「二大政党制」の誤りを示すイギリス総選挙の結果

　

『「二大政党制」が自己目的化しているようにしか見えない。』の記事に、『「ユニオン」と「労働ニュース」アーカイブ』さんから、直近のイギリスの総選挙の結果についてのコメントをいただきました。

『「二大政党制」が自己目的化しているようにしか見えない。』という記事を書いたのだからこのイギリスの選挙結果も注目していますよね、という耳打ちだと受け止めています。『「ユニオン」と「労働ニュース」アーカイブ』さん、いつもありがとうございます。

実際、イギリスの今回の総選挙の結果を見て、それをフランスの2010年3月の地方選の結果とくらべると、その国の選挙制度、政治制度、そして、制度以前に国民の持つ社会風土・政治風土は、民主主義による社会をつくるうえで大切な土台の一つだという考えを新たにしました。

イギリスのそれは総選挙、フランスのそれは地方選という違いはありますが、その結果から学ぶべきことは多くあります。

小選挙区制という選挙制度による二大政党という政治慣習への意図的誘導がイギリスで行き詰っている...というのが言いすぎなら、二大政党という政治慣習を根本的に再考しなければならないという転機をイギリスは迎えていると言えると思います。

『「ユニオン」と「労働ニュース」アーカイブ』さんの紹介してくださった五十嵐仁さんの記事を読ませていただきます。強調字体は村野瀬によるものです。

●五十嵐仁の転成仁語
５月10日（月）　本家イギリスで明らかとなった小選挙区制の問題点　[国際]
http://igajin.blog.so-net.ne.jp/2010-05-10

　注目されていたイギリスの総選挙が終わりました。第１党だった労働党が90以上も議席を減らし、保守党が第１党になりました。
　躍進すると見られていた第３党の自由民主党は、前回より５議席減らして57議席にとどまりました。各党の獲得議席と得票率は以下のようになっています。

　以下は、政党名、議席数（増減）、得票率％（増減）の順。

保守党　　　　　　　　　306（+97）　　36.1（+3.8）
労働党　　　　　　　　　258（-91）　　29.0（-6.2）
自由民主党　　　　　　　57（-5）　　　23.0（+1.0）
民主統一党　　　　　　　8（-1）　　　　0.6（-0.3）
スコットランド国民党　　　6（0）　　　　1.7（+0.1）
シン・フェイン　　　　　　　5（0）　　　　0.6（-0.1）
プライド・カムリ　　　　　3（+1）　　　　0.6（-0.1）
社会民主労働党　　　　3（0）　　　　0.4（-0.1）
緑の党　　　　　　　　　1（+1）　　　　1.0（-0.1）
同盟党　　　　　　　　　1（+1）　　　　0.1（+0.0）
その他　　　　　　　　　1（0）　　　　1.1（0.0）

　このように、保守党は第1党になりましたが、獲得議席は301議席で下院の過半数である326議席には届きませんでした。全政党が過半数割れとなるハング・パーラメント（宙ぶらりん議会）の状態が1974年２月総選挙以来、36年ぶりに生じたわけです。

　この結果については、様々な論評が可能ですが、どのようなものであっても、これで「小選挙区制バンザイ」というものはないでしょう。それどころか、私が17年も前に、拙著『一目でわかる小選挙区比例代表並立制』（労働旬報社、1993年）で書いた小選挙区制の問題点がてんこ盛りになっています。
　小選挙区制の問題点について、詳しくは、この本ともう一冊の拙著『徹底検証　政治改革神話』（労働旬報社、1997年）をご覧になって下さい。ここでは、その中でも特に次の点を強調しておきたいと思います。

　一つは、議席数と得票率の大きな乖離です。労働党は得票率29.0％で306議席も獲得したのに、自民党は23.0％の得票率で、たったの57議席を得たにすぎません。
　得票と当選者との関係では保守党と労働党が「膨らまし粉」によってかさ上げされたことは明らかです。逆に、自民党は、得票率に比べてずっと少ない議席しか獲得できませんでした。
　労働党と自民党では、得票率ではたった６ポイントの差にすぎないのに、議席では249議席もの差がつきました。これをインチキと呼ばずに、何と呼んだらよいのでしょうか。

　第２は、このように、大政党に有利に、小政党に不利になる小選挙区制の「特性」＝害悪が極めてはっきりと示されたということです。このようなインチキな制度が、どうして民主的な選挙制度として採用されているのか、私には理解できません。
　イギリスは、議会制民主主義の母国とされていたのに、この間違いに気づかないとは、どうしたことでしょうか。今回の選挙は、この制度の害悪によってイギリス政治がしっぺ返しを食わされたというべきでしょう。

　第３に、このような不備があっても小選挙区制が採用されてきたのは、それを補うほどのメリットがあるとされていたからです。それは、２大政党化を進めて政治を安定させ、政権交代を促進するからだというのが、代表的な弁護論でした。
　しかし、これも、今回の結果によって反駁されています。事実は、このような謬論を木っ端みじんに打ち砕いています。

　第１に、小選挙区制が長い間実施されてきた結果、２大政党化が進んだのではなく、多党化が進んでいます。今回の総選挙に候補者を立てた政党は、保守党、労働党、自民党などの主要な政党だけでなく、民主統一党やスコットランド国民党などを含めて、全部で10政党に及びました。
　これだけの政党が候補者を立てているということは、２大政党化の偽りを示しているだけでなく、２大政党では国民の要求や利益を代表できないということをも示しています。２つの政党がちゃんと機能し、利益代表としての役割を果たしていれば、これほど多くの政党が候補者を立てる必要はなかったはずです。
　つまり、２大政党制は、今日のイギリスにおいてさえ、もはや市民社会と政府を媒介するシステムとして機能不全に陥っているということなのです。イギリスにおいても、２大政党制はその役割を負え、時代遅れになっていると言うべきでしょう。

　第２に、このように、２大政党以外の第３の有力政党が出現した結果、イギリスの議会勢力において、過半数を占める政党がなくなりました。少数与党か、連立政権が避けられなくなったのです。
　つまり、「小選挙区制＝２大政党制」という神話が覆っただけでなく、「２大政党制＝安定政権」という神話もまた、過去のものとなってしまいました。今後のイギリスでは、恐らく、単独政権ではなく連立政権が登場することでしょう。
　でも、心配いりません。連立政権はもはや普通のことであり、先進国で当たり前のことがイギリスにも及んできただけなのですから……。
（中略）
日本でも、小選挙区制の害悪は、もはや明瞭になってきています。
　本家の動向にかかわりなく、日本は自主的に小選挙区制というインチキ選挙制度をきっぱりと捨て去るべきです。そして、小選挙区制抜きの比例代表制度を採用し、民主社会にふさわしいまともな選挙制度への舵を切るべきではないでしょうか。

（引用ここまで）

一方、「フランス地方選、左派の大勝と極右の躍進と」という私の記事では、フランスの選挙は多くの場合二回投票制であることと、イギリスや日本以上の政党数を誇っている（笑）ことを説明しました。また、今回のフランス地方選では、小選挙区制ではなくてグループごとの候補者名簿で選挙をたたかう制度になっていることも説明しました。選挙の二回投票の過程で別々の政党やグループの間で政策協定についての話し合いも行なわれる結果、多くの候補やグループの考えが集められる回路があると言えるとも説明しました。これを日本にあてはめると、選挙制度によって強引につくられる二大政党制よりも、ことなるグループの間で政策協定の合理的・理性的な話し合いをしながら政策を練ってゆく多党制の方が望ましいのではないかということです。

そこで、五十嵐仁さんの記事にもどりますが、選挙制度によって二大政党制へと誘導しようとしながらも、二大政党ではカバーできない民意が多党化という形であらわれているという明らかな矛盾に注目します。しかも、その多様な民意が「議席数と得票率の大きな乖離」によってやすやすと切り捨てられています。

それと同時に、二大政党制は安定政権につながるという神話がもはや通用しなくなっているということも重要です。

このことは、日本の情勢を見ても明らかです。『「趣味の政治ごっこ」としての保守新党結成ブーム』という記事でもふれたように、ジミントーに不満な保守勢力は次々と新党をつくっています。その数々の保守新党の中身の評価はおくとしても、「二大政党制」に人工的に誘導することは社会の現実に合わないということは明らかだと思います。二大政党制が政治を良くするという説は幻想であると気付く時がきていると思います。

二大政党に誘導するような選挙制度、日本の場合は一回投票の小選挙区制度にすることで自動的に政治がよくなるわけではないことを肝に銘じなければなりません。

それよりも、民主政治とは何か、国民の幸福をもたらす政策とは何か、個別の具体的政治課題について政治家もマスメディアも有権者も民主政治の原理を理解したうえで具体的に学び、考え、議論することでしか政治はよくならないと改めて思いました。しかし、日本では政治もマスメディアも残念ながら政局や選挙の話ばかりで政策をあらゆる角度から検討する議論や記事・報道は目立ちません。あるいは、消費税値上げ推進論は多くの面でおかしいのに、十分な情報を出したり考えを深めるような報道をしたりせずに、目くらましと洗脳で世論を一方的に誘導するようなことばかりやっています。

そういえば、民主党やジミントーは、国会議員選挙の比例代表部分の削減を唱えています。イギリスの失敗や日本の現実の矛盾を見れば、小選挙区制にしぼってゆくことは政治を機能不全に陥らせて国民の不満を高める愚かな方針だということに民主党は気付くべきです。

中国新聞の社説も読みましょう。

●中国新聞
英総選挙の教訓　制度の問題点も検証を
2010/5/9
http://www.chugoku-np.co.jp/Syasetu/Sh201005090068.html

　二大政党がマニフェスト（政権公約）を掲げ、有権者の支持獲得を競い合う―。議会制民主主義の模範とされる英国で６日行われた総選挙は、選挙制度の問題点をあらわにする結果となった。

　過半数を制する党がない「ハング・パーラメント」（中ぶらりん議会）に陥ったからである。１９７４年以来３６年ぶりの事態という。

　これまで保守、労働両党が交互に長期政権を維持してきたのは、議会での安定過半数が背景にあった。今回、与党労働党は議席を大幅に減らしたが、第１党になった野党保守党も過半数に届かず、第３党の自由民主党が割って入った。

　勝者がいないとも評された選挙戦。労働党は一定の経済成長と福祉水準の確保を両立させる「第３の道」を進めてきたが、ギリシャ危機をきっかけに国の財政赤字が英国でも深刻になる中、打開策を示せなかった。対する保守党も争点を鮮明にできなかったようだ。

　最も話題を呼んだのは、イラク戦争への参戦問題などで両党を批判してきた自由民主党。事前の予想では有権者の支持をほぼ３分していたほどである。それなのに、得票を伸ばしながら議席は減少。すべての選挙区で最高得票の１人だけが当選する単純小選挙区制の矛盾といえる。

　新政権は少数与党か連立とならざるを得ない。政権運営に当たる強力な与党と、影の内閣で対抗する野党という構図が変わるかもしれない。

　英国を見習ってきた日本では、戦後初めての本格的な政権交代が実現したばかり。今回の総選挙から教訓をくみ取りたい。

　最大の問題はやはり、議席につながらない死票を大量に生み出す仕組みだろう。得票のわずかな差が議席数の大幅な移動に直結する小選挙区だけで、多様化する民意を十分反映した議会構成となるか疑問だ。

　日本は小選挙区比例代表並立制を採用しているものの、民主党は比例部分の議席数削減を主張する。行財政改革の一環として議員定数の削減を望む声が強いとはいえ、具体的な方法は慎重に検討するべきだろう。

　政策そのものでも、民主党の新成長戦略は英労働党の第３の道と重なる。公共事業依存と市場原理主義の双方から抜け出そうという理念は分かるが、経済危機の下で有権者の支持をつなぎ留められるか。労働党の敗北を検証する必要がある。

（転載ここまで）

築地市場の豊洲移転に反対して食の安全を守りたい。
●Like a rolling bean (new) 出来事録
■2010-05-12　5/17 の都議会特別委員会（ジミントー提起）の自公参考人はやはり流通のための卸売市場カイカク派
http://ameblo.jp/garbanzo04/entry-10532483758.html

■2010-05-15　イシハラ都政の傲慢さを訴える、豊洲汚染土壌廃棄差し止め訴訟第４回公判（短いけれど重要な段階へ）
http://ameblo.jp/garbanzo04/entry-10534216514.html

■2010-05-20　イシハラ都政による「土壌汚染除去実験」の目茶苦茶さ＜６＞（６種の実験はすべて未検証）
http://ameblo.jp/garbanzo04/entry-10539551712.html

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そこに存在する美しい人生と生命と生活を守る切実な要望を民主党に聞かせるために、アブナイ日本が壊れる前にとりあえず何かしたいけどどうしたらいいかkimeraれない人の役に少しでもたちたくて、イル・サンジェルマンの散歩道の午後のカフェでクリーム味の革命鍋をいただいて、虹の日記やフランス語の練習帳や「ユニオン」と「労働ニュース」のアーカイブや世界の片隅で税制についてのニュースを読んで、消費税と社会保障と国家予算についての『知られざる真実』を大脇道場と言ノ葉工房とスーパー小論文ハイスクールとアジア連帯講座で1947年教育基本法の理念に賛同して超左翼おじさんやカナダの日本語の先生から学んだ後で、労働組合ってなにするところだろうとか、どうしたら戸倉多香子さんや保坂展人さんのためにみんななかよくスクラムを組んで多文化・多民族・多国籍社会で「人として」情報流通を促進できるかとか、雪裏の梅花や古い寺を多く見て生活の中で感じた疑問や思いをあれこれめぐらせて日常で思った事、感じた事をつらつら好き勝手に書く、一寸の虫にも五分の魂で転がるひよこ豆のように国会議員定数削減・比例削減に反対してきまぐれな日々を過ごすサイバー政治団体秘書のおしごと日誌。
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