税金から多額の支援を受けておいて、工場を海外に移す企業の社会的責任について

　

ブログ「過去と未来の間」の「法人税を下げても、補助金を与えても・・・」という記事に紹介されていた、ＮＥＣの完全子会社ＮＥＣライティングの一つの工場の海外移転の例を見てみましょう。

●西播地域ユニオン　ブログ
ＮＥＣライティング伊那工場閉鎖　希望退職１０６人　長野
http://seibanlocalunion.blog45.fc2.com/blog-entry-5110.html
2010/11/28 00:00

希望退職１０６人応じる　ＮＥＣライティング伊那工場閉鎖で

　ＮＥＣライティング（東京都）は２６日、１１月末で閉鎖をする伊那工場（伊那市美篶）の従業員１３６人の再雇用などについて、１０６人が希望退職に応募し、１５日付で退職したと発表した。

　残りの３０人はＮＥＣグループや取引などがある会社に配転、転籍になったという。

　同社は希望退職者に対し、カウンセラーによる個別カウンセリングや再就職先の求人情報の提供などをする再就職支援サービスを最大１年半、費用を負担して実施。地元企業などへ再就職ができるよう今後も努めていくという。

　同社の田口亨広報室長は「希望退職者の中には、地元を離れたくないという人も多い状況。再就職活動が円滑に進むよう、引き続き支援をしていきたい」と話している。
　（鴨宮隆史）
2010年11月27日　中日新聞

（転載ここまで）

ＮＥＣライティング自体は、会社のホームページによると、電機メーカーとして誰もが知るＮＥＣ（日本電気）の完全子会社。1968年に水口工場(現「滋賀工場」)の操業開始、2004年にＮＥＣ光電(上海)有限公司設立、2005年に伊那工場を新設、さらに、2007年に滋賀第２工場設立です。伊那工場が設立から5年あまりで閉鎖されて、滋賀や東京本社のような日本国内ではなくて上海に移されて事業内容が合併、再編成されたわけです。結局、現在の開発・生産拠点は滋賀県・中国（上海）の二か所になりました。

会社の規模を見ると、ＮＥＣライティング全体の資本金は10億円、従業員数630人（2011年1月現在）、年間売り上げは415億円（2009年度）。

伊那工場閉鎖の詳しいいきさつをはっきりさせるには、会社の事業方針の移り変わりや財務状態を調べるべきなのかもしれませんが、ＮＥＣライティングのホームページ自体ではそこまではわかりません。したがって、そこは保留にしましょう。

この伊那工場の規模はどうでしょうか。伊那工場の従業員数が136名ということは、会社全体の約5分の1ということで、その比率で資本金を割ってみると、伊那工場にかけられた資本は（形式的な計算上は）2億円くらいということでしょうか。ついでに、その比率で年間売り上げを割ってみると、伊那工場の分は（形式的な計算上は）80億円くらいでしょうか。

伊那工場の規模をそのように思い描いたところで、次の赤旗の記事を見ると、このＮＥＣライティングの伊那工場にはかなりの補助金が出ていたことに割り切れない思いが強く残ります。

●「しんぶん赤旗」
撤退企業よ 補助金返せ
１億６０００万円 市が要求
共産党が提起　長野・伊那
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik10/2011-01-23/2011012301_05_1.html
2011年1月23日(日)

　長野県伊那市の照明機器メーカー・ＮＥＣライティング（本社東京）が伊那工場を昨年１１月末で閉鎖した問題で、伊那市は２１日、これまで市が支払ってきた補助金１億６０００万円を今年度内に返還するよう同社に通知しました。

　同社は昨年７月に「工場の海外移転のため、１１月末で閉鎖する」と発表、労働者１４０人の首切りを強行しました。

　同社はこれまでに、県から３億円（ものづくり産業応援助成金）の支援を受けてきたほか、伊那市からも２００６年からの４年間で１億６０００万円（商工業振興補助金、固定資産税相当）の補助金を受けてきました。さらに同社の要請を受けて、市が６億７０００万円をかけて造成した工業用地も、同社は購入しませんでした。

　日本共産党伊那市議団（飯島光豊団長、３人）は、白鳥孝市長に対し、同工場の閉鎖で１４０人の雇用が失われ、地域経済に重大な影響を与えるとして、「雇用確保を求めるとともに、補助金の返還請求をするべきだ」と追及。市議会は、同社に補助金返還を請求するとともに、労働者と十分な話し合いと再就職先を確保する要請書を、全会一致で採択しました。

（転載ここまで）

資本金2億円分の事業所に、補助金や支援がずいぶん税金から支出されていることになります。136名の従業員とその家族の生活がかかっているのですから、伊那市が支援をするのも行政のつとめです。しかし、会社の規模に比べてこれだけ多額の公金をつぎ込んいるのに、たった5年で撤退って、地元からしてみれば不満や怒りが大きいことでしょう。こんな会社に振り回された伊那市とその住民の方々の気持ちを思うと、共産党が言い出して、伊那市議会が、同社に補助金返還を請求するとともに労働者と十分な話し合いと再就職先を確保する要請書を全会一致で採択したというのもよく理解できます。

一方、移転先の上海というのは、中国の中でも特に経済発展著しいところです。単に伊那では人件費や法人税が高くて経営が苦しくて上海では人件費や法人税が安いからというだけで上海に移したとは思えません。必ず営業戦略上の大きな理由があるはずだと考えられます。

日本国内に工場を作ってたった5年で閉鎖して中国移転とは、大会社であるＮＥＣの系列の会社としてはずいぶんと先見の明や中長期的な営業戦略が欠けているように思えます。たとえば、伊那に残って将来性のある別の製品の製造にチェンジするなどの選択肢はなかったのでしょうか。どんなにＮＥＣライティングと親会社のＮＥＣに好意的に解釈しても、お財界様コミュニティーの大企業というのは、このように補助金を求め、法人税を下げよと求め、それでいて責任感はどこへやら、自社だけの都合で簡単に従業員を捨てるものだとどうしても思うしかないのです。

（いきさつを知る関係者の方から、差支えのない範囲で、検証可能なソースとともに情報提供があれば、それは追記という形でこの記事に反映します。）

このような企業の行動は、この「ＮＥＣライティング」だけに限ったことではないでしょう。企業というものは、特に大企業になればなるほど、このような自己の都合だけで責任から逃げ出そうとするものであるという例の一つとして記憶しておこうと思います。

ＮＥＣライティングによる元従業員の再就職支援がどこまでされるかも大切ですが、再就職支援サービスは最大１年半だそうです。その間に全員の再就職が各人の満足のいくように行われることを祈りますが、再就職ができない人が出たらその人はどうなるのでしょうか。

ＮＥＣライティングには、元従業員の再就職のめんどうをとことんみることを求めたいですし、たった5年で撤退するなら、補助金や伊那市の同社向け支出を全額返すくらいの誠意があってもいいとも思います。

日本では、企業の社会的責任とは、ずいぶん軽いものなのだということが垣間見られました。それなのに、法人税を下げよと主張しながらそれを雇用や給与に反映させる気のないお財界様の態度の大きさはなんなのでしょう。


追記。朝日新聞の報道。

●asahi.com-マイタウン長野
工場閉鎖の社に「補助金返還を」　伊那市
http://mytown.asahi.com/nagano/news.php?k_id=21000001101260003
2011年01月26日

　伊那市内の工場を昨年１１月に閉鎖したＮＥＣライティング（本社・東京）に対して、白鳥孝市長は２５日、同社に交付した補助金（計１億５千余万円）の全額返還を３月末までに求める文書を送ったことを明らかにした。補助金は企業立地を促す市条例に基づき交付されたが、白鳥市長は返還を求める妥当性があると判断した。
　同社は２００５年に伊那工場の操業を始めた。市商工業振興条例に基づき０６～０９年度の固定資産税（市税）全額補助の優遇措置を受けてきた。
　文書は２１日付。条例に補助金返還を求める規定はあるが、操業期間についての定めはない。市商工振興課は工場閉鎖が条例の「（補助金対象施設の）目的外使用」に当たり、返還を求めることができると判断した。さらに法的措置について、白鳥市長は「補助金は市民の税金なので重い。県と連携しながら、ＮＥＣ側の判断によって対応を考えたい」と慎重に語った。
　市議会は昨年１２月、補助金返還を同社に求める陳情を全会一致で採択。議長名の要請書を市長に手渡している。
　一方、県も０７年度、新たな生産設備のため、３億円を同社に助成している。県経営支援課によると、償却分を差し引いた残額の返還を３月末までに求める方針だという。
　ＮＥＣライティングの田口亨・広報室長は「法務担当を含め、届いた書類の内容を確認し、対応を検討している」と取材に答えた。（田中洋一）

（転載ここまで）




↑『たかしズム「ネトウヨ、バカウヨ、ネット右翼、恥さらし、売国奴、日本の恥」を語るための、たかしのブログ』さん作。税制についての当秘書課の記事は、「カテゴリ : 税制、税金、財政」から。

築地市場の豊洲移転に反対して食の安全を守りたい。
●Like a rolling bean (new) 出来事録
■2011-01-17
築地市場「現在地再整備」とまるで異なる「現在地再開発」の構想になぜか東京都の市場運営部門が
http://ameblo.jp/garbanzo04/entry-10770834183.html

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