自国への誇りよりも、社会への不満に注目すべきでは？ （内閣府による青年意識調査）

日本人としての誇りを持つ青年が8割に達したという内閣府の国際調査について、2009年3月28日に報道がされました。記者クラブで流されたお政府様発表をコピーペーストしただけであるかのように、内容を要約した新聞報道はどこもほとんど同じ文章です。（記者クラブについてご存知ない方は、こちらの記事をぜひごらんください。）

記録のため、一つ引用させていただきます。

●長崎新聞　2009年3月28日
８割が「日本人」に誇り　５カ国の青年意識調査　（03/28 05:02）
http://www.nagasaki-np.co.jp/f24/CN20090327/po2009032701001154.shtml

　内閣府が２８日発表した日本など５カ国の青年に対する意識調査結果によると、日本で「自国人であることに誇りを持っている」と答えた人は、６年前の前回調査より９・１ポイント増の８１・７％に上り、１９７７－７８年に実施した調査で聞いて以来初めて８割を超えた。

　自国で誇れるもの（複数回答）は「歴史や文化遺産」が５９・４％で最も多く、「文化や芸術」が４４・７％で続いた。一方、自国人が「国際的視野」を身に付けていると考えている人は、日本が２７・８％で最低だった。

　日本の歴史や文化・芸術に誇りを感じる若者の増加傾向が明確になった形。経済の低迷などで「内向き」志向が強まっているとも言えそうだ。

　調査は日本や韓国、米国、英国、フランスに住む１８－２４歳の青年約１０００人ずつを対象とし、２００７－０８年にかけて実施した。

　自国人であることに誇りを持っていると答えた割合は、米国が９１・２％でトップ。以下英国８４・１％、日本、韓国７８・０％、フランス７７・１％の順だった。社会に満足していると答えた人は、日本では４３・９％にとどまり、米国（６７・６％）や英国（６１・２％）に大きく差をつけられた。

　日本人のイメージ（複数回答）は「勤勉」「知的」などが上位。「信頼できない」は米、英、フランスが１けた台だったのに対し、韓国では３０・５％に上った。

（引用ここまで）

内閣府の報告書は次のところにあります。
■内閣府　第８回世界青年意識調査　2007～2008年実施、2009年3月発表
http://www8.cao.go.jp/youth/kenkyu/worldyouth8/pdf/gaiyou.pdf　（←pdfファイル）

ただし、今は「概要」だけ。とても奇妙なのは、報道が2009年3月28日にされたのに、今私がこれを書いている2009年4月5日現在の時点で出ている「概要」には、報道されている「自国への誇り」についての調査結果が含まれていないことです。結果が全部まとまっているのなら、概要と同時に調査結果報告全文も同時に発表しないのは、世論操作なのか、内閣府内部の業務上の非効率なのか、いずれにしても、たいへんに不思議です。

さて、この結果について現時点で私が思ったことを書きたいのですが、一般的な意味で誇りを持つことを完全に否定するするものではないけれど、税金をかけたこの調査とこの結果要約にどういう意義があるのかよくわからないのです。

誇りって、自分の努力ですでに達成したものや、これから行う自分の努力への信頼感について持つものだと思います。スポーツ選手が自分の達成した記録を誇りに思う、とか、科学者が自分の研究について誇りに思う、とか。

生まれたらたまたま日本人であっただけですから、日本人であることは本人の努力の成果ではないし、日本の過去の文化遺産などは今の青年が生まれる前から存在・発展していました。ですから、日本の文化や社会を良い方向に充実させてゆく意識や行動や、日本社会に良くないことや誤りがあればそれを修正しようとする意識と行動が伴わなければ、日本人であることの誇り、と言っても、具体性のない空疎な空威張りに終わってしまうことになります。

日本の歴史について誇りを持つということについても、日本の歴史のどの側面・局面について誇りを持つのか、それがはっきりしないと意味がないとも思います。まさか、第二次大戦でアジア諸国を侵略したことを誇りに思う、というのでなければ幸いなのですが。

空疎な「国家意識的誇り」が排外意識と結びつきやすく、自由の抑圧やパワハラをひきおこす温床になり、自国への改善要求的批判をにぶらせるはたらきをすることが多いことは、『歴史、国家主義、「愛国心（国家意識）」』カテゴリーの記事でいろいろな角度から指摘してきたつもりです。でも、この内閣府の調査とその結果発表の仕方は、「誇り」とは何かをどこまで考えたものなのかがわからないし、この結果を具体的にどう政策に生かすのかも全然見えてこないのです。

それから、調査結果の中では、「自国人が『国際的視野』を身に付けていると考えている人は、日本が２７・８％で最低だった」というのも日本の将来にとってたいへんにまずいと思います。「国際的視野」とは、他国と他国人を理解しようとする態度のことであり、自国を客観視できる能力のことでもあると思うのですが、それがなければ、まさに、単なる「内向き」の自己満足的としての誇りにすぎないということになってしまうのです。

さて、ここで前置きを終わって（笑）今回の記事の本題に入りますが（爆）、それらの疑問と同時に、もっと重要な問題が報道では十分に強調されていないと思います。

それは、日本の青年はそれだけ自国に「誇り」を持ちながら、「社会に満足していると答えた人は、日本では４３・９％にとどまり、米国（６７・６％）や英国（６１・２％）に大きく差をつけられた」というところです。（フランスと韓国の数字が上でリンクした「概要」にもありません。内閣府は調査結果を完全な形で結果概要と同時に発表すべきです。）

社会をより良いもの、満足できるものにしようと努力する意識と行動がまずあって、その結果として自国が良い方向に進んでいるという思いを持つことができて、そこから自国への誇りが生まれるというのならわかりますし、それが本来のあり方だと思います。でも、日本ではそうではなくて、社会への不満があっても、何が何でも自国に誇りを持つと回答することが一種の脊髄反射、強迫観念になっているように思えてなりません。「自国への誇り」という精神の硬直すら生んでいるようにも思えるのです。

（ちょっと話は飛びますが、雨宮処凛さんの北朝鮮訪問について書いた「雨宮処凛さんが北朝鮮に行った時のこと」という記事や、鈴木邦男さんの北朝鮮訪問について書いた「鈴木邦男さんの北朝鮮訪問記がおもしろかった。」という記事を思い出して、北朝鮮でも「自国への誇り」が強そうだな、とふと連想しました。余談ですが。）

日本の青年が日本社会に満足していないと思うことは、ワーキングプアを大量に生み出す雇用政策が現在の政治と財界によってこれだけ強力にすすめられたこと、人間を幸福にする政策や政治思想が見えてこないこと、青年層の将来への見通しが今の日本の政治ではなかなか開けてこないことに照らしても納得できます。

それにもかかわらず「自国に誇りを持っている」と考えるのは、ある意味で驚くことだと思います。「国旗国歌愛国心教育」の成果でしょうか？その「誇り」が、社会をより良いもの、満足できるもの、たとえば、「すべての人が安心して暮らせる社会」にしようと努力する「具体的な」意識と行動につながっていくことを心から願います。

その「誇り」のせいで、他国と他国人を理解できなくなり、自国を客観視できなくなるのではないかと私はいつも心配しています。その「誇り」が排外意識と結びついて、自由の抑圧やパワハラをひきおこし、自国への改善要求的批判をにぶらせるのではないかと私はいつも心配しています。

最後に、今回の内閣府調査を報道する記事の見出しに話を戻します。

どの国も7割以上の青年が自国への誇りを持っていて大差はないこと、日本の青年は社会への満足度が特に低いことを考えたら、「8割が『日本人』に誇り」とするよりも、「社会への満足4割、五カ国で最低」という方がニュースとしての意義がある見出しになったはずです。内閣府と各報道機関の再考を求めます。


今いる社会をより良いものにしたいと常に考えてはいるけれど、「自国」への大した誇りは持っていない（笑）村野瀬が考えたことを書いてみました。というか、私にとっての「自国」ってどこなのかという問いもあるのですが...。笑

築地市場の豊洲移転に反対して食の安全を守りたい。
●Like a rolling bean (new) 出来事録
■2009-03-27　築地地上げに応じないと家賃が4倍だとすごむ地上げ屋そのままの比留間市場長都議会発言
http://ameblo.jp/garbanzo04/entry-10231339688.html

■2009-04-01　築地強制地上げ・豊洲移転への与党と官僚の硬直姿勢をあらわにした衆院環境委員会議事を記録しました
http://ameblo.jp/garbanzo04/entry-10234215758.html

■2009-04-03　国会質問と同期して、豊洲新市場の汚染と液状化の資料のリンクを消した狡猾すぎる東京都
http://ameblo.jp/garbanzo04/entry-10235471429.html

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人気blogランキング（政治部門）（←よかったら押してね）に参加しながら自公チュー政治に「ノー」を言った後、「その代わりに望む政策をどしどし民主党に伝えよう」ミニキャンペーン中で、そこに存在する転がるひよこ豆を食べてクリーム入りの午後のコーヒーを飲みながら、消費税と社会保障と国家予算についての知られざる真実を大脇道場で学んで、多世代交流のブログ広場の中にある世界の片隅で税制についてのニュースを読んで、労働組合ってなにするところかとか、どうしたらみんななかよく多文化・多民族・多国籍社会で「人として」情報流通を促進できるかとか言ノ葉工房の浮游空間で思考して、壊れる前に人生を美しくしたくてフランス語の練習帳や「ユニオン」と「労働ニュース」のアーカイブに日本民主化の思いを書き綴りながら、とりあえずアブナイ日本で福田衣里子さんや保坂展人さんや志位和夫さんや糸数けいこさんや戸倉多香子さんたちの活躍を祈る、一寸の虫にも五分の魂のサイバー政治団体秘書です。
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