それだけちょっと気になりました。
  • 2009-11-20
  • 投稿者 : (無記名コメント)
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[C9207] >9200番の無記名様

コメントありがとうございました。そう言っていただけると、私も時間と苦労をかけてこれらの記事を書いたかいがありました。

問題は、裁判官がこれらすべての点を必ずしもきちんと考えないことですが、こういう考え方を広めることで少しでも不当判決を抑止する力になると信じたいです。
  • 2009-11-21
  • 投稿者 : 村野瀬玲奈
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