欧州の金融・税制改革の前進 （メモ）

　　

フランスとヨーロッパの税制改革の最新の成果のメモです。

一つは、金融取引税の導入に11か国が名乗りを上げたので、金融取引税がスタートすることになったこと。もう一つは、フランスでフランソワ・オランド大統領や現在の政権政党の社会党の選挙公約にかかげられていた通り、超高額所得への課税強化が決まったこと。私はこの二つの政策を歓迎します。まず、この事実だけ簡単に、日本の報道で記録しましょう。

●時事ドットコム
■ＥＵ金融新税、１１カ国が名乗り＝ユーロ圏予算の財源案も
http://www.jiji.com/jc/zc?k=201210/2012101000078&rel=j&g=int
2012/10/09-23:19

　【ブリュッセル時事】欧州連合（ＥＵ）は９日の財務相理事会で、株や債券などの取引に課税する金融取引税（ＦＴＴ）を一部の加盟国で先行導入する議論を行い、ドイツやフランスなどユーロ圏の１１カ国が参加に名乗りを上げた。これにより、先行導入の条件とされる「９カ国以上の参加」はクリアできる見通しとなった。
　導入希望国はほかにイタリア、スペイン、ベルギー、オーストリア、ポルトガル、ギリシャなど。
　ＦＴＴの税収は、ユーロ圏が債務危機対策として創設を検討している「ユーロ圏予算」の財源に充てるアイデアもある。今後、ＥＵ執行機関の欧州委員会が課税対象や使途を盛り込んだ正式提案をまとめる。


■高額所得への７５％課税案可決＝左派政権の象徴的政策－仏下院
http://muranoserena.blog91.fc2.com/blog-entry-3655.html
2012/10/20-09:51

　【パリ時事】フランス国民議会（下院）は１９日、２０１３年予算関連法案のうち、高額所得への最高７５％課税などを盛り込む税制改革法案を採決し、賛成多数で可決した。財政再建で高額所得者に「愛国心」を求めるオランド左派政権の象徴的政策だが、経済界などの反発は大きい。
　７５％の税率が課されるのは年１００万ユーロ（約１億円）超の所得で、２年間の時限措置。対象者は１５００人程度とみられ、これによる税収増は年２億１０００万ユーロと見込まれている。

（転載ここまで）

金融取引税と超高額所得者への所得税増税。

まず、金融取引税について。

金融取引税への反対派は、参加国からは金融資本が逃げると言い続けていましたが、そのような「脅し」にもかかわらず、11か国が参加を表明したことは良いことだと思います。参加国から金融資本が逃げるから金融取引税をかけるなという反対論が、金融を国家すらコントロールが難しい怪物に仕立てあげてしまい、それを原因の一つとして何度かの金融危機や経済危機を生んだのではないでしょうか。

「金融取引税（トービン税）の導入、法人税率上げ、高額所得者の所得税累進強化が先。」の記事に、「国際連帯税を推進する市民の会」という市民団体にかかわっている田中徹二さんからこういうコメントをいただいています。

http://muranoserena.blog91.fc2.com/blog-entry-3491.html#comment17030

[17030] 朝日新聞社説『金融取引税―欧州の新たな挑戦』

村野様、みなさま、田中徹二です。

10月11日の金融取引税・国際連帯税に関する国際シンポジウムは何とか盛況のうちに開催されました。みなさまのご支援に感謝します。詳しくは（といっても超簡単報告ですが）ＡＣＩＳＴのウェッブサイトを参照ください。

ところで、このシンポジウムにはマスコミの方も一定参加されていましたが、記事になったのは東京新聞だけでした。

ところが、本日の朝日新聞に『金融取引税―欧州の新たな挑戦』という社説が掲載されていますので紹介します。

http://www.asahi.com/paper/editorial20121017.html#Edit2

その社説では、社説では「焦点は、今回の課税が世界的な展望を示せるかどうかだ。世界に広がれば、金融競争の条件も対等になる」と書いていますが、これはきわめて政治的意思（理性的意思）によるのではないでしょうか。つまり、税導入への為政者側の確固たる意思です。

例えば、英国では0.5％もの株取引税（印紙税）が課せられていますが、資本逃避は起きていません。もともと金融セクターへの税率は他のセクターに比べて圧倒的に過小です（消費税や付加価値税の免除=非課税）。

そこに0.1％（株・債券）や0.01％（デリバティブ）課税されたとしてもほぼ市場活動には影響がないでしょう。影響が出るのは短期の移動を繰り返す投機マネーだけです。

投機マネーは許さないとする政治的意思、市民に負担を生じさせない新たな税収源を見出そうとする意思、そしてそれを大いに支持する国民的世論が後押しするでしょう。これが欧州金融取引税の背景だと思います。
2012-10-17 投稿者 : 田中徹二

（転載ここまで）

田中徹二さんが適切に言ってくださったので、私が付け加えることはもうありませんが、金融取引税は担税力のあるところに適切な税率で負担をしてもらうという意味で、たいへん良い税制であるということは確かでしょう。日本の報道機関がこれについての報道をさぼっていることは、無知や怠慢というにとどまらず、報道機関の無能を示す者であり、犯罪的だとすら言えると私は思います。

もう一度、ご案内します。

●国際連帯税を推進する市民の会　（ACIST）
http://www.acist.jp/

それから、もう一つ、超高額所得者への所得税増税について。

上の時事ドットコムの記事は、「経済界などの反発は大きい」と簡単に書いていますが、たった2年間の時限増税なのですし、この増税によって経済や国家財政や人々の生活を立て直す意味もあるのですから、安易に「経済界」の自己中心的な主張を正当化しない取材と記事づくりをしてほしかったところです。

なるべくお金は自分の手元に残したいというのが人間の性（さが）ではあります。さらに、高額所得者になると、お金を持てば持つほどけちになるということもありそうです。（笑）しかし、社会と経済を回すために、また、富の再分配のために納税するというのが公民意識の発露であり、社会の要請です。「自分にとっての税が上がってほしくない」という個人的な気持ちはわかりますが、それを全面的に正当だとすることは社会に大きな責任を持つ政治組織や行政機関や報道機関がやってよいことだとは思えません。

「経済界などの反発」を書くなら、富裕層の中にもいるはずの超高額所得者増税への賛成派や容認派の意見をきいてそれも記事に入れるというのが、社会全体が適正に回るようにするための公正な報道機関のあり方というものではないかとも思うのです。

消費税増税以外に税目があることを知らないかのような日本の税制関係の報道の中、そして、欧州の金融取引税や高額所得者向けの所得税増税の意義を説明しようとする報道機関が少ない中、少しでも多くの日本人に欧州の金融改革、税制改革の取り組みがどのようなものかを知ってほしいと思うので、私はこのような記事をこれからも続けます。

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