日本の世論調査の貧弱さ （自然災害リスクを例に） （不定期連載 『その調査、おかしくない？』）

『海賊対処法案への自民党の態度のどこに「責任」がある？』の記事で海賊対処法案の重大な問題点について批判をしたときに、ろーりんぐそばっとさんの指摘をお借りしました。その指摘とは、世論調査で「ソマリア沖の海賊対策に自衛隊を出動させることに賛成か反対か」とたずねる前にまず「あなたはソマリア沖がどこにあるのか知っていますか？」とたずねなければならないし、そこで「ソマリアがどこにあるか知らない」という回答は論外で、その場合は「次の設問には進めない」というものです。問題について知らない人の判断はあまり信頼できないという、痛快で正鵠を射た指摘で、私は全くその通りだとうなずきました。世論調査とはしばしばそのような「いい加減な判断」を引き出すだけのものになっているということです。こちらの記事がそれです。

●ろーりんぐそばっとの「ため口」
ソマリア沖の海賊対策問題、、、という前に。
http://ameblo.jp/logicalhistorical/entry-10244635123.html

実際、私もよく思います。日本の世論調査には、質問項目自体が誘導訊問的だったり的外れだったりするなど出来が良くないか、肝心なことを尋ねていないために意義が薄れているために分析しても参考にならないか、要するに貧弱なものがかなりあると。

そんな思いを、ときどき『その調査、おかしくない？』という不定期連載として書いています。（まだ二つしか書いてないですけど...。汗）

まず、最近の他の方のブログで世論調査についての疑問に的をしぼって書いている記事を二つ拾いました。お二人にエールをおくります。

●へなちょこ自然保護
世論調査
http://henachokosizenhogo.blog.so-net.ne.jp/2009-05-21

●ジョディーは友達
誘導質問、世論調査の罠
http://borgs.cocolog-nifty.com/blog/2009/04/post-fef7.html

前者は調査対象のサンプリングについての疑問、後者は質問の作り方への疑問です。

さて、私の今日の本題、俎上に上げたいのはこれ。

●時事ドットコム
災害リスク、６２％が「高まっている」＝具体的対策は広まらず - ０９年防災白書
http://www.jiji.com/jc/zc?k=200905/2009052900173

政府は２９日の閣議で、２００９年版防災白書を決定した。自然現象の変化や社会の脆弱化に伴い、自然災害の被害を受けるリスクが高まっていると考えている人が最近の意識調査で６２％に上ることを紹介。（後略）
（2009/05/29-09:10）

（引用ここまで）

「自然災害の被害を受けるリスク」って、世論という名の素人のばくぜんとした直感によって評価できるものではないはずです。具体的な場所や建物について、どの部分がどのように脆弱だからどういう自然災害のときにどのように危ない、と問題を立てなければ「リスク」は評価できません。世論の印象が具体的な場所や建物の脆弱性を決めるわけではありません。「この建物は頑丈で安全だ」と世の人々が信じ込めばその建物の安全性が高まるわけではありません。「あなたはxxxを安全だと思いますか」と世間一般に尋ねて「xxxの安全性」について分析した気になっている世論調査、「xxxの安全性」について分析したように見せかけている世論調査が多すぎます。

もともとの調査が悪いのか、そのような意義の薄い調査結果を無批判に報道する報道機関が悪いのか、その両方なのか、そこまではわかりません。具体的なそれぞれの場所の脆弱性（地質学的、建築基準的、...）についてリスク調査の専門家が評価した内容も防災白書の中にあったけど問題の軽重の判断を誤ったマスコミが報道しなかったということなのか、いろいろと想像します。

別の例も出します。たとえば、犯罪について「あなたは凶悪な犯罪が増えていると思いますか」などと尋ねて「そう思う」と答える人が多い結果を示して「凶悪犯罪が増えている」という誤った印象を与える世論調査、困ったものです。現実に犯罪が増えているかどうかは、世論に尋ねるものじゃなくて、犯罪統計で調べるべきものでしょう。実際、犯罪統計によれば凶悪犯罪は減る傾向にあります。ここから生まれたといえる「体感治安」という意味不明の「概念」が現実の犯罪統計よりも重視される様は、日本人の問題分析力の弱さや、暗示にかかって誤った情報に簡単にだまされやすいことの証拠じゃないかとすら思います。その結果、日本での犯罪発生率はたとえばいくつかの欧州諸国に比べて低いのに、欧州では死刑が廃止されているのに対して日本ではいまだに死刑制度があり、死刑判決も死刑執行も増えるばかりという倒錯したことになっています。

さて、災害のリスクに話を戻します。そもそも、どこが脆弱か、どこが危ないかは専門家がその場所や建物を検証してはじめてわかるのではないでしょうか。

例をあげてみましょう。

ある海岸があるとします。その海岸が津波という自然災害の被害を受けるリスクは、その海岸の護岸工事がどのように行われているかどうかなど、専門家の分析で評価されるのです。世論調査で調べるものではありません。

ある建物があるとします。その建物が地震という自然災害の被害を受けるリスクは、その建物の強度や地盤の強さなどを専門家が分析した結果で評価されるのです。世論調査で調べるものではありません。

世論調査で「自然災害の被害を受けるリスク」について、特定の建物や場所についてではなくて日本全体について尋ねたとしたら問題はさらにぼやけます。日本全体、脆弱なところはどこかに必ず残っているでしょう。（築地市場を移転させようとしている、大地震の時に液状化が心配されている汚染地域の豊洲とか？）ですから、「自然災害の被害を受けるリスクが高まっていると考えている人が最近の意識調査で６２％」あっても不思議ではないです。ですけど、それと同時に、このような調査結果を「発表すること」には何の意味もないと言うしかありません。何についての調査なのかはっきりしないのですから。

一方で、防災については、国連の調査もあるのですね。

●時事ドットコム
気候変動で災害リスク拡大＝初の世界防災白書－国連
http://www.jiji.com/jc/zc?k=200905/2009052900567

「気候変動による災害リスクが増大し、特に開発途上国が集中的に影響を受けている」－。国連国際防災戦略事務局（ＵＮＩＳＤＲ）はこのほど、初の「世界防災白書」をまとめ、途上国のインフラ整備の重要性を訴えた。
　白書によれば、洪水では死亡リスクが過去約２０年で１３％も増加。その死者はインドや中国などアジア諸国が大部分を占めており、白書は、災害リスク削減に役立つ投資を行うよう呼び掛けている。
　同白書の編集責任者アンドリュー・マスクレイ氏は東京で時事通信に対し、途上国に被害が集中する原因として「災害リスクを減らす耐震性の校舎や病院などインフラ整備が、（最終的には人命を含めた社会的）コストを削減するとの認識が不十分だった」と指摘する。（後略）
（2009/05/29-18:35）

（引用ここまで）

国連のこの世界防災白書についての報道では、今回の日本の防災白書のように「自然災害の被害を受けるリスクが高まっていると考えている人が最近の意識調査でxx％に上る」などという無内容なことをトップにもってきているのではなく、「洪水では死亡リスクが過去約２０年で１３％も増加」という内容がトップにきています。

「世界防災白書」では、「自然災害の被害を受けるリスクが高まっているとあなたは思いますか」という質問を対象地域の住民に実施したのではなく、当該地域のリスクそのものを、被害の実情もふまえて調査したのだと思います、たぶん。こちらがその白書をまとめた機関。

●International Strategy for Disaster Reduction
http://www.unisdr.org/

そろそろ、この類の日本の世論調査の無意味さや貧弱さに気付く人が政府内、マスメディア内にもっと多く出てくるべき時ではないでしょうか。このような「世論調査」を政府がするなら、それは立派な（？）税金の無駄遣いだと思います。そのようなおかしな「世論調査」は実はたくさんあります。そのような「世論調査」を見つけ次第、『その調査、おかしくない？』という不定期連載でこれからも指摘し続けたいと考えています。

なお、災害については、私のお隣ブロガーさんでは、災害についての著書も出していらっしゃる弁護士の津久井進さんが詳しいです。ご活躍を祈ってエールをおくります。

●津久井進の弁護士ノート
http://tukui.blog55.fc2.com/

築地市場の豊洲移転に反対して食の安全を守りたい。
●Like a rolling bean (new) 出来事録
■2009-06-03　お東京都様の豊洲移転洗脳資料、疑問解消BOOKの「誰がどう見ても疑問炸裂」な点（4）
http://ameblo.jp/garbanzo04/entry-10273085922.html

■2009-06-04　今年の築地市場移転中止デモ「壊すな築地　６．２７　東京大行進II」のテキスト版チラシ
http://ameblo.jp/garbanzo04/entry-10274269214.html

■2009-06-09　都議選候補者への築地市場移転賛否公開質問状が提出されています
http://ameblo.jp/garbanzo04/entry-10276313076.html

■2009-06-11　5月21日の築地市場にて、国会議員の前でぬけぬけと、お東京都様が述べ立てたこと（音声より）
http://ameblo.jp/garbanzo04/entry-10278109369.html

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人気blogランキング（政治部門）（←よかったら押してね）に参加しながら自公チュー政治に「ノー」を言った後、「その代わりに望む政策をどしどし民主党に伝えよう」ミニキャンペーン中で、そこに存在する転がるひよこ豆を食べてクリーム入りの午後のコーヒーを飲みながら、消費税と社会保障と国家予算についての知られざる真実を大脇道場で学んで、多世代交流のブログ広場の中にある世界の片隅で税制についてのニュースを読んで、労働組合ってなにするところかとか、どうしたらみんななかよく多文化・多民族・多国籍社会で「人として」情報流通を促進できるかとか言ノ葉工房の浮游空間で思考して、壊れる前に人生を美しくしたくてフランス語の練習帳や「ユニオン」と「労働ニュース」のアーカイブに日本民主化の思いを書き綴りながら、とりあえずアブナイ日本で福田衣里子さんや保坂展人さんや志位和夫さんや糸数けいこさんや戸倉多香子さんたちの活躍を祈る、一寸の虫にも五分の魂のサイバー政治団体秘書です。
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