生活保護への現物支給は冷酷な差別いじめそのものである

　　

このツイートに感動しました。

職が無いのは罪ですか？収入が無いのは罪ですか？大赤字の大企業も、結果を出せない国の財政も、それで罪人扱いされる事は無いのに、生活保護はまるで罪人扱い。「施してやるから我慢しろ」って態度は間違ってるよね。生活保護は社会保障制度。施しではなく権利で、その為の税金は既に支払っている。

— タクラミックスさん (@takuramix) 11月 23, 2012

（そうですね。橋下徹が大阪府の赤字を増やしたことも罪人扱いされていないですね。苦笑）

私が上のツイートに感動したのは、生活保護受給者に対して、自民党が「現物支給」を企んでいることに対して私自身怒りを感じているからです。

●東京新聞(TOKYO Web)
生活保護　現物支給も　自民が法改正案
http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2012112002000111.html
2012年11月20日 朝刊

　自民党の生活保護プロジェクトチーム（世耕弘成座長）がまとめた生活保護法改正案の骨子が十九日、判明した。生活保護受給者への食費などで、自治体が現金給付か現物給付かを選択できる制度の導入が柱。ジェネリック医薬品（後発薬）の原則使用も医師に求める。二十日の会合に提示する。
　生活保護は医療扶助（医療費）などを除き原則、現金で給付。しかし、保護費を搾取する貧困ビジネスが社会問題となっており、現物給付活用を盛り込んだ。
　対象は、食費や衣服代に充てる生活扶助など。具体的には受給者に現金の代わりに食品と交換できるクーポン券を配ったり、電子マネーなどの形で生活費を支給し、使途を限定したりすることを検討。食品などを直接配るわけではないが、使途を限定したクーポン券などは現物給付の一種とされる。
　また、医学的な事情がある場合を除き、後発薬の原則使用を医師に求めることや、過剰診療の抑制策を盛り込んだ。医療扶助の自己負担導入は見送った。生活保護制度の見直しは、衆院選の争点の一つ。

（転載ここまで）

はっきり言います。

生活保護受給者への現物支給とやらは、生活保護受給者バッシングという生命にかかわる暴力行為が盛んな今の日本では、生活保護者に「貧困状態にある私を皆でいじめてよいと政府が許可しました」というバッジを常につけて歩くことを義務付けることに等しいのです。

あるいは、ユダヤ人に黄色い星のバッジを常につけるように義務付けたナチスの行為に匹敵する、と言うべきでしょうか。

この自民党による生活保護の現物支給の話を聞いて、私が思い出したフランスでの救貧運動のエピソードがあります。こちらの記事に書いたことがあります。食料を貧困者に配給する、フランスでは25年の歴史のある有名な「心のレストラン」という運動です。その発案者のコリューシュというコメディアンの発言です。

■「誰もが運命のいたずらで仕事や住居を失って明日ホームレスになるかもしれないという思いのもとに」（2）　（貧困と闘う、フランスのある社会運動）
http://muranoserena.blog91.fc2.com/blog-entry-107.html
2007-03-04

（前略）
1985年12月21日、最初の配給が始まりました。パリでは、パリ南部のポルト・ドゥ・ヴァンヴ近くに配給所が設けられました。「貧乏だからって、しかめっ面をしなければならないわけではない」と言うコリューシュが思い描いたとおりの、気軽で明るいお祭り騒ぎの中で、コリューシュのささやかなアイデアが素晴らしいアイデアとしてフランス全土に示されたのです。

ボランティアの援助者も大勢参加しました。学生。失業者。引退した年金生活者。小売業者。生活に余裕のある人たちと、自分自身も貧困ぎりぎりの生活をしている人たち、あらゆる年齢のあらゆる宗教のあらゆる階層の人たちが、社会的連帯のために、この運動に参加したのです。

企業からの寄付も集まりました。たとえば、大手食品会社から、野菜の缶詰。それに対して、コリューシュは感謝しながらも、ラジオ番組でこう言うことを忘れません。「1000個の缶詰をありがとう、ボンデュエル（訳者注：野菜の缶詰の商標）さん。でもあと1000個寄付してくれないかな？」あるいは、コリューシュは軍隊に運送のためのトラックを貸し出すように求めました。

マスメディアでこういう影響力を発揮するコリューシュは、一方では人心の機微もわかっていました。ある会社が「心のレストラン」のロゴを入れたビニール袋を無料で作ると申し出たと事務局長がコリューシュに言うと、彼はきっぱりとこう言ったそうです。

「そこまでやるなら、食料を受け取りに来た人たちの額に『貧乏人』とハンコでも押したらどうだ？そうじゃなくて、食料を受け取って配給所から出てきた人たちはそこらのスーパーマーケットから出てきたような様子でいてほしいんだ。カジノ、カルフール、ルクレール、マムート（訳者注：いずれも大手スーパーマーケット名）に、買い物袋を寄付してくれるように頼んだらいい。」
（後略）

（引用ここまで）

貧困者に食料を配給するという、いわば現物支給による救貧運動です。宣伝も兼ねて運動のロゴ入りのビニール袋を作ったらどうかという提案に対して、即座に却下するこの運動の生みの親のコリューシュという人のすごいところです。失業などの事情があって食料などの援助を受けなければ生きていけない人が自尊心を傷つけられ、心苦しく思い、自分を責めていることが多いという事実を即座に完璧に理解できるこのコリューシュのような人が貧富の格差の問題に取り組むべきなのです。貧困者に烙印を押すという精神的拷問を制度として義務付ける発想をする自民党は人間の心がない者たちの集まりだと言うべきです。

猪野亨弁護士がさらに詳しく、生活保護の現物支給への徹底的な批判を書いた記事があります。お持ち帰りさせていただきます。

●弁護士　猪野亨のブログ
生活保護受給者を家畜としか見ない発想　食費の現物給付
http://inotoru.dtiblog.com/blog-entry-588.html
2012/09/25(火) 09:30:18

　自民党は、次期衆議院選挙の公約で、
「食費代わりに食事用回数券の配布を想定し、現物給付の導入をマニフェスト（政権公約）に盛り込む見通し。」と報じられています（毎日新聞2012年9月23日）。

　食事分として最低限のものを支給しているから、さらに保護費の削減が可能になるという発想でしょう。保護費の1割カットも明記されるようです。
　住居費が現金支給
　医療費が現物支給
　食費も現物支給が実現できれば、保護費に占める食費の割合を下げることを可能にするというものです。
　しかし、現物支給（食事用回数券）というのは、具体的な内容は記載されていませんが、米国のようなフードスタンプがイメージされているようにも思います。
　米国では、食料品のみを購入できるもので、嗜好品は対象外とされているようです。
　生活保護費の中からは一定額を食費として支出しなければならない以上、現物支給でどこが悪い！　という声も聞こえてきそうですが、非常に問題があります。

　総額支給額を削減することにまず第一の問題があります。
　現物支給となると、食費としての水準が決まってしまい、それに＋α程度でいいだろうということが、ただでさえ低額の保護費の削減に拍車を掛けることになります。
　しかし、ある程度のゆとりが必要です。そうでなければ、文化的な生活は不可能になります。学生時代であれば、ギリギリの生活をせよということになりますが、学生の本分は勉学であり、仲間とのコミュニケーションを育むということで、限られた期間に経済的にギリギリで生活していくということにも独特の意味もありますが、成人後であったり、高校生以下の子どもらがギリギリの生活を強いられるのは、意味のある我慢ではなく、むしろ人間性を歪めます。
　住居（これは現在は現金支給）と医療と食料をやるんだから、それ以上は不要だ、最低限のレベルで生かしておいてやるから、ありがたく思えという発想といえます。

　第二の問題は、保護世帯への差別を助長するということです。厚労省は、この自民党案に対し、「厚生労働省も「差別を助長する恐れがある」と難色を示している。」（前掲毎日新聞）としています。
　食料品などの購入は日常のことですが、その都度、食事用回数券で購入するということになれば、スーパーなどで多くの人がいる中で、「私は生活保護受給者です。」と公言せよというのと同じです。
　生活保護が憲法25条に規定された国民の当然の権利であるという認識が国民の間に浸透していればよいですが、少なくとも現状は、「不正受給を撲滅せよ。」というようなキャンペーンがマスコミ、自民党、維新の会などから大宣伝され、あたかも生活保護受給が後ろめたいものであるかのようにバッシングを受けています。
　このような状態で、食費は食事用回数券だなどとしたら、より一層、生活保護世帯に対する差別的な視線を向けられかねません。見せ物にしているのと同じです。
　これによって自民党が目指す方向は、生活保護の「辞退」でしょう。自ら生活保護の受給を「辞退」させることができれば、それだけで保護費を削減させることができます。

　しかし、ここまで生活保護受給者を敵視しなければならないのは、何故なのでしょうか。
　生活保護世帯が増え続けることの原因を考えることなく、排除の論理を振りかざすのは、１つには小さな政府を志向することにあります（構造改革）。
　先日、米国共和党大統領候補ロムニー氏が非納税世帯47％を敵視する発言をしたことが物議を醸しましたが（米国大統領選挙　ロムニー氏の発言は米国社会の矛盾の象徴）、自民党の発想は同じものと言えます。

　確かに、生活保護世帯の中には、保護費をパチンコで使ってしまったり、計画的に使用することができずに、足りなくなってしまう人もいます。携帯電話の使いすぎなどもあります。その結果、家賃分の支給を受けているのに、家賃を支払っておらず滞納してしまっている人もいます。
　保護費をたちどころに使ってしまって、その後、食べる物が買えないということになると、二重の保護費ということになりかねないということになります。
　しかし、それはあくまでごく一部の現象です。しかも、一度や二度、そのようなことがあっても、一定の指導の下で改善をしていけば足りることです。

　最大の問題は、生活保護水準の切り下げにより、さらに最低賃金水準も下げてしまうだろうということです（「基本的人権である生存権保障の最重要制度　生活保護基準の引き下げに反対する」（Everyone says I love you !　参照）。

　国民全体の生活水準を切り下げることによって、待ち構えている未来というものは、どのようなものか。
　新自由主義経済という弱肉強食におけるセーフティネットが生活保護という位置づけですが、そこにある思想は、権利としての生活保護ではありません。
　弱肉強食における社会から排除された人を最低限、生かしておくためだけの制度に過ぎなくなるからです。
　このような思想の下では、労働というものが尊ばれない中では自立していこうという精神が育まれるようなことありません。
　国民全体がこのような家畜のような生活を強いられていくということであり、決して、国民全体にとってマイナスでしかないのが、この生活保護費の抑制であり、食事に関する現物支給です。
　自民党のような、非人間的な政策を許してはなりません。

（転載ここまで）

それでも、自民党は現物支給にこだわるのでしょうか。それなら言わせていただきます。

そんなに現物支給がいいのなら、ホームレスの人々に住宅を現物支給することがまず考えられます。

政治家に対しては、政党助成金を政党に与える代わりに、日本国憲法や世界人権宣言や国際人権規約の解説書を現物支給して、民主主義政治についての徹底的な学習を義務付けるするということが考えられます。

---

●国会議員への投書のための「議員名簿」→http://www.eda-jp.com/link/link1.html
●マスメディアへの投書のための「News for the people in Japan」マスメディア問い合わせ用リンク集→http://www.news-pj.net/link/media.html
●他の社会系ブログに行くにはうちの「私的リンク集　（適宜更新）」経由で→http://muranoserena.blog91.fc2.com/blog-entry-136.html