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奨学金制度も「貧困ビジネス」に成り下がったのでしょうか



貧しい家庭の出身者でも高等教育を受けられるようにという趣旨だった奨学金制度。しかし、それは「小さな政府」指向の新自由主義カイカクの果てに、利益を出すことが求められる「業態」に転換させられて、無残な変質を遂げてしまいました。大学院を出て教育職、研究職になった(なろうとしている)方と思われるe_and_rさんのブログ記事↓をお読みください。

●Artistic & Academic, Ecology & Humanology
[現代社会] 堕ちるところまで堕ちた奨学金制度
http://d.hatena.ne.jp/e_and_r/20081211

 もはや学生支援機構は、”奨学金”という言葉を廃し、”教育ローン”とでも呼んだらどうか。利子は当然、しかも、金を借りておいて返さないのは悪いヤツ、というわけか。

 この制度の方向性が続けばどうなるか。奨学金の返還の遅滞が起こるのは、当人の自己責任だ、ということか。就職できないやつは、奨学金を借りる資格がない。奨学金を借りたいと言うなら死んでも就職しろ。就職する自信が無かったら奨学金を借りるな、ということである。

 ――いまや、教育の機会均等という理念は失われつつある。そして、院生の人間的な自立の保証は閉ざされつつある。

 奨学金のハードルが高くなれば高くなるほど、経済力のある家庭の子どもしか、大学以上の教育を受けることはできなくなる。やる気がなくても金持ちの息子は高学歴になる事ができ、やる気があっても貧しい息子は学歴を積む事ができない。そうすると、明白なことに、貧困が世代をこえて再生産され、格差はいっそう拡大する。これは、教育の機会均等という奨学金制度の出発点にあった理念の崩壊である。
(中略)
 はっきり言おう。高等教育は、国家による富の再分配が無ければ、確実に維持できない。そして、”奨学金”なるものの本質が、教育の機会均等を保証し、また学生・院生の健全な自立を保証する役割をになっているのだとすれば、それは経営の精神では確実に維持できないのである。民営化による経営化によって生じる目的と、これらの社会的な目的は、しばしば両立できない。そのことを、いまだからこそ、改めて主張しなければならない。

(引用ここまで)

ため息が出てしまいます。貧困者から搾り取る「事業」が「貧困ビジネス」と表現される機会がますます増えていますが、取立てのきつい「教育ローン」と化した奨学金制度もまた、「貧困ビジネス」と呼ばれるにふさわしい変質をとげてしまいました。これは長期にわたって教育の衰退をもたらすことでしょう。そして、教育の衰退は人々の知力・能力の衰退となってあらわれます。そして、人々の知力・能力の衰退は国の衰退でもあります。知力・能力の衰退は目にはなかなか見えにくいだけにやっかいですし、それが具体的現象としてあらわれたときにはもう遅すぎる、ということになるはずです。

そのことに思いをいたせないほど日本の知力が衰えたのでなければ幸いなのですが。

もう一つ、こちらの記事もぜひお読みいただきたいです。

●教育基本法の再改正を求める会
奨学金の返還滞納の件について
http://kokoro-no-jiyuu.blog.so-net.ne.jp/2008-10-10

いろいろ考えたのですが、私がひっかかるのは次の2点にまとめられるように思います。
1.教育費として個々の家庭が多額の費用を負担しなくてもよい社会ができ得る可能性がほとんど論じられていない
2.返さない人の心的原因を個人のモラル低下にばかり求めている
(中略)
2については、返さない人は常識はずれの「悪者」のような論調がありますが、はたしてそうでしょうか。人がやさしくなるためには、小さい時からまわりの人にたっぷりとやさしくされる体験を積むことが必要です。人が他者の権利を重視するようになるためには、自分自身がたくさんの権利を持ったかけがえのない人間であるという安心感が必要です。

民主主義の発達した国では、(自民党のいうような)国民の責務や規範意識を持ち出すずっと前の段階で、「あなたにはこういう権利があります」ということを小さいうちから教えます。そして自分を大切にすること、いまよく言われる自尊感情を育んでいくなかで、他者にも自分と同じように権利があるということに気づかせて、他者を尊重すること、社会のシステムを維持・向上させていくことを学んでいきます。

その基本となる自分を肯定する気持ち、つまり自分は家族から、まわりの人から、社会から大切にされているという土台なしに、付け焼き刃のように道徳のモラルの・・・とばかり言っていないでしょうか。

自分を肯定する基礎がないところに、いくら外から「きまりを守れ」「ルールだからきちんとしなさい」と言ったところで、その効果はきわめて薄いと思います。もしもかたちだけ「規範」にしたがっても心がついていっていないわけですから、ほんものではないでしょう。

奨学金の「モラル低下」を論じるのであれば、そこまで掘り下げる必要があると思います。不道徳な人間が増えた→道徳教育を厳しくしようというような単純な図式で人間は動くものではないと考えています。一人ひとりを大切にする。即効性はなく、目にみえる効果がすぐに現れるものではないと思いますが、十年単位、世代単位で考えたとき、日本の教育(学校だけでなく、家庭・社会も)はそのように変わっていかない限り、目に見える「不道徳」を叩くだけでは解決につながらないと感じます。

(引用ここまで)

このブログ「教育基本法の再改正を求める会」を書いていらっしゃるまいさんは奨学金の返済をとどこおらせる人たちのことについて単なる「モラルの低下」を超えた原因を求めています。

私もまいさんと似た方向の考えを持っています。現実問題として、貧富の格差が拡大し、奨学金を得ても安定した職につけるかどうかはわからない状況がだんだん目だって来ています。大学院まで行こうとすれば、道はさらに狭まります。個々人のモラルを問う前に、貧困の毒牙にかかる確率が高まっている以上、「モラルの低下」という結論だけで満足していては何も解決しない、そう私も確信します。

そもそも、「モラルは低下していると思いますか」という問いで世論調査をすれば、半分以上が「モラルは低下していると思う」と答えるでしょう。自分のモラルが低下していないと当然のように思い込みながら。だけどおかしいですよね。人口の半分以上が「(他人の)モラルが低下している」と考えるなら、他人のモラルが低下していると考える人自身も人口の半分以上の人々によって「モラルが低下している」とみなされていることになりませんか。笑

「モラルの低下」と問題を他人事としているうちは何も解決しません。まずは、なぜ奨学金が返せないのか、個々の事例を具体的に冷静に調査すべきでしょう。なかには悪意のある意図的な踏み倒しもあるかもしれません。しかし、私は、貧困ということが大きな原因だと予想するのです。

「Artistic & Academic, Ecology & Humanology」ブログの著者、e_and_rさんは「高等教育は、国家による富の再分配が無ければ、確実に維持できない」と指摘しています。現実に、西欧諸国の多くでは高等教育は無料が原則になっています、今のところ。(たとえばフランスで大学が独立法人のような形に変えられつつあり、「高等教育無料」原則は一部崩れつつあるかもしれない、という意味合いで「今のところ」という言葉を入れましたが、もともとの原則は「高等教育は無料」であることに変わりはありません。)それと比べると、日本の高等教育は本当に教育の機会均等を保障しているのかどうか、国家による富の再分配が新自由主義で崩された今、真剣に再考しなければなりません。

教育が多くの国民にいきわたらないことは、多くの国民が社会の中で自分の能力を発揮する機会を閉ざされることになり、それらの人々の生きる力は弱められることになります。それは直接、日本全体の知力や創造力の衰退がかかった問題となってはねかえってくるのです。

そんな中、奨学金制度が「貧困ビジネス」のようになったことは、日本という国を突き崩す、たいへん恐ろしいことではないでしょうか。



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6件のコメント

[C5674] 貸した奨学金は返らない

 そのmaiさんのブログコメント欄に書いたことですが、奨学金はたぶんこの世でもっとも踏み倒されるリスクの高い融資です。借りるのは貧乏人の小せがれや小娘たちなんですから。
 だからこの問題の答えは、奨学の理念を守って採算はあきらめる=貸した奨学金は返らないものと観念するか、採算を守って奨学の理念はあきらめる=貧乏人は学校へ行くなと観念してもらう、の二者択一しかありません。

[C5677] 返還

私も育英会の時代に奨学金を借りて返済をしております。
毎月の返済を振替にしているのと手紙などのお知らせを親の住所にしていたので、あまり気にせず過ごしていたのですが、今はこんなことになっていたんですね。
私が滞りなく返済できているのは、常勤雇用で急にリストラをされることもなく今まで働けているからです。
そういうことなんだと思います。
  • 2008-12-27
  • 投稿者 : 六月
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[C5679] 昔は

国立大学の授業料が36000円/年でした。
(同じ学年の京都府立大学生は12000円だった)

バイト代は、書籍の購入に回せた時代。

いま、国立で50何万円。私立で100万円とかいう時代に、ローン頼り、というのがそもそも教育の貧困を物語ってます。

 そもそも、教育を「受益者」と考えてる姿勢は、
人材育成が「金儲けのテクニック」だという前提。
 東大を目指す人達が、「貧乏人を搾取して偉そうにする目的」だと考えてるとしたら、とんでもないことです。
  • 2008-12-27
  • 投稿者 : ×第二迷信
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[C5699] >shiraさん、六月さん、×第二迷信さん

みなさん、いつも有益なコメントありがとうございます。

>shiraさん
教育とはなんのためであるかを考えたら、そもそも教育にこれだけ個人のお金がかかることが間違っていると言えると確信します。あえて功利的な言い方をするなら、「貧乏人は教育を受けることをあきらめろ」という政策が長い間徹底されて、教育を受けなかったために自ら考える力や自ら調べる態度がとぼしい層が増えてしまったら、それは確実に国力を削ぐことになり、取り返しがつかない事態になる、ということなのだと思うのです。

>六月さん
奨学金と貧困問題がリンクしているだけでなく、あらゆる問題が貧困・格差問題とリンクしているのを感じます。犯罪と貧困・格差の関係もそうなのだと思います。

>×第二迷信さん
>そもそも、教育を「受益者」と考えてる姿勢は、人材育成が「金儲けのテクニック」だという前提。
>東大を目指す人達が、「貧乏人を搾取して偉そうにする目的」だと考えてるとしたら、とんでもないことです。
「としたら」ではなくて、現実にそうである可能性が高い...。
(たとえば)東大を出て高い地位についた人たちは完璧な「受益者」なのだから、特別に高い税金を払って社会に還元すべきだ、とも言えると思います。
  • 2008-12-29
  • 投稿者 : 村野瀬玲奈
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[C5701] 旧育英会の奨学金を返し終わった日に

貧困ビジネス……本当に「貧困である」人に育英資金が貸し付けられているならば、誰も文句は言わないです。
実際は笑ってしまいますよ。
ちょうど今日日本育英会から借りていた第一種奨学金(無利息)を完済したので、気持ちも楽になったから内幕を暴露してしまいますが、第一種奨学金の対象者を選ぶときには、明らかに親の収入・資産とは無関係なシステムになっています。
大学院だと、入試(試験)の点数順です。
私の家庭は、「大学院くらい行かしたるわ」と鷹揚に言ってもらえる程度には裕福でした。けれど、それも悪いし……と月額7.5万円の奨学金をもらったのです。もらえるように、院試前に無茶苦茶に勉強したのは、今となっては遠い思い出(苦笑)
そして、噂通り、成績順に奨学金が要りますか?と学部の事務局から問い合わせがあり、審査もなにもないまま、受給が決まったのです。当時の育英会の規則だと、確か親の年収の上限があったと思うのですが、それもウヤムヤ、どころか、届け出た記憶もありません。

その時ですら、強いて言えば必要もないのに、申し訳ない、とは思っていました。
当初100万円を超えるお金を15年返済の条件で無利子で借りていたことに、いまさらながら懺悔の気持でいっぱいです。非難も甘んじて受けます。

けれど、日本で福祉と呼ばれるものが、本来の意味での弱者に届かないようなシステムになっている、何よりの証拠だと、告発します。
  • 2008-12-29
  • 投稿者 : デルタ
  • URL
  • 編集

[C5818] 誰が教育の受益者なのか?

 という記事を書きました。よろしかったらお読みください。
http://sshshouron.blog.so-net.ne.jp/2008-12-27
 教育の受益者は生徒保護者ではなく、企業であり社会であり一般の人々であり、つまり国である。従って教育費は受益者たる国が負担すべきであると、そういうお話です。

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村野瀬 玲奈

Author:村野瀬 玲奈
日本の民主主義化運動のため、国会議員、行政機関、マスメディアに主権者、納税者、生活者の声を届けるお手伝いをするサイバー政治団体(笑)「世界愛人主義同盟」秘書。護憲派アマゾネス軍団労働組合所属(笑)。派遣秘書としてこちらにもときどき勤務(笑)。
この秘書課広報室備え付けの国会議員の政党別・委員会別・都道府県別などの名簿の一覧と使い方はこちら。たとえば、非正規労働を正規化せよと民主党幹部に要望の投書をするなど、ご活用ください。名簿の最終更新日は2008年1月23日。
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憲法は国の誤りと暴走から国民を守る基本法

憲法は、国から国民への命令書でも「日本の伝統」の定義文書でもありません。

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「壊れる前に...」のうにさんのアイデアをもとに「Gazing at the Celestial Blue」の碧猫さんが作製。一方、国民主権や基本的人権を制約することをめざす自民党新憲法草案全文(2005年10月28日発表)はこちら。(1946年現憲法との比較付き。) 自民党新憲法草案(2005年10月28日発表)と現憲法(1946年憲法)とを読み比べするシリーズ記事はこちら。 ジャッカルさんによる自民党新憲法草案全文(2005年10月28日発表)徹底検証はこちら。 護憲派アマゾネス軍団で遊びたい方は、まずこちらの案内をお読みの上、こちらこちらでお待ちしています。

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Like a rolling bean-Tsukiji_SOS_logo4_small
(↑Please read this link, so that the world-famous Tsukiji fish market should not be relocated to an old gas works site at Toyosu, highly polluted with multiple contaminants.)

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children_of_gaza_by_shady111

(from deviantART "Gaza")

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1981年9月17日、フランス国民議会、死刑廃止法案の審議における、法務大臣ロベール・バダンテール Robert Badinter の演説から引用)
死刑についての当秘書課広報室の記事はこちら
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