日本社会の現状からして、日本の教育観を根本から見直す時ではないでしょうか。

　　

『フランス公教育の生みの親、ジュール・フェリーに捧げるフランソワ・オランド仏大統領の演説訳　（2012年5月15日）』という記事を5月20日に出したところ、早速その翌日、「あそぶログ」のasobitarianさんがそのオランド演説の意義についての素晴らしい解説を書いてくださいました。ありがとうございました。

感謝をこめてそれをこちらにも転載させていただきます。

そして、「教育産業」という言葉すらある独特の教育観と教育実践に染め上げられてしまっていてそれが果たして子どもと社会のためになっているのかどうかすら問い直す機会の乏しい日本で、そもそも教育、特に公教育とはどうあるべきか、日本の外にある目でもう一度深く考え直してみることを読者のみなさんに提案したいと思うのです。

●あそぶログ
共和国と公教育
http://d.hatena.ne.jp/asobitarian/20120521/1337579193
2012-05-21

　村野瀬玲奈さんが「フランス公教育の生みの親、ジュール・フェリーに捧げるフランソワ・オランド仏大統領の演説訳」という記事で、フランスのオランド新大統領が5月15日に行った演説を翻訳・紹介されています。この演説は、1880年代に非宗教的な共和国の学校制度を作ったジュール・フェリーに捧げられたものであり、彼によって定礎された公教育（学校）の意義を訴えるものである。

今日、フランスの学校――大学も含めて――における教育は無償であり、授業料という概念さえ存在しない。そして、フランスの公立学校においては非宗教性（ライシテ）の原則が貫かれている（そのために「スカーフ問題」なども起きる）。なぜ非宗教性が大事であるかと言えば、フランス共和国の理念は、公的なものと私的なものを厳格に区別し、国家があらゆる宗教的影響力から自由であることを要請するので、自律的市民を育成するための場である学校もまた、あらゆる宗教的影響力から自由でなければならないからである。学校はまた、理性、平等、普遍性、自律性を指導理念とし、人間を社会的環境の影響から解放しようとする場でなければならないので、あらゆる宗教的影響力だけでなく、あらゆる社会的影響力からも自由でなければならない。そのためにこそ、非宗教性と同時に教育の無償性が保障されているのである。

　このように現代もなおその意義を失わない、どころか、世界的に新自由主義の影響が強まる現代においてはなおさらその意義が新たに見直され、再発見されなければならないフランス公教育の理念を定礎したのがジュール・フェリーである。ジュール・フェリーの行った事業の中には、植民地拡大政策という誤った政策も含まれていたが、そうした弱点もはっきりと指摘したうえで、彼が確立した公教育制度の今日的意義を確認した内容となっている。政治家の演説に感銘を受けることなどほとんどない私だが、そのようなひねくれ者の私でさえ、この格調高い演説には感銘を受けると同時に、フランス共和国理念と公教育理念との深いつながりを改めて実感した。

　まず、その中から、とりわけ私が感銘を受けた箇所を引用する。

　学校といえば解放です。知識。学ぶことの楽しみ。発見の喜び。知的好奇心の感覚。これらは学校の持つ宝です。・・・

　学校は、真の平等の場所です。機会の平等。・・・生まれや財産や偶然は階級を生じさせますが、学校はそれらをなくす、というのでなければ、少なくともそれらを修正する任務を負っているからです。

　この平等は地域間の公正を必然的に必要とします。子どもがあちらではなくここで育ったら成功の機会が多くなるということは受け入れられません。学校とは、公正の武器です。・・・

　学校をフランス共和国のすべての子どもたちの社会編入の場とすることは私たちの国家的な志のうちもっとも美しいものであり続けています。・・・

　平等の場所である公立学校はまた、非宗教の場所でもあります。

　学校とは、良心の自由を獲得する枠組です。ジャン・ジョレスが定義したように、良心の自由とは、「精神の至上の自由、すなわち、内からか外からかを問わず、いかなる力、いかなる権力、いかなるドグマでさえも、人間の理性の恒久的な探求と努力の営みに制約を加えてはならないという思想」のことです。

　学校は、共和国の精神そのものなのです。

　平等、共学、非宗教性、人間形成、市民となるための学習。これがいわゆるフェリー法に含まれる原則です。その原則は生きています。その原則は、未来の世代が私たちよりもよりよく生きることができるように、また、共和国の約束が厳格に守られるように私が導く政治の中にその存在意義を確保するのです。

　このような学校（教育）観を持つ政治家が果たして日本にいるだろうか？　否、そもそもこのような学校（教育）観が存在することすらほとんど認識されていないのではないだろうか？　以下に、【日本で支配的な新自由主義的教育観】と、《共和国の教育理念》とを対比してみよう。

　【学校とは規律（起立）と訓練の場である】←→《学校は解放の場である》

　【学校は競争の場である】←→《学校は真の平等の場である》

　【学校は多様でなければならない＝格差がなければならない】←→《学校は地域間の公正を必然的に必要とする》

　【学校は市場経済に勝ち抜くことのできる人間を養成するところだ】←→《学校は自分の頭で考え判断できる市民を養成するところだ》

　【学校は社会環境に適応できる人間を送り込もうとする】←→《学校は社会環境から人間を解放しようとする》

　【保護者は子どもの進路を選択する消費者である】←→《保護者は自らの選好を子どもに押し付けてはならない》

　【学校は社会に似ていなければならない】←→《社会は学校に似ていなければならない》

　【学校は競争力のある馬鹿者を育成する】←→《学校は知性豊かな失業者を生み出す》

　【人間は本質的に経済的な動物である】←→《人間は本質的に理性的な動物である》


（以上の対比にあたっては、レジス・ドゥブレ「あなたはデモクラットか、それとも共和主義者か」『思想としての〈共和国〉』を参照した。）

（転載ここまで）


日本社会の行く末を心配する人は多いと思います。なぜ心配なのかといえば、それは、日本社会を良くしてこの日本に生きる人々を幸福にする力が日本国内と日本人の中にないのではないかと疑うからでしょう。実際、日本の骨格を支えるべき政治でも経済でも、その惨状は多くの人が認めるところでしょう。

しかし、冷静に考え直せば、日本国に問題があるということは日本人に問題があるということです。たぶん、日本の教育にも問題があるのでしょう。

誰もが教育を語りたがります。私も含めて。（笑）いろいろな人が教育についていろいろなことを言いますが、一つ最大公約数的なことを言ってみると、不自由で貧しい教育観しか持っていない大人や政治家が多数はびこっている国の教育の場では、不自由で貧しい精神の持ち主が多く生み出されるだろう、ということです。日本は果たしてどうでしょうか。

私の個人的な観察ですが、教育をカネで売り買いするサービス業、あるいは、教育はのちのち自分が出世して利益を自分だけが独占するための道具だという考えのもとに日本の教育が「経営」されているように私には思えてならないのです。

なぜなら、日本の長年の教育の結果として、高学歴の者たちが多数を占める政治エリートや経済エリートやマスコミエリートがすすめる日本の政治や経済やその失敗処理がこれだけひどいという現実があるからです。原子力ムラの道義性のなさや責任感のなさや自己中心性がその代表例です。

問題を修正して事態を改善するためには、豊かな思考が必要です。今まで惰性で続けてきた習慣と決別して、間違いを改めて、新たな道に踏み出す勇気も必要です。そして、そのためにすべての人に必要なのは、豊かな思考と自由な精神を自ら持つことのはずです。日本の教育はそれらを人々に与えることができているでしょうか。

具体的な教育カリキュラムや学校制度は年々変わってきましたが、結果として日本の学校を終えて社会に出て、その中でも政治や行政や経済のリーダーになった人たちを見ていると、日本の教育は成功しているとは言えないように思うのです。

上でasobitarianさんが示してくれた「【日本で支配的な新自由主義的教育観】と《共和国の教育理念》との対比」を見ると、日本の大人が当たり前のように受け入れている現在の日本の教育観は子どもと社会のために実はあまり良くないのではないか、そう思えます。

そのように日本の教育思想に他国の教育思想の光を当てて考え直してみる人が一人でも増えることをこの記事で願います。

私は【市場経済に勝ち抜くことのできる人間】にはなれていません（笑）が、《自分の頭で考え判断できる市民》にはぜひなりたいと思います。そのための励ましとヒントをasobitarianさんの記事からもらいました。

改めて、asobitarianさんとジュール・フェリーとフランソワ・オランドとフランスの公教育の哲学に感謝します。

築地市場の豊洲移転に反対して食の安全を守りたい。
●Like a rolling bean (new) 出来事録
■2012-05-28
築地市場移転反対訴訟の先週の報道。また、関連してサンデー毎日の都議会民主党批判記事を
http://ameblo.jp/garbanzo04/entry-11262495512.html

■2012-05-29
【ご注目・展開を！】これでどこが業界団体容認？築地仲卸組合（東卸）土壌汚染WG中間報告
http://ameblo.jp/garbanzo04/entry-11263217011.html

■2012-05-30
【築地市場移転問題:傍聴をお願いします！】今日、東京地裁で汚染地購入も住民訴訟公判です
http://ameblo.jp/garbanzo04/entry-11264216122.html

↑『がけっぷち社長』さん作。また、税制についての当秘書課の記事は、「カテゴリ : 税制、税金、財政」から。

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