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「誰もが運命のいたずらで仕事や住居を失って明日ホームレスになるかもしれないという思いのもとに」(3) (貧困と闘う、フランスのある社会運動)

(2)からの続きです。

コリューシュの死後、「心のレストラン」をどうするか、幹部は議論を重ねます。コリューシュはこれからどうしようと考えていたかをめぐって、いろいろな意見が出たそうですが、スタッフ共通の思いを、コリューシュの配偶者であったヴェロニク・コリュチさんがこう言っています。

「『心のレストラン』というこのアイデアを捨てることは、自分の子どもの一人を捨てるようなものです。コリューシュが心のレストランについて語っていたとき、『この後は、それぞれの人がこのおもちゃで遊ぶままにすることだ』と言っていました。」

運動の方針を決めていたコリューシュはいなくなりましたが、残された幹部は、「心のレストラン」精神を次のように定義しなおしました。

* 恵まれない人々への尊重と連帯
* 直接的利益も間接的利益も無しの無償の奉仕活動であること
* 責任を受け入れ、その責任にもとづいた活動の約束
* 懇親的な心、チームスピリット、厳格さをもって活動すること
* 政治、宗教からの完全な独立
* 全国レベル、県レベルの方針への賛同

食糧のより効果的な調達、フランス各地への配送、配給所の確保、一括で入荷するたくさんの食品を取り分ける配給方法のさらなる改善などにも取り組みます。配給所となる場所をその町の役所から便宜を図ってもらえない場合は、古い映画館を使ったりテントを張ったり、使えるものを使ったそうです。

それと同時に、重要なのは、配布される食品は栄養のバランスを考えた組み合わせになっているということです。肉、魚、卵。野菜、パスタ、米、じゃがいも。チーズ、ヨーグルト、デザート。ミルク、小麦粉、油、バター、砂糖。これらをベースに、野菜の缶詰、レトルト食品、チョコレート、ジャム、クリームもときどき加えられました。カロリー数や栄養のバランスにこれだけ配慮していながら、一食当たりの値段もせいぜい5フラン(当時のレートで100円くらいでしょうか)に抑えられていたというのも驚きです。

このような苦労が実ったのか、前のシーズンにコリューシュがヨーロッパ議会に要請していた、ヨーロッパの過剰農産物の配給がいくつかの社会運動団体に認められました。

このような楽屋裏の真剣な仕事ぶりに心から感嘆せざるをえません。これらすべて、失業者や求職者や生活が苦しい人が身近にいるフランス人が貧困を自分の問題として受け止め、社会的連帯感を発揮していることの証だと思います。

残念なことも。貧困者でないにもかかわらずただで食糧をもらいにくる人たちや、運動名やロゴの不正使用などに対して対策をたてなければなりませんでした。コリューシュの名前を騙って路上で寄付をつのるなどの詐欺行為などです。また、貧困者が大勢来る中で全員に十分な食糧がない場合に、その中からもっとも無料の食糧を必要としている人たちを選ばなければなりませんでした。心苦しい、つらい作業です。

しかし、そのようなネガティブな面ばかりではないのは幸いなことで、援助の輪は着実に広がっていました。

定年退職する警官が、退職祝いで同僚から集まった寄付金を「心のレストラン」に届けに来ました。漫談家だったコリューシュは生前、警察をさんざんからかいのネタにしていたのに、その警官にはそれへの恨みは無しだそうです。笑

5フラン玉を何個か封筒に貼り付けて送ってきた子ども。

ある朝、配給所になんの説明もなしに置かれていた大きな貯金箱。

自分の畑からとれたジャガイモの寄付を申し出たある高齢の農業労働者。

社員が「心のレストラン」への寄付金を積み立てた企業。

朝食用の食材の残りを毎朝届けた大手のホテル。

このような運動の広がりに、政治も徐々に重い腰を上げるようになりました。社会運動への寄付で税金を軽減する法律の制定をコリューシュと「心のレストラン」は求めていましたが、1988年10月20日、やっとその法律がフランス議会で満場一致で成立しました。「食糧援助または住居援助の活動をする団体に寄付をした者は所得税の軽減をうけることができる」というこの法は通称「コリューシュ法」と呼ばれています。




以前のエントリーで「アリの掘っ立て小屋」というエピソードを紹介しました。この運動に参加した別の人の思いを伝える別のエピソードをもう二つ紹介します。

『私は怒っています』

ベルナール(仮名)

私は戦争の直後、パリの街中のみすぼらしい家で生まれました。私は子ども時代をなんとかんとか過ごしました。私たち一家は25平米の住まいに6人で住んでいました。本当の貧乏暮らしです。私の両親は仲が悪かったのですが、その時代は誰も離婚しなかったものです。私の父親と私の唯一のかかわりは、彼が私を殴ったことと、酔っ払って彼が帰ってきて一人で階段を上がれなかったときに私が彼をかつぎ上げたときの体の重さでした。
子どもとしての私の唯一の喜びは、私の母と、彼女の威厳と、フレンチトーストだけの夕食を王様の宴会に変えてしまう母の手際でした。

私が学業の修了証書を得たとき、私は貧乏人の運命を背負っていかなければならないことに怒りを感じていました。小売店の見習いになる、みんなと同じ道です。そうしたら、中学校の校長が家に来て、こう言いました。
「ベルナールは才能があります。彼は学業を続けるべきです。」
私の両親はそれを了承しました。どうしてそれが可能だったのか、いまだにわかりません。
校長が帰ると、私は一人になりたくて階段の踊り場に出ました。そこで、私は世界中に誓いました。いつか貧乏人の世界におさらばできても、絶対に貧乏のことを忘れまいと。

人生は続きました。私たちのあばら家はパリの最も名門の三つの高校の近くでした。でも、私はパリの反対側にある学校に行かされることになりました。私の両親は、奨学金を申請するのに鼻高々でした。本も文具も私は盗んでいたものです。私は決してつかまりませんでした。穴のあいた靴、一年中着ている同じ古着。私は本当に貧乏人の格好をしていました。でも、先生たちは私がどうやって生活しているか、どうして私の目にあざがついているのか、どうして私は鼻がつぶれているのか、決して私に尋ねたことはありませんでした。

私が18歳になった日、母が私に言いました。
「あなたのお父さんは本当のお父さんじゃないの。あなたの本当のお父さんがあなたに会いたいって。」
こうして私は私の生まれについて、私の両親の隠された愛の物語を知りました。こうして私は私の目にあざがついていることと私の鼻がつぶれているかを理解したのです。
私は父に会いました。私たちはお互いに全くの赤の他人のようでした。私はその頃、アナーキスト同盟で社会運動を始めて2年になっていました。一方、父は裕福なブルジョワで、大銀行の部長をしていました。彼は私の言うことを全然理解しませんでした。彼は私がどこ出身かすら想像できませんでした。話が全然通じなかったのです。

私は私なりの人生を歩みました。どこからも排除され、私の怒りと折り合いをつけられない重荷を永遠に背負っていました。アルジェリア戦争に反対する闘争がありました。そして、1968年のフランス五月革命がありました。私は思想で、あるいは時には暴力に訴えてでも世界を変えたかったのです。それがうまくいかないことがわかると、私は人権擁護のために闘いました。それがうまくいかないことがわかると、私は人々のほうに顔を向けました。
1993年春のことです。私の友達が私に、心のレストランのトラック配送に同行してほしいと提案しました。私は行きました。様子を見に。そして、見ました。パリの街中で空腹に苦しむ人々の多いこと。私にとって、顔に拳骨を食らわされたような思いでした。
トラック配送では、ただ食べ物を配るだけではありません。話をし、言葉をかわし、人に出会います。私は学びました。路上生活をする人たちとどうやって付き合いに入るか、私は時間をかけました。徐々に時間をかけていきました。彼らの貧困の裏に、私と同類の彼らの姿を私は見ました。友愛に飢えた姿です。
私の暮らし向きがよくなればなるほど、私は彼らを身近に感じるようになります。そして、怒りもつのります。

私は怒っています。路上生活者に唾を吐きかける保守的な通行人の罵倒から身を守ろうとしたからといって路上生活者を禁固刑にする司法に対して。
私は怒っています。こういう通行人が路上生活をしている人たちを見もしないことに対して。
私は怒っています。貧乏人を排除に追いやり、軽蔑し続ける学校制度に対して。
私は怒っています。社会団体や社会制度を自分の個人的権力をふるうために使う人々に対して。
私は怒っています。「何もできない、しかたがない」という言葉を聞くたびに。
私は怒っています。排除された人々をまず同胞として見るのではなくて援助を与えなければいけない人として見ることに対して。
私は怒っています。路上生活者の言うことを聞きながらも彼らに発言の場を与える勇気を持たないことに対して。
私は怒っています。他人を排除する権利を好き勝手に主張する人を見るたびに。
私は怒っています。私は自分の生きる世界で起こっていることに私は責任を負うから。
私は怒っています。生きていることさえ申し訳ないと思うまでに排除されていると感じる人がいるたびに。



『冷凍食品』

フランソワ(仮名)

その老婦人は袋入りの食糧を二人分、定期的に取りに来ていました。彼女自身と、配給所では誰も見たことがない彼女の夫の分です。彼は食べ物に関しては好みが細かいようでした。袋入りの食糧に冷凍食品が入っていると、彼女はいつもつぶやいていたものです。
「ああ、あの人はこれ、好きじゃないのよね…」
ある日、その老婦人の住む地区の女性が一人、援助食糧を受け取るための申し込みにやってきました。その老婦人が二人分を持ち帰るのを見て驚いた彼女は、隅に私を引っ張っていって、こう教えてくれました。
「どうしてあの人にあんなにたくさん食糧を出すのかわからないです。あの人は一人暮らしですから。」
「そんなことはありませんよ。彼女の旦那さんは病気で、動けないんです。だけど、ちゃんと旦那さんは生きていますよ。何年もあの方々には援助をしていますから。」
「そうかもしれませんけどね。でも、よく確かめたほうがいいですよ。不正直な人たちもいますからね。残念なことに、心のレストランにも…」

この「暴露」に驚いて、また、あの魅力的な老婦人が「心のレストラン」をだましているという考えにいやな気持ちになって、私ははっきりと確認することにしました。私は翌週、彼女が配給所を後にすると、そっと後をつけました。
老婦人は右に曲がり、左に曲がり、また右に曲がり、墓場の入り口まで来ました。彼女は慣れた足どりで入っていくと、ある墓の前に向かいました。彼女は袋から皿とナイフ・フォークを出すと、墓石の上にそれらをていねいに乗せ、それから彼女の亡くなった夫に食事を出したのです。
「ええ、わかってますよ、また冷凍食品ですよ。でも、気難しいことは言わないでね。何もないよりもいいでしょう。それに、よく考えてみたら、冷凍食品だって、そんなに悪くないでしょ。」
その老婦人は自分自身が亡くなるまで、二人分の食料品を受け取り続けることになりました。

この記事、(4)に続きます。



2件のコメント

[C141] 1人の不正で99人を見捨てられるか?

拙ブログへのTBありがとうございます。

フジ産経がよくやる「生活保護不正受給者」や「我が儘保護者」「不適格教師」に対する「バッシングキャンペーン」を見るたびに腹が立ってしかたないです。実在するかどうかもわからない、あるいは実在しても特殊な例にしか過ぎない事を一般化して人々の権利を制限しようとするイメージ戦略に人々がうかうか乗せられている事にも。

EUの政治家だったと思うのですが、
「10人死刑囚がいる内、無実の者がひとり混じっていたとする。それがわかっていても”私は10回死刑執行ボタンを押せる”と主張出来るものだけが死刑制度を支持しなさい。」
という内容のことをおっしゃってた記憶があります。
それを聞いた時にわたしの中にあった死刑制度に反対することのモヤモヤ感がかなりすっきりしました。

[C145] SIVAさま

SIVAさん、TBとコメントありがとうございます。
フジサンケイのバッシングキャンペーンについては、本当におっしゃるとおりです。実在する与党の疑惑政治家をもっとバッシングしてほしいものです。笑

EUの政治家のこの言葉、私は知りませんでした。教えていただいてありがとうございます。
これからもよろしくお願いいたします。
  • 2007-03-10
  • 投稿者 : 村野瀬玲奈
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