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「誰もが運命のいたずらで仕事や住居を失って明日ホームレスになるかもしれないという思いのもとに」(2) (貧困と闘う、フランスのある社会運動)

(1)からの続きです。

1985年秋、コリューシュが自分のラジオ番組で「心のレストラン」の活動の呼びかけをおこない、コリューシュを手伝うための仲間が集まり始め、ラジオ聴取者からの寄付の小切手が届き始め、手作りの活動が具体的にスタートします。

食料を集めること、ボランティアや寄付をつのること、配給所や配送手段を確保すること、運動のキャンペーンをおこなうこと。具体的なことはすべてがゼロからのスタートですが、支援者がどんどん現れ始めました。コリューシュの仕事仲間たち。彼のマネージャーの息子の通う高等商業学校(訳者注:大学より格上のグランドゼコールで、その卒業生の多くは企業や行政のエリートになる)の学生たち。ラジオ局のディレクター。エコノミスト、ジャーナリストで1980年代のミッテラン社会党政権でブレーンでもあったジャック・アタリの仲介で会うことのできた当時の農業大臣アンリ・ナレにもコリューシュは「心のレストラン」の価値を認めさせることができました。その中で、運動の実務面、経理面をしっかりと担うことのできる人たちも加わります。

運動の態勢が整ってきたことを確認のうえ、農業大臣は運動のスタートを援助する多額の補助金の支給を開始し、国立食肉局に「心のレストラン」のための事務所を提供するように命じます。冬までの短期間にすべてを準備しなければならないのです。想像するだけでたいへんな仕事です。

コリューシュは休みなく、自分のラジオ番組で呼びかけやキャンペーンを続けます。彼の話術やユーモアをきかせて。「フランスは美食の国なのに、飢えに苦しむ人々がいる。スイスでは時計のない人がいる、と言ったらおかしいと思うだろ?」

キャンペーンソングを歌ってもらうために、カトリーヌ・ドヌーヴ、イヴ・モンタン、ミシェル・プラティニといった有名芸能人、人気スポーツ選手を呼びました。コリューシュ自身も参加しました。出来上がった曲は彼のラジオ番組のテーマ曲としても使われました。

コリューシュは別のテレビ局の番組でも「心のレストラン」のことを話し、11月末にはヨーロッパ1ラジオ局で一日全部を費やした特集番組が実現しました。
寄付の小切手が集まる中、小さな男の子が自分の小さな貯金箱に貯めた少しのお金を全額持ってきました。その子に気付かれないように、コリューシュはそっと自分の財布から高額紙幣を出し、その子が出そうとした小銭の代わりに寄付したそうです。コリューシュの感激ぶりはどのようなものだったでしょうか。

1985年12月21日、最初の配給が始まりました。パリでは、パリ南部のポルト・ドゥ・ヴァンヴ近くに配給所が設けられました。「貧乏だからって、しかめっ面をしなければならないわけではない」と言うコリューシュが思い描いたとおりの、気軽で明るいお祭り騒ぎの中で、コリューシュのささやかなアイデアが素晴らしいアイデアとしてフランス全土に示されたのです。

ボランティアの援助者も大勢参加しました。学生。失業者。引退した年金生活者。小売業者。生活に余裕のある人たちと、自分自身も貧困ぎりぎりの生活をしている人たち、あらゆる年齢のあらゆる宗教のあらゆる階層の人たちが、社会的連帯のために、この運動に参加したのです。

企業からの寄付も集まりました。たとえば、大手食品会社から、野菜の缶詰。それに対して、コリューシュは感謝しながらも、ラジオ番組でこう言うことを忘れません。「1000個の缶詰をありがとう、ボンデュエル(訳者注:野菜の缶詰の商標)さん。でもあと1000個寄付してくれないかな?」あるいは、コリューシュは軍隊に運送のためのトラックを貸し出すように求めました。

マスメディアでこういう影響力を発揮するコリューシュは、一方では人心の機微もわかっていました。ある会社が「心のレストラン」のロゴを入れたビニール袋を無料で作ると申し出たと事務局長がコリューシュに言うと、彼はきっぱりとこう言ったそうです。

「そこまでやるなら、食料を受け取りに来た人たちの額に『貧乏人』とハンコでも押したらどうだ?そうじゃなくて、食料を受け取って配給所から出てきた人たちはそこらのスーパーマーケットから出てきたような様子でいてほしいんだ。カジノ、カルフール、ルクレール、マムート(訳者注:いずれも大手スーパーマーケット名)に、買い物袋を寄付してくれるように頼んだらいい。」

さらなる問題は、食糧を求めてくる人々に十分に配給できる食糧が確保できるかどうかということ。それには、さらにキャンペーンをして寄付をつのらなければなりません。テレビでのキャンペーン、それは芸能人の出番です。1986年1月26日(日)、テレビ局TF1(テーエフアン)と大手ラジオ局の協力で、4時間の特集番組が組まれました。ラジオ局の司会者、公共テレビ、民放テレビの司会者が一つのマイクを分け合い、普段は絶対に同席しない対立党派の政治家たちも、社会的連帯の必要性にかんがみて出演をOKしました。企業や行政機関へのアピール、金持ち層へのアピール。出演した政治家からはコリューシュは援助の約束を引き出しました。番組の盛り上がりに、30分も延長しなければなりませんでした。集まった寄付は2600万フラン、5億円以上です。

1986年2月には、コリューシュはストラスブールの欧州議会に出向き、ヨーロッパの過剰農産物の供給を訴えました。

1986年3月下旬、「心のレストラン」の最初のシーズンが終わり、コリューシュは残金の150万フラン(3000万円以上)を、同じく貧困者のための活動を続けているピエール神父に渡します。(ピエール神父については、るかさんのところnizanさんのところも見てください。)

こうして成功のうちに幕を閉じた第一シーズン。その時には、「心のレストラン」の生みの親であるコリューシュが1986年6月19日にオートバイ事故で亡くなり、フランス中が悲しみに包まれるとは誰も思っていませんでした…。


[ コリューシュ語録 ]

「ただでさえ失業者は仕事を見つけなければいけないのに、今やそれに加えて、失業者は金まで都合してこなきゃいけない。」

「長い間、人間の運命を改善するためにいろいろとアイデアを探してきた。俺の考えでは、まず人間を改善するためのアイデアを探し始めなければいけない。それは緊急課題だ。」

「金があっても幸せにはなれないからって退屈している金持ちの奴らがいたらそう言ってくれ。そいつらから金を頂戴できるほど頭がよくない貧乏人はいくらでもいるから。」

「俺は、貧乏人の考えをわからせるために、金持ちの方法を使っている。」

「俺の最も重要な計画は、生き続けることだ。」

この記事、(3)に続きます。



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