「子どもたちが死んだ」 ルノー （不定期連載「世界の反戦歌・反戦詩から」、「異議申し立てのための文化的インフラ」）

　

■子どもたちが死んだ　Morts les enfants　1985年発表

作詞　ルノー　Renaud
作曲　フランク・ランゴルフ　Franck Langolff
歌　　ルノー　Renaud

ガソリンまみれのボロ布
一人の子どもが静かに死ぬ
ボゴタの舗道の上
立ち止まる者はいない
地雷原では木っ端みじんにされ
前線では大虐殺にあい
戦争で死んだ子どもたち
父親たちの思想が原因

大使館で舞踏会
愚かで病んだ
おかしな年寄り数人が
世界を山分けにしている

先進国企業の工場で
ボパールの子どもたちが死んだ
ガンジス河の洪水にのみこまれ
弁護士たちが後始末を請け負う
憎しみで子どもたちが死んだ
私たちの身近でも遠くでも
恐怖で子どもたちが死んだ
胸を弾丸で撃たれて

大使館で舞踏会
愚かで軍人の
おかしな年寄り数人が
世界を山分けにしている

サヘルの子どもたちが死んだ
悪いのは日照りだと言われる
セヴェソの子どもたちが死んだ
木々が死に、鳥が死んだ
道路で子どもたちが死んだ
8月の最後の週末
パパはたぶん呑み過ぎたのだ
二杯か、三杯か、少しだけか

大使館で舞踏会
愚かでいじめ好きの
おかしな年寄り数人が
世界を山分けにしている

私の中の子どもが死んだ
この世界には
庭園があって川が流れていて
人間たちを同胞だと思っていた
実は庭園はジャングルだった
人間たちはおかしくなり
川は涙を押し流し
ある日子どもは武器を手にしてしまう

大使館へ弾丸
手榴弾、襲撃
官庁で大殺戮
がれきの下に病人が埋もれる

（翻訳引用ここまで）

大人たちの政治的暴力と新自由主義的資本主義の強欲。それらの誤りやほころびの犠牲になるのは常に弱者、特に子どもたちであるという社会観察。そして、そのような暴力や強欲の日々の積み重ねが見えないところでカウンター暴力の温床となっていくという洞察。胸をえぐるような悲しい現実を、「舞踏会」と「弾丸」というフランス語の同音異義語（どちらも発音は「バル」）を通して表現したこの歌は、日本では知られていませんがフランスで最も人気のあるベテラン歌手の一人、ルノーの1985年の作品です。以前にこの人の反戦歌を「勲章」、「北アイルランドのバラード」、「マンハッタン=カブール」と三つ取り上げたことを覚えている方もいらっしゃるかもしれません。

より具体的な理解のために、いくつかの固有名詞にに注釈を。

ボゴタは南米コロンビアの首都。ウィキペディアの記事では「現在は左翼ゲリラ、右翼民兵、麻薬組織による内戦に苦しめられている」とされています。

サヘル（Sahel）とは、ウィキペディアによると、サハラ砂漠南縁部に広がる半乾燥地域で、深刻な砂漠化に直面している地域。

ボパール（ボーパール）（Bhopal）とはインドのマッディヤ・プラデーシュ州の州都。ユニオンカーバイド社の子会社の化学工場があり、1984年にそこで大規模な事故が起こって、有毒ガスが周囲に流出して多数の被害を出したことで知られます。その責任を追及する裁判は四半世紀も続けられています。次の記事も参考にしてください。

●壊れる前に…
■ボパール＋２０
http://eunheui.cocolog-nifty.com/blog/2004/12/post.html
2004.12.01

■四半世紀目の判決
http://eunheui.cocolog-nifty.com/blog/2010/06/post-0f36.html
2010.06.08

●ウィキペディア
ボパール化学工場事故
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9C%E3%83%91%E3%83%BC%E3%83%AB%E5%8C%96%E5%AD%A6%E5%B7%A5%E5%A0%B4%E4%BA%8B%E6%95%85

それから、セヴェソ（セベソ）（Seveso）とは、1976年7月10日に爆発事故を起こして有害物質を拡散させた農薬工場のあった、北イタリアはミラノの北にある町。参考記事として次のものを。事故後数年にわたる有害物質処理の過程でも不透明な怪しいことがあったようです。

●ウィキペディア
セベソ事故
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BB%E3%83%99%E3%82%BD%E4%BA%8B%E6%95%85

●日々の出来事　Oggi come oggi
セヴェソから30年
http://tady.seesaa.net/article/20026982.html#
2006年06月29日

●望月浩二 ドイツ・欧州環境規制調査
II. 欧州(EU)の環境規制動向 -
http://www.mochizuki.de/ii_euiodeuaoii.php

1985年発表のこの歌は、直接的には1984年12月のボパールの事故に触発されたのでしょうけど、1976年の別の産業事故のことも作者は思い出し、そこに戦争で殺される罪のない子どもの姿が重ねられて一つの詞としてまとめられました。新自由主義の強欲が世界のあらゆるところ、日常生活にまではびこって人々を苦しめている2010年の今、その強欲は戦争と同じように、不利な位置にいる人間に向けられる暴力なのだということを改めて考えさせられます。その強欲こそが暴力の源であり、まさに、「父親たちの思想で子どもたちが死んでいる」のです。反戦歌であると同時に、自らもその一員である人間のあり方をも問うている歌のように思えるのです。

さて、説明はこのへんにして、この歌を聴いてみましょう。本人の歌はもちろん、学校での音楽の授業や子どもたちの合唱のレパートリーとして歌われている映像、そして、1972年生まれのフランスの女優で歌手で現在は俳優ジョニー・デップの連れ合いとしても知られるヴァネッサ・パラディ（Vanessa Paradis）の15歳の時の歌唱があります。お好きなのをどうぞ。

■http://www.youtube.com/watch?v=iQRJZGGo9No　（←作者本人のスタジオ録音の歌に映像がコラージュされたもの、その1）

■http://www.dailymotion.com/video/xb1uq7_renaud-morts-les-enfants_music　（←作者本人のスタジオ録音の歌に映像がコラージュされたもの、その2）

■http://www.dailymotion.com/video/xdi5yq_morts-les-enfants-montage-renaud_webcam　（←作者本人のスタジオ録音の歌に映像がコラージュされたもの、その3）

■http://www.dailymotion.com/video/x25dtr_renaud-morts-les-enfants-live-86_music　（←作者本人の1986年のライヴ映像）

■http://www.dailymotion.com/video/x2f2ao_morts-les-enfants-renaud_music　（←作者本人の2003年のライヴ映像。17年の歳月を経て、すっかり声が出なくなってますが、拍手喝采は17年前と変わらずに。）

■http://www.youtube.com/watch?v=AgsrsA6EQlA　（←子どもたちの合唱、その1。映像）

■http://www.youtube.com/watch?v=4geBdTZ0szA　（←子どもたちの合唱、その2。映像）

■http://www.youtube.com/watch?v=7ZkHTnubOX4　（←子どもたちの合唱、その3。映像）

■http://www.dailymotion.com/video/x5rurj_morts-les-enfants_school　（←子どもたちの合唱、その4。音声のみ）

■http://www.youtube.com/watch?v=3EqS9wkHLy4　（←女優で歌手のヴァネッサ・パラディの1988年9月18日のテレビでの歌。彼女は当時15歳）

大人のみなさん、子どもたちがこの歌を歌うのを聞くと、身が引き締まる気がしませんか。

ボパールの事故が起こったのは今からちょうど26年前の今日、1984年12月3日。大人たちの強欲や暴力や不注意や責任逃れで犠牲になり続けているすべての時代のすべての子どもたちのことを考えながら、この歌を聞きます。

ボパールやセヴェソといった固有名詞を織り込んで作られたこの歌がヒット曲、人気曲として聞きつがれ、世代を越えて歌いつがれて不朽の生命を得る様子、それによってフランスでこの作品が一種の文化的インフラとなり、これらの悲劇や戦争の記憶が世代を超えて伝え続けられ、戦争や産業事故の原因についての思索がうながされ続けている様子を私はこれらの映像資料から感じました。


この記事は、不定期連載「世界の反戦歌・反戦詩から」のひとつ、また、不定期連載「異議申し立てのための文化的インフラ」のひとつです。（←他の記事へは、クリックしてリンク先をどうぞ。）



↑『たかしズム「ネトウヨ、バカウヨ、ネット右翼、恥さらし、売国奴、日本の恥」を語るための、たかしのブログ』さん作。税制についての当秘書課の記事は、「カテゴリ : 税制、税金、財政」から。

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