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「誰もが運命のいたずらで仕事や住居を失って明日ホームレスになるかもしれないという思いのもとに」(1) (貧困と闘う、フランスのある社会運動)

大阪市が3000人近い日雇い労働者の住民登録を削除しようとしていることの恐ろしさを思いながら、かたやフランスで失業者、貧困層、路上生活者(ホームレス)のために1985年から行なわれている市民運動「心のレストラン」について、気合を入れて紹介しようと思います。前のエントリーで簡単に触れたその続きです。国民性も社会状況もちがう他国の話ですが、ここから何かを感じ取れることを願って。

おもな取材源、引用元は、
「心のレストラン」のオフィシャルサイト
「心のレストラン」の歴史についての本「心のレストラン 1985-2000(Les Restaurant du cœur 1985-2000」(Michel Lafon出版)
です。それを私なりに要約し、まとめてみました。

フランス、1985年。世界的に、エチオピアなどアフリカの飢餓についての関心が高まった時期のこと。

フランスで「新たな貧困層」が飢えに苦しんでいるかたわら、ヨーロッパ産の過剰農産物が焼却処分されていたことに気付いていた、人気漫談家でコメディアンのコリューシュ(Coluche)が、当時彼が毎日出演していたヨーロッパ1局のラジオ番組で1985年9月26日、こういう呼びかけをしました。

「無料の食堂のスポンサーになることに関心のある方々がいれば、私たちにはそのような活動を援助する用意があります。まずはパリで始めて、それからフランスの大都市に広げていきます。一日に二千食か三千食の無料の食料を配給するねらいを持った、一種のレストランのようなことを。」

コリューシュのアイデアの出発点はこれでした。貧困層、ホームレス、失業者、困難な生活を送る人々に冬の間無料の食料を配給する。単なる慈善活動というよりも、政治に働きかけ、人々の意識を変え、成果の見える具体的な社会運動につなげ、人気芸能人としてのアピール力を発揮して人々の連帯感を高める。彼の思いと行動力は、芸能界の仲間を、政府を、フランス全土を動かし、ボランティアの援助者も5000人集まり、850万食の食料が1985年末から1986年初頭までのその冬に配給されました。

フランスでは、貧困との闘いは2007年の今も続いています。食料援助から住居の援助へ、社会援護措置への援助へ、社会復帰援助へ、と活動は広がっています。先日亡くなったピエール神父。最近脚光を浴びている、住居権を広く認めさせる運動を展開する「ドンキホーテの子どもたち」。そのほかにもたくさんの社会運動があります。

その中で、「心のレストラン」はどのような運動をしてきたのでしょうか。

まず、日本では知られていないコリューシュがどのような人だったかを少し説明しておかなければなりません。彼、本名ミシェル・コリュチは貧しいイタリア人移民の子として1944年にパリで生まれ、パリの南に隣接する街で育ちました。学業を早々とやめ、工場労働者になり、カフェなどで出し物をするようになり、人を笑わせ、楽しませ、圧倒的にフランス人に愛される有名な芸能人となりました。1981年、政治への風刺の意味も込めてフランスの大統領選に出馬の意向を示し、十数パーセントの支持率を獲得しかけたこともありました。しかし、彼は自分の出自を忘れることはありませんでした。「俺は新しい成り金じゃない。元貧乏人だ。」芸能人として大成功した後も、彼はこう語っていたそうです。

最後のほうで自分の経歴にも少し触れながら、この「心のレストラン」がどのように立ち上がったか、彼が1986年2月の記者会見で説明しています。まず彼自身の言葉を聞いてみましょう。

■コリューシュの記者会見(1986年2月27日)

俺が「心のレストラン」で何をしたかって?そうだな、まず、俺は最初、何も言わずにマスメディアを使った。俺はラジオ局ヨーロッパ1で、アイデアを発表することのできる人気番組に(メインキャスターとして)出演していて、実際のそのアイデアを発表したんだ。その後、約2ヶ月の間そのアイデアについて(その番組で)話した後、ヨーロッパ1の役員連中に会いに行って、こう言ったんだ。
「今となっては後戻りするのはもう難しいよ。こんなにたくさん賛同の手紙をもらっているから。」
彼らは答えた。
「わかった。まる一日使って特集番組を組もう。」

この後、「過剰生産の食料品をもってくればいい、なぜかというと安価に食料品を得られて、それならすべての人に食料を配布できるから」ということを俺は言い始めた。
そして、農業大臣に会いに行って、「ほら、こんなことを俺はやった。だからこれからこうして...」というように言ったんだ。
ある権力者が言うには、一般的に法律の欠点は、いくつかのとても時代遅れの法律を除いては、社会慣習よりも進みすぎていることがよくあることだということなんだ。(...)「心のレストラン」の関心は、まず人をひきつけることをやって、その次にそれを立法の対象にするということなんだ。(...)だから、今、大臣になり損ねたからなおのこと法律作りに関心のある高等行政学院出身の連中に俺は法律を作らせた。こういうことでもなければ法律を作る機会なんてなかったから、彼らはうまく法案を作るわけだ、な。その後、俺はその法案を持って右や左へとあちこちを回った。右派、左派、まさにその意味でね。で、彼らはそれぞれの意見を加えるわけだ。それはいい考えだとみんな思ったから、テレビの番組でその何人かを集めることができた。だいぶ苦労したけどさ...。
ここで言っておかなきゃいけないのは、俺がこのアイデアを思いついた最初の人間じゃないっていうこと。俺は実は7人目なんだ。議会に送られた最初の法案は1956年にさかのぼる。議員だった6人のほかの人たちは、一人がクルーズ県(訳者注:フランス中部にある)出身で、あと一人はどこ出身だったか忘れた…っていうか、クルーズ県ってどこにあるかも実は俺知らないんだけど、この人たちが俺とまったく同じことを言っている法案を議会に送ったわけ。つまり、最も気前のよい人たちっていうのはむしろ金持ちでない人たちで、だから金持ちでない人たちが社会運動団体に寄付することをうながす法律を作る必要がある、っていうことなんだ。
俺はそのように役人にやらせた。で、この提案がされたのは俺で7度目なんだよ。つまり、過去に6度、クルーズ県の代議士を葬った。だけど、俺はクルーズ県の代議士に比べて葬りにくくなるよ。なぜかっていうと、俺は「心のレストラン」と同時に俺のコメディアンとしてのキャリアをやめるつもりはないから。彼らは俺の言うことを聞き終わってないしね。(…)この法律は10月に採決されるはずで、俺は9月には舞台に復帰する。(…)だから、俺は法案成立に期待するし、ショービジネスにも期待するよ。(…)

この「心のレストラン」が実現したのはなぜかというと、それは芸能界がそれをやったから。今ではみなが「これらすべてをやったのはコリューシュだ」って言う。だけど、正確にはそうじゃない。マスメディアのヨーロッパ1ラジオ局の使用が本当のところ。そして、みんな、事情を知らなかったみんな。この件から引き出せる考えというのは、良いことをするのに成功するためには、そもそも、すべての人に根回ししなきゃいけないということ。これは本当だよ。「私がやりたい」と自分から言ったのは誰もいない。「ほら、今からこれこれのことをするんだ。なぜなら、わかるだろう、これこれこういうことだから…」って俺は人々に言った。そこで彼らはOKしたんだ。
農業省が欧州諸国の開放を受け入れざるをえなくなる前に、俺はヨーロッパ1ラジオ局で(番組でこの話をするという)作戦を実行しておいた。彼らのことをいろんなところで使わせてもらったってことさ!
今の力関係の中では、これができるのは(芸能人という)俺の職業以外にはない。言いだしっぺがある政党だったとすると、他の政党がついてこない。ということはマスメディアの半分は扉を閉めるということ。もしある新聞がこの考えを思いついたとすると、ほかの新聞はついてこない。もしあるテレビ局がこれを考えたとすると、ほかのテレビ局はついてこない。なぜなら、競争相手のための宣伝をすることになっちまうからね。

だから、本当に、右へ左へと政治参加をしていて右とか左とか気にしない人たちを見つけることができるのは芸能界の中だけなんだ。そういうことさ。芸能界で俺たちがこういう気持ちを持ったときから、一人か二人のオピニオンリーダーと一緒に一つの考えのもとに集うことができて、そのほかのことはそれからついてくるんだ。

で、俺にはイヴ・モンタン(訳者注:俳優、歌手。1991年死去)がついていた。重要な人だ。ジャンジャック・ゴールドマン(訳者注:歌手)が「心のレストラン」のために曲を作ってくれると約束してくれた。彼は俺の友達であるルノー(訳者注:歌手)とならんで、フランスではディスクの売り上げをほとんどカバーしている。(…)
そこで、俺たちは内輪で集まって話し合った。RPR(訳者注:フランス共和国連合。保守派政党)の活動家が俺と一緒にいた。ダニエル・ギシャールとかジェラール・ルノルマン(訳者注:いずれも、歌手)のことなんだけど、彼らは本当に活動家で、保守政党の集会に出演して歌っている。俺はやらないけどね。彼らは政党の集会でジャック・シラクが登場する前にその前座として歌う。俺は彼らに言ったんだ。
「なあ、俺はこういう運動を始めた。だけど、俺を援助してくれたのは社会党の大臣なんだけどさ。」
彼らは答えたよ。
「そんなことは気にしない。僕らも行くよ。」
これこそが成功の理由の一つなんだ。なぜなら、こういうことは、物惜しみしない職業から始まるから。芸能人っていうのは、与えるのに慣れている職業なんだよ。(…)

ぜひとも、国にはできないことや国が上手にできないことを国がしなくてもいいようにしなくてはいけない。なぜかというと、将来、国を非難する材料が少なくなって、一つには国に対して話がもう少しいい感じですすむ可能性が高くなるから。そしてもう一つには、たとえばある男が食料品店に金を盗みに押し入ったと同時にハムを一本盗んだと新聞で報道されたとすると、そのことの悲惨さばかりを強調したいわけじゃないけど、みんなに食い物があるということが国の安全の基本であると俺は思うわけなんだ。それが基本なんだ。一日おきに食べ物に事欠く人間は腹がおかしくなって、社会を嫌うようになるかもしれない。だけど、そういう人間を恨むことはできない。腹が減ると身体的に不快なわけだから。(…)人生のある期間働いて、子どもがいて、子どもを養うことができなくなって、腹がそういうふうに減ったら…畜生…それは恐ろしいことだ。いずれにしても、俺は、そういうことは誰にも起きてほしくないと思っている。(…)

何が俺を動機付けるかって?わからない。たぶん、そういう機会にめぐり合わせたということなんだと思う。最初、俺には特に意図はなかった。俺はもう工場労働者を続けたくなくなったから、コメディアンをやり始めた。ギターを持ってレストランで歌い始めた。それから、カフェで出し物をやる人たちに会った。カフェの出し物がうまくいった。俺はがら空きの客席を経験することがなかったという意味で、芸能界の成功者になった。(…)
俺は1981年に大統領選に立候補した。当選しないためにね。なぜなら、俺が当選したいと思っていると疑われるわけにはいかなかったから。仮に当選していたら俺は怒っていたよ。いやな気持ちになっていただろうね。大衆は政治への関心を完全に失っていて、俺は政治が好きだったから、大衆を政治に関心を持ってもらう方法を見つけたと思ってる。そういうことなんだ。(…)俺がいちばん勇気づけられるのは、結果の効率なんだ。それで俺はいちばん楽しい気持ちになる。それが俺にはいちばん嬉しいんだ。俺はこの「心のレストラン」に多くの時間をさいている。だけど、これは本当に効果的なんだ。本当に嬉しいよ!

(1986年2月27日、コリューシュの記者会見の抜粋。上掲書より)

(翻訳引用ここまで)

この記事、(2)に続きます。



1件のコメント

[C120]

わお。当たったよ!

外国では、著名人が率先してお手本になるようなことしますさね。そういう意識が高い。
コリューシさんは、率直で魅力的な人ですね。

>みんなに食い物があるということが国の安全の基本であると俺は思う

ニホンの政治家に聞かせたい。。

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