厚生労働白書： 無責任。冷酷。自己中心的。無能の告白。努力放棄の開き直り。

　　

『「奨学金残酷物語」（asobitarianさん）を読んで』の記事に書いたことを、次の社説を読んで思い出しました。

●愛媛新聞社ONLINE
特集社説
厚生労働白書　国が若者に受忍強いる無責任
http://www.ehime-np.co.jp/rensai/shasetsu/ren017201209022665.html
2012年09月02日（日）

　「『今の高齢者だけがやたら恵まれていて、現役世代は不幸だ』とは一概にはいえない」「経済成長率が高く、高齢化のスピードが速かったのであるから、日本の公的年金制度における世代間格差は他国と比べて大きくなることはやむを得ない」―。
　主張が間違っている、とは言わない。しかし、ずいぶんと若者世代に厳しく、人ごとのように突き放した口ぶりではないか。これが、厚生労働省が出した２０１２年版厚生労働白書の一部である。
　多くの若者が、年金など社会保障制度のぐらつきや、不安定な雇用の広がりによって将来への不安を抱えている。にもかかわらず当事者である国が、無策を棚に上げて若者に受忍を強いるのは、無責任の極み。政治と行政は、社会構造の激変を言い訳にせず、自らの怠慢を省みて、１００年耐えうる制度の再構築に直ちに取り組まねばならない。
　本年度の白書のテーマは、「社会保障を考える」。日本の仕組みについて「高齢者への給付が手厚い」「貧困や格差拡大への対応が不十分」と分析した上で「世代間だけでなく世代内の公平も」「子ども・若者対策を優先」―などと方向性を示している。
　その理念に異論はない。だが、野田佳彦政権がまとめた「社会保障と税の一体改革」からは、具体策が抜け落ち、使途すら曖昧な消費増税だけが残ったに等しい。こうした現状を目の当たりにしながら「現役世代は不幸ではない」と結論するのはあまりに無神経、楽天的に過ぎよう。
　白書は、厚生年金の世代間の負担と給付について「１９４０年生まれの人は支払った保険料の６・５倍が給付される。８０年代生まれ以降は２・３倍」などと提示。一方で、道路や下水道など社会資本ストックの恩恵や、親からの教育費・相続財産などが前世代より大きいことを強調する。
　しかし、それこそこじつけだ。確かに試算のモデル通りの人ばかりではないが、相続は完全に個人の問題。社会資本は恩恵も受けるが、維持や修繕も必要になる。膨大な事業費は将来世代への借金になることも忘れてはならない。
　今や労働者の３分の１が非正規雇用者。今春の大卒者も２２・９％、１２万８千人余が安定的な雇用に就けていない。旧来の「企業が国に代わって正社員を支え、社会保障の出番は晩年のみ」という社会は遠く、現役世代への早めの支援は喫緊の課題。就労・子育て支援の思い切った拡充がなければ、若者が希望を持てる社会は取り戻せない。
　「この国の将来は、国民の英知と行動にかかっている」（白書の結び）と、丸投げするだけなら、政治も行政もいらない。そのことを、しっかりと肝に銘じてもらいたい。

（転載ここまで）

厚生労働白書は、他の白書も同じですが、東京大学をはじめとする名声ある高等教育機関で教育を受けた人々が大多数を占める高級官僚と呼ばれる人々が作る文書です。そのような人々の基本的な内心の状態が赤裸々に告白されている文書ということになります。

『「奨学金残酷物語」（asobitarianさん）を読んで』の記事に書いたことをもう一度引きましょうか。

自分が出世しさえすれば社会全体に教育を受ける権利がいきわたらなくてもよいという人間が量産される見えない教育的メカニズムが日本にはあるようで、そのようなメカニズムで教育された自己中心的な人間が多く官僚になっているからとしか、この文科省の後ろ向きな態度は説明できません。

まるで、日本の文科省は、教育を受ける機会を特に貧困な層から徐々に奪うことによって、日本の若者の未来を閉ざすためにあるかのようにすら思えてくるのです。

（引用ここまで）

「教育を受ける権利（機会）」を、「尊厳ある生活をするのに十分な収入を得られる職にアクセスできる権利（機会）」と、「文科省」を「厚労省」と読み替えれば、そのままこの愛媛新聞社社説が嘆きとともに批評している「厚生労働白書」への批評となってしまいます。

「経済成長率が高く、高齢化のスピードが速かったのであるから」という白書の言い訳がこっけいです。そんなことは、政府として当然、短期的、中期的、長期的に予測してあらかじめ政策を組み立てるべきことです。それが、高等教育を受けてきた者たちの逃げることのできない使命なのです。それができないのなら能力不足です。言い訳にもなりません。

無責任。冷酷。自己中心的。無能の告白。努力放棄の開き直り。

そういうことを私はこの厚生労働白書の基本的トーンに感じました。それが、高級官僚という地位にある者たちの頭の基本的な中身なのだろうかと思わずにはいられません。

そもそも、日本に関するさまざまなデータを分析し、日本がとってきた政策の影響を真っ当に見積もれば、日本政府が長年おこなって（促進して）きた多くのことは少子化促進つまり高齢化促進のためのものであったと言っても過言ではないと私は思っているくらいです。

さらには、それは結果として、日本社会を不安定にする要因ともなっています。特に近年のことに限ってみれば、雇用非正規化、給与の抑制などは、日本の将来を不安定にする最大要因の一つです。

そのような現状に目をつぶって、「『今の高齢者だけがやたら恵まれていて、現役世代は不幸だ』とは一概にはいえない」とか「経済成長率が高く、高齢化のスピードが速かったのであるから、日本の公的年金制度における世代間格差は他国と比べて大きくなることはやむを得ない」とか言う言葉の端々には、自分たちは政府の仕事に失敗しても許されるという甘えが見えます。

現実に目を閉じたうえで「自分には見えないことは存在しないから対処の必要もない」と言わんばかりの態度は、『目の前に証拠を示されたら目を閉じて「私には証拠は見えないから、証拠はない」と言い続ける犯罪者の共犯者のような者たち @t_ishin』という記事で示した行動パターンにも通じる、とも指摘させていただきます。

「国民生活のことにまでは手が回らないが、自分たち（高級官僚）の生活は安泰だ」という意識がなければ、「『今の高齢者だけがやたら恵まれていて、現役世代は不幸だ』とは一概にはいえない」という他人事のようなことを白書に書くはずがありません。

高級官僚にたいへんにきびしいことを今私は書いていますが、これは官僚（がもしこの記事を読むことがあるとすれば）への叱咤激励でもあるのですが、通じるでしょうか...。

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