情緒と理念の二者択一を超えて(2)

（人気blogランキング参加中。応援クリックお願いします。）

「情緒と理念の二者択一を超えて　（愚樵さんのコメントから）」の記事に、最初に重要なコメントをいただいた愚樵さんを含む三人の方からコメントをいただきました。投稿順に、「Dendrodium」のわこさん、「愚樵空論」の愚樵さん、フリーランス・コメンテーター（笑）のコギトエルゴスムさんです。どれもそれぞれの方の人生経験に裏打ちされたご意見であり、このようなていねいなコメントをいただけることはブログ管理者にとってたいへんにありがたいことであり、私の記事だけでは表現しきれていないことも見えるように思います。まず三つともこちらに転載させていただきます。

（転載開始）

---

[C984]
私も玲奈さんの言われる通りだと思います。
公務員が個人的な情緒のみで、行動されたら大変な事になると思います。
公務員は法律を守らねばならないという、大前提が有るからこそ、憲法九条問題も、私達、頑張る意味があるのではないでしょうか？
自衛隊員の当座の情緒で開戦も許されるとしたら、国民はたまったものではありません。
2007-08-22 投稿者 : わこ


[C985] Re：情緒と理念の二者択一を超えて
玲奈さん、私のコメントに丁寧なお返事をありがとうございます。せっかくですので、再度、私の考えを述べさせてください。

まず断っておかなければならないのは、私は佐藤氏の思想には反対であるということです。たとえ佐藤氏の情緒に共感を覚えても、９条保持の思考ベクトルを持つ私が佐藤氏と同じ思想になることはありません。これはご理解いただけると思います。
ただ、佐藤氏の情緒を共有できると考える者からすると、たとえば佐藤氏への辞任要求や議会での喚問は行き過ぎのように感じられます。なぜなら、彼は現実には罪は犯してはいないからです。「法律破り」ではないのです。

佐藤氏には遵法意識が不足しているという意見もあります。イラクに派遣されていた当時、確かに佐藤氏には彼が発言したような行為を為す権利も義務もありませんでしたが、それゆえにこそ、彼の友軍を助けたい”という情緒が遵法意識を越えた「立法の精神」とでも言うべき領域に達してしまっている。“罰せられてもよい”という発言がそれを増大させています。
ここのところを是非とも理解していただきたいと思います。たとえ玲奈さんが認めなくても、認める人間が一定数いる。その現実は認めなければなりません。そして、それを認める人間にも有権者である限りは「立法の精神」を持っているというのが、民主主義の原則のはず。ならば、そうした者たちの「立法の精神」を付託された佐藤氏には、立派に国会議員の資格があるということなのです。
そうした議員に対して、議員たる資質に欠けるであるとか、
罪人のごとく証人喚問すべきであるとかという意見には、私は違和感を感じます。人格攻撃といったの言いすぎであったかもしれませんが、やはりそれと同様の感触があるように感じてしまいます。そこには佐藤氏の情緒に対する“情緒的な”反発があるように思えてしまうのです。

繰り返し言いますが、佐藤氏は現実には法を守っています。そして、彼が守った法と彼の情緒（およびそれに培われた思想）とのギャップを埋めるべく、議員となったわけです。そして正規の手続きを得て議員の資格を得た。このことを非難することは、私は思想弾圧だと思います。そんなことをしてしまったら、私たちは、私たちを思想弾圧しようとする者たちと対峙するための足場を失ってしまいます。

私は理念は情緒から生まれるものだと思っています。人は自らの情緒を守るために理念を組み立てる。理念によって情緒が強化されることはあっても、理念で情緒が変わってしまうことはありません。ですから、佐藤氏の情緒を切り捨ててしまったところから佐藤氏の思想を包含する理念は生まれないと思っています。
2007-08-22 投稿者 : 愚樵



[C986]
「友軍を見捨てるな」とか、「友人を見捨てるな」という情緒?的な言動に引きずられて、日本は戦争の泥沼にはまってしまったのではありませんか？

私は人語に落ちぬ情緒人間ですが、、「友人を見捨てるな」と佐藤隊長が駆けつけ敵に発砲し殺すことを容認できません。友情は守った！俺は罰せられても本望だ」と自己陶酔する隊長に、どうして共感できるでしょうか。人後に落ちぬ情緒人間であり、理性のカケラもないと家族にバカにされているこの私でも、納得できません。そもそもここで反撃されて殺される敵って誰ですか

この佐藤隊長が反撃し発砲し殺そうとする敵とは一体どんな人達なのでしょう？
隊長が命と信義を賭けて守ろうとするオランダ軍とは何なのでしょう？
はっきり言って佐藤隊長もオランダ軍も、なぜそこにいるのでしょう?
しかもオランダ軍も自衛隊も侵略軍ではないでしょうか？
特に自衛隊は戦地で友情ごっこをする資格もないはずです。

私はこの佐藤という人を（これまでの彼の言動を詳細に観察して）、信頼できる人物とは思いません。私は自分が信頼できない人の情緒に賛同することはありません。また、彼を知性的な人間とも思いません。彼のわざとらしい芝居がかった一連の行動は小泉や飯島やその他の国防族たちの指図によるものではないかと疑っています。もしそうなら、とんだ食わせ者です。

大体、「自国民を散々見捨た旧日本軍」を尊崇する自衛隊に、いまさら「友軍を助けなくていいのか！」なんて説教をされたくありません。

佐藤隊長は法律に違反していない？かも知れませんが、憲法には違反しています。やはり国会で喚問されるべきです。
そして、その国会において、『全然関係のない者同志が闘い殺し合うこと（＝戦争）』の不条理を、日本の国会議員達はもっともっと謙虚に真剣に討議討論する義務があります！

2007-08-23 投稿者 : コギトエルゴスム　（最初のコメントの続きも追加転載しました）

---

（以上転載終了。なお、変換ミスは適宜直しました。）


佐藤氏の思想そのものにはお三方とも反対の立場です。そのうえで、「情緒というものに与える重要性」と「佐藤正久氏の言動にどう対処するか」ということにある違いがあるということだと思います。それをふまえて、さらに少しだけ私の意見とお三方の意見を収束させていくことを試みます。

まず、佐藤氏の言動は佐藤氏独自の思いではなく、現実にはどうも自衛隊ぐるみ、政府与党ぐるみである可能性が濃くなっていることを強調しておきます。（いくつかの報道やブログがそれを指摘しています。）もし仮に自衛隊が組織として他国軍の戦闘にかかわらないという確固とした行動指針が存在していたとして、そこに佐藤氏がその行動指針に反して単独で「駆けつけ警護」など行おうとすれば、それは軍隊という組織では重大な規律違反となるでしょう。佐藤氏の言動には自衛隊、防衛省、政府与党の明示的な方針、あるいは暗黙の了解があったと考えるのが自然です。政府与党の防衛政策の方向性にも佐藤氏の言動は一致していることからも、佐藤氏の言動には自衛隊、防衛省、政府与党の明示的な方針、あるいは暗黙の了解があったと考えるのが自然です。

そのうえで、話を戻して、あえて佐藤氏の「駆けつけ警護」の「人助け」という情緒を肯定的に評価したとします。

それでも残る問題は、私の考えでは次の通りです。愚樵さんのご意見に沿って述べます。

＞愚樵さん
＞たとえば佐藤氏への辞任要求や議会での喚問は行き過ぎのように感じられます。なぜなら、彼は現実には罪は犯してはいないからです。「法律破り」ではないのです。

たしかに、行動の面では法律は破っておりません。その意味で、私の使った「法律破り」という言葉は修正の余地があります。しかし、当時は公務員（自衛隊員）として、今は国会議員（立法府の一員）として、確実に重い説明責任はあります。

仮に佐藤氏への辞任要求がなされた場合、私はそれに反対する気持ちはあまりありません。佐藤氏の言動は、彼やそのバックの自衛隊、防衛省、政府与党の思惑とは別に、日本の立憲主義や平和主義を掘り崩すと思うからです。第二次世界大戦中の日本軍の戦争拡大がいろいろな口実をつけてなされて、それが敗戦や国民のなめた辛酸につながったことを考えたら、私のこの心配には十分な理由があることはわかっていただけると思います。

しかし、辞任要求は行き過ぎであるという意見を仮に認めるにしても、彼には説明責任があります。佐藤氏への議会での喚問という形をとるかどうか、佐藤氏だけではなくて自衛隊や防衛省に対するもっと大規模な調査という形をとるかは別にしても、この件は日本の進むべき道を選択する上で最高に重要です。


＞愚樵さん
＞それゆえにこそ、彼の友軍を助けたい”という情緒が遵法意識を越えた「立法の精神」とでも言うべき領域に達してしまっている。“罰せられてもよい”という発言がそれを増大させています。

＞彼が守った法と彼の情緒（およびそれに培われた思想）とのギャップを埋めるべく、議員となったわけです。

「立法の精神」と言っても、どのような法律でも作っていいわけではありません。基本的人権の尊重、国民主権、平和主義、これを逸脱する法律を作ることはできないことは愚樵さんでもよくご存知の通りです。イラク派兵をめぐる「立法の精神」が現実には「軍事力依存」の方向にしかいかないのか、そこを考えなければならないと思います。たとえば、佐藤氏のような立場からは「イラクに行ったけど、そこで見たのはイラクの人たちが米軍の攻撃で被害にあっている姿である。友軍を助けるよりも、そのようなイラク人被害者を助けたい。自衛隊法によって罰せられてもイラク人被害者を助けたい」という発言は出てきません。そこに問題があると思います。

（話がそれますが、あれだけのバッシングを受けてもなお、イラクの子どもたちのための活動を続け、現地の人に頼られている高遠菜穂子さんはすごいと思います。）


＞愚樵さん
＞ここのところを是非とも理解していただきたいと思います。たとえ玲奈さんが認めなくても、認める人間が一定数いる。その現実は認めなければなりません。

その現実が存在することは認めます。
しかし、その情緒を認める人がある程度いる現実はあっても、その情緒を正当化できるかどうかをその人たちが歴史的、法律的、人道的に検討しきったわけではないこともたしかだと思います。まさに、国会はそういうことを国民の代表である国会議員があらゆる角度から検討する場です。そういう検討がなされるのかどうか、見守りましょう。

そもそもアメリカのイラク攻撃に正当性があったのかどうか、からはじまって、自衛隊のイラク派兵の正当性、サマワでおこなったという「人道的給水活動」の総括、そうしたものが国会のオープンな場できちんと話し合われていないことを考えたら、佐藤氏の発言を機会に、徹底的に検証されるべきです。

情緒的な私の意見でした。（笑）ご理解をいただけると期待します。（笑）この件はいろいろな点を整理しながら、もう少し書き続けることになりそうです。

なお、佐藤氏の言動にクーデターのにおいをかぎとる方もほかのブロガーの方々にもおり、私にもそういう懸念がありますが、ここではそれには触れなかったことをお断りしておきます。

（とりあえず表に掲載。あとで加筆するかもしれません。）

（人気blogランキング参加中。応援クリックお願いします。）