朝日新聞社内の消費税上げをめぐる対論が浮き彫りにする、消費税上げ推進論の欠陥

　　

ブログ「安原和雄の仏教経済塾」で、たいへんに珍しい朝日新聞内の「消費税上げをめぐる対論」が紹介されていました。お読みいただきたく、ご案内します。

その前に、前置きです。私の最近の記事で、朝日新聞の記事を批判したことがあります。

■「反消費増税の核心」と題された、実は「消費増税」目的の朝日新聞記事
http://muranoserena.blog91.fc2.com/blog-entry-3466.html
2012-05-28

その時の朝日新聞の記事は、一見反消費増税の論拠を紹介するふりをしながら、実は消費増税への地ならしを目的としていると私は考えました。今でもその考えには理があると私は思っています。

その時と比べて、今回安原和雄さんが紹介する朝日新聞の今回の記事はどんなものでしょうか。

ポイントの部分だけ引用しますので、全文は安原さんの記事でご覧ください。

●安原和雄の仏教経済塾
消費税上げをめぐる朝日記者対論
「増税は深刻な事態招く」に軍配
安原　和雄
http://kyasuhara.blog14.fc2.com/blog-entry-396.html
2012/08/31(金) 18:53:31

同じ新聞社内の記者が実名で賛否を論じ合うのは珍しい。朝日新聞は消費税引き上げを巡って記者対論を実践した。批判派は「消費増税は深刻な事態を招く」と論じ、一方容認派は「消費増税を先送りする口実は、もう許されない」と譲らない。
　
　私自身、現役経済記者時代には覆面座談会は何度も試みたが、そういう紙面作りから大きく踏み出して、消費税問題担当のベテラン記者が名乗りを上げて議論し、賛否の主張を明確にする姿勢は評価に値する。私としては批判派に軍配を挙げたい。（２０１２年８月３１日掲載。公共空間「ちきゅう座」、インターネット新聞「日刊ベリタ」に転載）

朝日新聞（８月29日付）が消費税引き上げについて新しい紙面作りを試みている。題して「消費増税どう考える　本社論説委員と経済部デスクが議論」で、引き上げ賛成派は田中雄一郎・論説委員、反対派は大海英史・経済部次長（デスク）。
議論の主な内容は「家計への負担」、「景気への影響」、「今後の見通し」などで、以下、見出しと議論の大意を紹介する。なお（１）（２）（３）の見出しは紙面上のそれと同一とは限らない。

（１）デフレ下の増税は深刻な事態招く（反対派・経済部デスク）、もう先送りは許されない（賛成派・論説委員）

（中略）

（２）歳出削減の計画を示せ（経済部デスク）、最大の弱者はツケを回される将来世代（論説委員）

（中略）

（３）消費税は社会保障財源にふさわしい（論説委員）、裕福な人にもっと負担して貰う（経済部デスク）

（中略）

＜安原の感想＞ 反「新自由主義＝市場原理主義」に軍配
ユニークな社内記者対談である。しかも相反する意見の持ち主、すなわち「新自由主義＝市場原理主義」派と反「新自由主義＝市場原理主義」派による言論戦である。どちらに軍配を挙げたらいいのか。私（安原）としては、やはり後者の反「新自由主義＝市場原理主義」派を支持したい。言い換えれば、論説委員説よりも経済部デスクの主張に親近感を覚える。

まず論説委員は消費増税に関連して以下のように指摘している。「新自由主義＝市場原理主義」の合い言葉は「規制緩和」と「増税」である。まず増税を、の印象が強い。
・規制緩和の徹底
・いつになったら増税できるのか。
・増税を先送りする口実は、もう許されない。

一方、経済部デスクは消費増税について次のように主張している。
・「まず消費増税」でいいのか。国民の暮らしの目線から考えると、問題が多すぎる。多くの家庭が負担増に耐えられるのか。
・来年度の予算編成では生活保護費が削減の標的にされている。結局は削りやすい弱者にしわ寄せがいく。
・収入や財産が多い人が税金も多く払う。それが社会保障に回り、お年寄りや収入の少ない人たちを支える。そうした「再分配」機能が重要だ。
・消費増税の前に、既得権益に切り込んで歳出を減らす。裕福な人にもっと負担してもらう。そうしないと政治不信がますます強まる。

反「消費増税」のキーワードは「国民の暮らしの目線」、「家庭が負担増に耐えられるか」、「弱者にしわ寄せ」、「収入や財産が多い人が税金も多く」などである。こういう視点を大事と考え、実践や変革に移す工夫をするのが反「新自由主義＝市場原理主義」にほかならない。

（後略）
2012/08/31(金) 18:53:31

（引用ここまで）

私がまず、消費税上げ賛成派の田中雄一郎・論説委員にただ一言言うとしたら、『「消費税のカラクリ」（斎藤貴男著）を読んでから出直してきなさい』ということです。私は次のような記事で何度も書いてきています。

■支払い困難な滞納の多いところから増税しようとする消費税の無理筋　（「消費税のカラクリ」（斎藤貴男著、講談社現代新書）から）
http://muranoserena.blog91.fc2.com/blog-entry-2206.html
2011-01-04

私が消費税上げ反対派としてこの対論に参加した大海英史・経済部次長（デスク）だったら、まず、田中雄一郎・論説委員をそう一喝しますね。笑

そのうえでまとめると、消費税増税推進論の田中雄一郎・論説委員の主張には、二つの根本的な問題があります。そして、それはそのまま、消費税増税推進論の誤りと勉強不足と傲慢そのものの象徴でもあります。

一つは、「消費税は社会保障財源にふさわしい」というところなど、消費税上げ推進派の田中雄一郎氏には、事実にもとづかない思い込みの間違いが多いということ。貧困層や自営業者をさらに貧困や自殺に追いやるような制度がどうして社会保障財源にふさわしいのか、田中氏には説明もできていません。

もう一つは、消費税上げ反対派の大海英史・経済部次長の主張そのものを消費税上げ推進派の田中雄一郎氏は全く崩していないということです。消費税上げ反対派に返答する時には、「でも逆に尋ねたい」とか言って話をそらしています。たとえば、大海英史氏が消費税増税の悪影響を具体的に説明するのに、田中雄一郎氏は「消費税増税には国民生活への悪影響はない」という話を一切と言っていいほどしていません。

大海英史氏の主張も、「消費税のカラクリ」を書いた斎藤貴男氏の主張に比べたら物足りないものです。そして、それが、朝日新聞の限界でもあるのでしょう。あるいは、朝日新聞の比較的ましな編集者であってもこの程度の勉強不足のレベルであるということの雄弁な証明であるとも言えます。

もう一つの朝日新聞の限界は、この対論では「所得税増税」や「相続税増税」には二人とも言及しているものの、法人税増税については何も言っていないということです。今まで消費税を上げてきた税収と、その間法人税減税した額がほぼ一致しているという事実の前には、このような対論は何も言っていないに等しいとも私は言いたいのです。

あるいは、多少消費税が上がっても高額所得者の新聞記者の生活には影響がないから、その程度の勉強不足でも朝日新聞記者がつとまるということなのでしょうか？

朝日新聞批判はそのくらいにしておいて結びの言葉を書くなら、「消費税上げ推進論」と「消費税上げ反対論」の間には、たとえるなら、それぞれ天動説と地動説のような違いがあるということです。朝日新聞のやっていることは、天動説と地動説を「同じレベルで」比べて両方に理があるかのような論議をしているようなものだということです。

ということで、そのような議論は、消費税値上げを一方的に強弁する議論よりは多少マシではあっても、相変わらずあまり評価できないものです。ですから、次の記事の結論を変更する必要はまだまだなさそうです。

■消費税値上げを推進する全国紙を読めば読むほど愚かで強欲で無恥になる。
http://muranoserena.blog91.fc2.com/blog-entry-3544.html
2012-06-27

---

●国会議員への投書のための「議員名簿」→http://www.eda-jp.com/link/link1.html
●マスメディアへの投書のための「News for the people in Japan」マスメディア問い合わせ用リンク集→http://www.news-pj.net/link/media.html
●他の社会系ブログに行くにはうちの「私的リンク集　（適宜更新）」経由で→http://muranoserena.blog91.fc2.com/blog-entry-136.html