死刑容認論と世論調査 （不定期連載 『その調査、おかしくない？』）

　

死刑制度についての世論調査を内閣府が発表したそうです。死刑存廃の件について考える以前に、「世論調査としてのお粗末さ」に悲しくなりました。内閣府の官僚の知性や実務能力は大丈夫でしょうか。まず新聞報道で要点を見ましょう。

●東京新聞(TOKYO Web)
死刑容認８５％過去最高　時効延長２５年　『短い』５割超
2010年2月7日 朝刊
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2010020702000061.html

　内閣府が六日付で発表した「基本的法制度に関する世論調査」によると、死刑制度の存続は「やむを得ない」との回答が８５・６％に上り、一九九四年の同調査開始以来、過去最高になった。

　殺人など最高刑が死刑に当たる罪の公訴時効期間は二〇〇五年施行の改正刑事訴訟法で十五年から二十五年に延長されたが、５４・９％が「短すぎる」とし、このうちの４９・３％が時効廃止を求めた。

　東京・秋葉原の無差別殺傷事件などの発生を踏まえ、凶悪犯罪に厳しい対処を求める世論の広がりがうかがえる。

　調査は五年ごとに実施しており四回目。死刑容認は初回の７３・８％から一貫して増加傾向にあり、〇四年の前回調査から、さらに４・２ポイント増えた。死刑廃止を求めた人は、前回比０・３ポイント減のわずか５・７％だった。

　死刑容認の理由（複数回答）では「死刑を廃止すれば、被害者や家族の気持ちがおさまらない」が５４・１％で最多。以下、「凶悪犯罪は命をもって償うべきだ」（５３・２％）、「死刑を廃止すれば凶悪犯罪が増える」（５１・５％）が続いた。

　死刑廃止論の理由（複数回答）は「生かして罪の償いをさせた方がいい」が５５・９％、冤罪（えんざい）なら「取り返しがつかない」が４３・２％だった。

　公訴時効に関しては、今回が初質問で、二十五年の時効が「長すぎる」は１０・０％。「短すぎる」とした人に理由（複数回答）を聞くと、「時間の経過で処罰されなくなるのはおかしい」（７９・８％）、「犯人を処罰してほしいと思う被害者の気持ちは薄れない」（５５・２％）などが挙げられた。

　法制審議会の刑事法部会は一月に、最高刑が死刑の罪は時効を廃止するとの法改正の要綱骨子案をまとめており、近く最終決定する見通し。

　調査は昨年十一～十二月、全国の成人男女三千人を対象に面接方式で実施。回収率は６４・８％。

（転載ここまで）

死刑についての正確な知識がないままの回答者、あるいは死刑について多くの角度から真剣に考えたわけではない回答者に直感的に判断させて、その多数派をもって、死刑存置が「正しい意見」だと言いたげなことがこの世論調査の重大な問題点です。犯罪統計を調べたことのある人はとても少ないことはすぐに想像がつきますし、被害者遺族への同情から死刑賛成に回答者の気持ちが傾く現象は理解できますが、この世論調査そのものに致命的な欠陥があります。

この世論調査について、感情を抜きにした、事実にもとづく指摘をここでは一つだけさせていただきます。

それは、「死刑を廃止すれば凶悪犯罪が増える」と思っている人が51.5%いるからといって、死刑を廃止すれば凶悪犯罪が現実に増えるわけではないということです。死刑を廃止すれば凶悪犯罪が増えるかどうかは、死刑の有無が本当に凶悪犯罪の発生率に影響を与えているかどうか、死刑廃止国で体系的な学術的調査をすることによってのみ明らかになるのです。犯罪統計を調べたことのない素人にデータも見せずに直感的に判断させることで明らかになるのではありません。そのことは、『「多数決」や「多数派」についての思考の断片』という記事で書いたのと同じことです。

そして、現実に、そのようなたくさんの調査でも、死刑の有無が実際に凶悪犯罪の発生率に影響を与えているという一貫した調査結果は得られていないというのが定説なのです。これが現実なのです。だから、世界の約3分の2の国で死刑が廃止あるいは停止されているのです。「死刑を廃止すれば凶悪犯罪が増える」という俗説は事実に反しています。

「事実に反すること」を政府が流布すること、誤った俗説を真実であるかのように流すことは、嘘、騙し、詐欺などと呼ばれるのではないでしょうか。悪質な世論操作、あるいは非科学的な態度ではないでしょうか。

事実に反するこのような回答項目を世論調査に混ぜ込むことは、人々の誤った思い込みや誤った知識を強固にするだけのはたらきしかありません。この一点だけで、この世論調査は完全に失格です。この世論調査をプロの仕事と呼ぶことは到底できず、内閣府でこの調査を企画した人には世論調査をやらせるわけにはいきません。あるいは、その人は減給もの、降格ものです。

これは、死刑制度に賛成とか反対とかいう以前の問題です。犯罪被害者遺族の感情は死刑制度によって慰撫されるのかどうかということ以前の問題です。

この一例は、死刑制度以外のほかの分野の調査テーマについても、このように思い込みや誤った知識を強固にするだけのはたらきしかない質の低い世論調査を内閣府がやっているのではないかと疑わせるのに十分です。このように誤った情報にもとづいた政治をやっているから、日本の政治がいつまでも停滞、迷走しているのではないでしょうか。

そういうことで、この記事は、不定期連載、『その調査、おかしくない？』の一つとさせていただきます。

あと、上の報道記事にある被害者遺族の感情の件、同害報復刑が正当かどうかの件については項を改めてまた書きます。（というか、今までにも書いています...。たとえば、『死刑制度を被害者遺族の感情によって正当化することが生む「逆説」』という記事で。）

また、公訴時効の廃止にも賛成が多いようですが、時効の廃止が必ずしも良いことであるとは私は考えてはいません。一言で言えば、時効を廃止するのではなく、効果的で的確なな犯罪捜査のできる人的・予算的な体制をととのえて正当な方法でスピーディーに捜査をできるようにすることが時効廃止よりも大切だということです。それについては項を改めて書きたいと思います。

代わりに今回は、（死刑廃止そのものについてというよりも）死刑存廃をめぐる「議論」のあり方についてのとてもすぐれた記事を二つ紹介させていただきます。

●Ａｆｔｅｒｎｏｏｎ　Ｃａｆｅ
死刑制度は世論の多数によって結論が左右されるべきものではない
http://akiharahaduki.blog31.fc2.com/blog-entry-418.html

単なる「多数派の代弁者」「多数派のメッセンジャーボーイ」なら、政治家に優秀な資質などはいりません。時には世論の多数に逆らっても、優れた政治的判断をするのが政治家に求められる役割です。

また、死刑の是非に関して、「国民に十分な情報を提供し情報が確実に行き渡」ってはいないのが現状でしょう。
例えば、死刑に犯罪抑止力はないということ、
また、犯罪は凶悪犯罪が増加しているから抑止のために死刑が必要と言われるが、実は凶悪犯罪は減っていること
無期懲役は10年たったら出てこれるから死刑との差がありすぎ、終身刑があれば死刑を考え直してもいい、という意見がよく聞かれるが、じつは無期懲役では仮釈放になる方が少なく、しかも仮釈放まで平均25年以上かかってること（10年たったら出てくる、は事実に反したデマ）
先進国の中でアメリカと日本しか死刑は維持しておらず、国連から勧告を受けていることも知らない人の方が圧倒的に多い
などなど・・
これらはマスコミのミスリードが大きいですし、国民の側にもリテラシーの無さを感じます。まずは正しい情報が十分行き渡り、それに基づいて国民的な議論が深まって欲しいと思います。

（引用ここまで）

●駄文徒然日記
分かって欲しいから分かりたい
http://blog.livedoor.jp/kokouroko0923/archives/51474465.html

私は「死刑制度廃止派」もしくは「冤罪が完全に無くなるまで死刑執行の停止を望む派」です。
「死刑制度肯定派」の人は、よく「遺族の気持ちを考えたら犯人を死刑にするのが当然」と言います。
その度に私はいつも
「遺族を盾にするなよ…」と思うのです。
「死刑制度廃止派」の人達は、遺族に向かって「死刑制度を廃止するべき」と言っているのではありません。
遺族の気持ちを否定しているのではありません。
勘違いしないで欲しい。
国家に対して、法律に対して
「国が市民の命を奪う制度は間違っている」
と言っているのです。
遺族の方が、家族の命を奪った犯人に対して「死刑なれ」と思っても当然でしょう。
が、私が知った限り、すべての遺族の人が「死刑」を望んでいませんでした。
「死刑制度廃止派」のイタリア人男性で仮釈放中の犯人に娘さんを殺された人がいました。
家族を殺された遺族の気持ちは、想像を絶する地獄の苦しみでしょう。
その地獄の気持ちを簡単に「考えたら」とか「分かる」などと言うべきではないと思います。
それは、「驕り」に通じるものです。
他にも「遺族の気持ちを考えたら～」という考えは、被害者に遺族がいなかった場合は犯人の罪が軽くてもいい、ことになってしまいます。
「家族のいる人の命は重くて、いない人は軽い」という命の差別です。
差別は人の行為の中で、もっとも醜いものの一つです。
「遺族の気持ちを考えたら～」などと簡単に言ってはならない。
しかし、私は分かりたい、と思う。
相手の気持ちを考えない、それはとても冷酷で貧しい心を生み出してしまう。心の貧しい社会を作ることになってしまう。
今、日本では8、9割の人が「死刑制度肯定派」です（私の知人で「私は死刑制度推奨派よ！」と言って私を偽善者呼ばわりした人がいました。命を奪う事を推奨して、それを誇らしげに口にするとは…；と思って呆れましたけどね；）
これは異常だと感じます。
「みんなで殺せば怖くない」精神は如実に感じられて「ぞっ」とします。
でも、逆に8、9割の人が「死刑制度廃止派」である必要もないと思っています。あくまで社会の世論はね。
もちろん、国家の取る姿勢は「死刑廃止」であるべき、と考えます。
第一、「死刑制度」は犯罪が起こった後の処置ではないですか。
悲しみも憎しみも、被害者も加害者も生まれてしまった後の事ばかりです。
ついてしまった傷は、治るのに、どれ程の時間がかかってしまうのか…
治ったとしても傷跡は残るでしょう。
悲しみも憎しみも、被害者も加害者も生まれない事に、もっと力をいれるべきです。
それが、国家と法律の正しい姿勢ではないのですか？
良い社会を作る事、が正しい姿勢ではないのですか？
「死刑制度肯定」の人達の気持ちは分かります。
何故なら、私もかつては「肯定派」だったからです。
「廃止派」の人達が、どうして廃止を訴えているのか知って、考えて、私になりに調べて考えて
「死刑制度廃止派」もしくは「冤罪が完全に無くなるまで死刑執行の停止を望む派」
になったのです。（詳しくは過去の記事にいくつか書いてあります）
だから、「肯定派」の人にも「廃止派」の気持ちを分かって欲しい、と思うのです。
「肯定派」も「廃止派」も
「遺族の方を救いたい」「より良い社会にしたい」
と思う気持ちは同じ筈です。
違う考えをもった者が、話し合い、調べ、考え、決めていく方が、絶対に良い社会を作れる。
マイノリティ（少数意見）を配慮しない社会は、非情で息苦しい。
今の日本（昔もか…；）がそうだと思います。

（引用ここまで...　なお、うろこさんからは、『すべての遺族の人が「死刑」を望んでいませんでした』というのは、『すべての遺族の人が「死刑」を望んでいたわけではない』、つまり、『死刑を望んでいた遺族も死刑を望んでいなかった遺族もいる』という意味であるとコメント欄でうろこさんに確認をいただきました。）

もう一度言わせてください。お粗末な世論調査に支えられた政策はお粗末なものにしかならない、そして、日本にはお粗末な世論調査が多すぎる、と。

日本政府が行なうべきことの基本は、こんな大穴のあいた世論調査を行なうことではないはずです。死刑にまつわる正確な知識を広め、死刑廃止を実現した他国の例にも学びながら、正確な知識にもとづいて多くの角度から歴史的・科学的に問題を検証して、それを通じて死刑廃止をめざしながら、（他国よりも犯罪率はすでに低い日本ですが）どうしたら犯罪を減らせるのか、（不幸な犯罪が起きてしまった後で犯罪者を罰する以前に、）犯罪の原因にさかのぼってあらゆる面で社会を改善し、不幸にして犯罪被害者になった当事者や遺族への物心両面での公的支援をさらに充実させることではないかと思います。


なお、私は死刑廃止について多くの記事を書いてきました。ご批判は、それらをできれば全部、それが無理であっても、できるだけ多く読んだ上でお願いいたします。ご批判に対する私のお返事はすでにそれらの記事の中にある場合も多いと思いますので...。

■「死刑廃止」カテゴリー
http://muranoserena.blog91.fc2.com/blog-category-4.html


追記
この「世論調査」について書いているブログ記事です。読み足りない方はぜひどうぞ。

●非国民通信
KILLING MACHINE
http://blog.goo.ne.jp/rebellion_2006/e/5832fbfa698333b50e4ec1f1b93e6d6a

●エゾ狂人日記
死刑では何も解決しない
http://ezo-kyoujin.blog.so-net.ne.jp/2010-02-08

●清高のニュース感想戦＋雑文
こんなのは　世論調査じゃ　ないんだよ
http://blogs.yahoo.co.jp/kiyotaka_since1974/50150864.html

●flagburner's blog(仮)
死刑廃止の根拠を明確にしないとまずい
http://blog.goo.ne.jp/flagburner/e/2006a9462c9ed3d272006f16901a1e53

●来栖宥子★午後のアダージォ
死刑容認85.6％　命より大切なものがあるという倫理観にとって代わられた
http://blog.goo.ne.jp/kanayame_47/e/270026079cbe267c02e7f6132575d642

●スキピオの夢：LE REVE DE SCIPION
死刑容認85%・・・過去最高
http://scipion.blog60.fc2.com/tb.php/371-8b1b03f0

築地市場の豊洲移転に反対して食の安全を守りたい。
●Like a rolling bean (new) 出来事録
■2010-01-24　ありもしない「地震で築地市場の天井崩落事故」で老朽化と恐怖誇張する予算案の日のイシハラ都知事会見
http://ameblo.jp/garbanzo04/entry-10441300079.html

■2010-01-26　英文：6000 Piles Found Driven in the Land of Toyosu
http://ameblo.jp/garbanzo04/entry-10443039700.html

■2010-02-01　ジミントー都議が恫喝のヤジ！豊洲新市場予定地専門家会議平田座長（参考人）を萎縮させるかのように
http://ameblo.jp/garbanzo04/entry-10447614649.html

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そこに存在する美しい人生と生命と生活を守る切実な要望を民主党に聞かせるために、アブナイ日本が壊れる前にとりあえず何かしたいけどどうしたらいいかkimeraれない人の役に少しでもたちたくて、イル・サンジェルマンの散歩道の午後のカフェでクリーム味の革命鍋をいただいて、虹の日記やフランス語の練習帳や「ユニオン」と「労働ニュース」のアーカイブや世界の片隅で税制についてのニュースを読んで、消費税と社会保障と国家予算についての『知られざる真実』を大脇道場と言ノ葉工房とスーパー小論文ハイスクールとアジア連帯講座で1947年教育基本法の理念に賛同して超左翼おじさんやカナダの日本語の先生から学んだ後で、労働組合ってなにするところだろうとか、どうしたら戸倉多香子さんや保坂展人さんのためにみんななかよくスクラムを組んで多文化・多民族・多国籍社会で「人として」情報流通を促進できるかとか、雪裏の梅花や古い寺を多く見て生活の中で感じた疑問や思いをあれこれめぐらせて日常で思った事、感じた事をつらつら好き勝手に書く、一寸の虫にも五分の魂で転がるひよこ豆のように国会議員定数削減・比例削減に反対してきまぐれな日々を過ごすサイバー政治団体秘書のおしごと日誌。
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