フランソワ・オランド仏大統領の日仏外交への疑問

　　

フランソワ・オランド仏大統領の公式日本訪問。その日程のすべてと内容は、日仏首脳共同記者会見や参議院でのオランド演説のような日仏政界の交流以外の部分も含めてフランス大統領府のサイトに記録されています。

●Présidence de la République　フランス共和国大統領府
Visite d’État au Japon
http://www.elysee.fr/chronologie/#e3420,2013-06-06,visite-d-etat-au-japon-2

関係者証言として、漫画家の松本零士が「私はフランス文化にずいぶん着想を得た」などと語っているメッセージを入れるところにフランス側からの日仏同盟深化（？）への意欲を感じます。フランスにいる日本のポップカルチャーファン、サブカルチャーファンへのアピールも兼ねて日仏の蜜月を強調しているのでしょう。

この大統領府サイトに記録されている内容と、フランス側での報道と日本側の日本語での報道と比べて、同じ政治イベントをどちらがどう報道しているかを一つ一つ調べてみたいところです。...ですが、ざっとフランス大統領府のサイトにある記録を読んで、フランス社会やフランス文化の理解者であると自分で思うと同時に日本国民と日本政府と日本経済界による民主社会放棄の現在進行中のプロセスを深く深く憂う者として私が最初に思ったことを列挙すると、次の通りです。

まず、オランド政権の日仏協力の深化の意図はわかります。一般論として、協力関係を深めていこうとすることに異存があるわけではもちろんありません。また、外交の場では、すべての問題についての両国の見解や政治的立場が一致するわけではなくても、外交辞令もいとわないことの必要性や、何らかの合意や協力関係をつくることの必要性があることは理解しています。

しかし、第二次大戦敗戦まで反民主的な軍国全体主義であったけど敗戦によって「民主化」されたはずの日本が現在、国をあげての民主主義放棄と全体主義回帰の過程にあることを考えましょう。

特に、それを直接推進しているのがほかならぬ安倍晋三首相の自民党であること、現在の日本の自民党政治は人々の生存権をおびやかすことを繰り返すなどあまりにも基本的な問題を多数かかえていることは重大です。日本の政財界とマスコミ業界がアベノミクスと呼ぶ経済政策には富者を富ませるための政策ばかりであり、弱者からは奪うばかりの政策であり、「強者のための経済成長はあっても弱者を含めた社会全体への再分配がない」という、政策という名の暴力であること。そしてそもそも、現在、日本の政治家には民主主義や政治の尊厳、さらには基本的人権や国民主権を理解していない者があまりにも多くなってしまっています。フランスの19世紀初頭の政治家ジャン・ジョレスに代表されるフランスの社会主義の伝統と現在の日本の政治とでは、「民主主義の価値観を共有」などしていません。今回の来日を通して、それらのことへの認識が、「公正」や「再分配」や「雇用安定」の重要性を説き続けてきたはずのオランド政権にはあるようにはあまり感じられませんでした。あるいは、それらのことを少しは認識しているのだとしても、あまりにも楽観的すぎるとも感じました。最近、日本の基本的な政治的素養の崩壊ぶりは橋下徹騒動によって世界的に知られるに至ったところなのに。

■ジャン・ジョレス（フランスの社会主義者）を偲んで
http://muranoserena.blog91.fc2.com/blog-entry-1334.html
2009-07-31

そのうえで、2011年3月11日の震災を直接の原因とし、それ以前に数十年にわたってその大失敗のお膳立てをしてきた日本の原子力政策の結果である福島第一原発の被害をこうむったうえで遅まきながら多くの日本国民に形づくられた「脱原発」の意思を無視するかのような原発輸出推進の日仏協力の共同宣言。

フランス社会やフランス文化の理解者であると自分で思うと同時に日本国民と日本政府と日本経済界による民主社会放棄の現在進行中のプロセスを深く深く憂う私には、今回のオランド外交と、安倍自民党の日本と原発大国のフランスの協力の共同宣言とそのもとになるオランド政権側の認識には全体として評価できないことが多すぎると言わせていただきたいのです。肯定的に評価すべきところまで評価できなくなりそうです。

フランソワ・オランド大統領が脱原発論者ではないことは理解しています。しかし、そのことを考慮に入れても、今回のオランド外交に対してはマリ空爆の時と同様に、失望の方が大きかったと言わざるをえません。

オランド政権側だけではなく日本側、安倍自民党政権側にもこの疑問は等しく向けるべきですが、まず、現時点で、あまりにも日本の政治的現状に無自覚なオランド外交への疑問と批判という形でこの記事を書かせていただきました。

今回は、日本側の報道をいくつか拾ったあそびたりあんさんのまとめを記録させていただきます。特に原発輸出協力についての東京新聞の記事の記録であり、それには私もおおむね同感したからです。

●Die Zeit des Rechts
赤信号みんなで渡れば怖くない？　日仏妄想同盟
http://d.hatena.ne.jp/asobitarian/20130608/1370671965
2013-06-08

まず、今日の東京新聞の社説を掲げる。

日仏首脳会談　方向性が違うのでは
2013年6月8日　東京新聞社説
http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2013060802000125.html

　安倍晋三首相は、来日したフランスのオランド大統領と日仏首脳会談を行った。原発の第三国への輸出や核燃料サイクル政策で連携することを確認したが、進むべき方向が違うのではないか。

　認識があまりに違うと言わざるを得ない。会談後の共同記者会見で、安倍首相から発せられた言葉に対してである。

　「世界の安全水準を一層高めていく観点から、日本の原子力技術への期待に応えていく」。福島第一原発でレベル７という史上最悪の過酷事故を起こし、いまだ原因も究明できず収束の道筋すら見えていない状況下にあるのにだ。

　首脳会談では、米国に次ぐ世界第二の原発大国であるフランスとの間で、核燃料サイクルの技術開発で連携するとともに、アジアや中東諸国への原発輸出の拡大も目指していくとした。

　安全面で完全に信用が失われ、事実上の破綻状態にある核燃料サイクル政策を、実績のあるフランスの協力を得て維持していこうというのである。

　しかし、中核施設である日本原子力研究開発機構の高速増殖原型炉もんじゅ（福井県敦賀市）は、運転停止中のうえ、最近も一万点もの点検漏れが発覚し、原子力規制委員会から運転再開の停止命令を受けたばかりだ。青森県六ケ所村の使用済み核燃料再処理施設も、一九九七年の完成予定だったのに、技術的な問題で操業のめどが立っていない。

　民主党政権では核燃料サイクル政策は抜本的見直しの対象と見切りをつけつつあったが、安倍首相が就任すると「継続して進めていく」との立場に一転した。

　フランスは、発電に占める原発依存度が八割近い原発大国だが、オランド大統領は昨年の大統領選の公約で「二〇二五年までに五割に下げる」と表明。国内原発は実は縮小する方向なのである。それに対し、凄惨（せいさん）な事故も忘れたかのように原発再稼働を急ぐ安倍政権の姿勢は、明らかに異様だ。

　共同声明では福島原発の廃炉や除染の共同研究を進めることで合意したが、それだけで十分ではないか。避難や仮設住宅住まいがなお続く被災者に思いをはせれば何よりもフクシマの収束を優先させ（るべきで＝引用者追加）、それ以前の再稼働や原発輸出などあまりに無神経すぎる。

　国際社会からみて、あれだけの事故を起こしつつ、なお原発に固執する政治姿勢がどう映るのか、よく考えてみるべきだ。

以下、今日の東京新聞２面に掲載された４つの記事と電子版の記事を引用する。
これでもまだ核燃サイクルを推進し、原発を輸出するって、何かのギャグですか！？
（後略）

（転載ここまで）

こちら↓で紹介したオランド氏の政治姿勢の表明がむなしく響く、と言わざるをえません。

■フランス大統領選 ： 社会党フランソワ・オランド候補、2012年1月22日の選挙戦開始演説全文訳
http://muranoserena.blog91.fc2.com/blog-entry-3377.html

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